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白龍山の主

 戦闘態勢のまま少しずつ先に進み、オーガの様子を覗き見ると、報告の通り3体のオーガが居る。レベルは右から43,45,42で、45の奴だけが胸部装甲が厚く女性型のようだ。

 オーガは全高2メートルを越える、鬼というよりはゴリラに近い見た目をした魔物である。背を丸めていても2メートルで、背筋を伸ばせば3メートル近くはあるであろう巨体だ。胸のほうもそれに見合った大きさであり、かなり豊満ではあるが、ぜんぜん嬉しくはなかった。


 オーガが居る広場は、地下水路の所々にある休憩所であり、避難所でもある場所だ。水路側面の足場は通常3メートルほどの幅であるが、ここだけは15メートルほどの幅があり、天井も高く作られている。大雨で増水した際は、ここで水が引くのを待つのだ。


 それはともかく、今はオーガだ。オーガのパラメータは筋力と耐久は俺の約2倍、敏捷はコテツ以上、俺以下といったところだ。ただこのパラメータも、こう体格差があるとどこまで参考になるか分らない。

 例えば同じ敏捷値だった時に、どの速さが同じになるかにもよるだろう。同じ敏捷値で、1歩に掛かる時間が同じだとすれば、歩幅の違いで実際の速さはだいぶ変わってしまうだろう。筋力値だってそうだ、値が同じでも体格が大きいほうが有利な気はする。敏捷のパラメータが上回っているからといって、決して油断は出来ない。


「まずは俺達が突入するから、その後、1匹引っ張ってくれ」

「はい、お互い全力でいきましょう」


 キュロスが先陣を務めてくれるらしいので安心して見ていられる。


「お前ら、行くぞ!」

「「「「応!」」」」


 そう言うと直ぐ、キュロス達が突っ込み、俺達もその後に付く。キュロスが女性型のオーガを、キュロスの部下のおっさん騎士が一番弱い個体を相手にしている。コテツは残ったレベル43のオーガに、槍で渾身の一撃を加えた。


 コテツの槍がオーガの脚に刺さるが、貫くことは出来ていない。オーガの丸太のような右腕の一撃が来るが、コテツは槍を掴んだままオーガの腹を蹴りつけ、その勢いで槍を抜いて防御する。オーガの拳を槍の柄で受けたコテツが、水平に吹っ飛んでいく。

 続いてアンズも側面から切りかかり、コテツが体勢を整えて復帰するまで、注意を引き付ける。コテツが復帰した後は、2人で注意を分散させつつ、見事にキュロス達からオーガを分断した。


 見たところ、コテツとアンズの攻撃は初撃を除いて、皮1枚を傷つけるのがやっとで、攻撃した箇所も血が滲んでいる程度だ。早く俺も攻撃に加わるべきだろう。俺は自分の武器に魔法の風を纏わせて、側面から攻撃する。本当は背面から攻撃したかったが、オーガの後ろに充分な空きスペースが無かったため、妥協しての側面攻撃である。


「フヌ!」

「ギィィヤァー!」


 分厚いタイヤを切るような感触に、気合いを入れて剣を振りぬくと、俺はオーガの左腕をどうにか切断することに成功する。そして、攻撃に気付いたオーガが、俺の方に振り向いてきて、執拗に攻撃を仕掛けてくる。


 ヤバイヤバイヤヴァイ、ヘイト取り過ぎた!


 コテツとアンズが注意を引こうと、側面から挟むように攻撃を加えるが、オーガは2人を無視して俺を攻撃し続ける。俺は少し余裕を持って避けることが出来ていたが、目の前を通り過ぎる巨大な拳と、空気を割く音が恐ろしく、反撃する精神的な余裕が無かった。


「てやぁ!」


 その時、オーガの左側面から可憐な声と共に飛び出したのはスズだった。スズは、オーガの手前でジャンプすると、オーガの左肩に取り付き、右手の剣で頭部への攻撃を始める。

 これには流石のオーガも嫌がったのか、スズを振り落とそうとするが、俺も黙って見てはいない。残ったオーガの右腕や、脚に切り付けて、ダメージを与えつつ注意を引く。コテツとアンズは、無視されているのをいいことに、大振りでの威力重視の攻撃に切り替えることで、オーガに出血を強いていた。

 幾度か四方からの攻撃を受け、オーガの注意が逸れたのを見逃さずに、俺は残った右腕を切り落とす。そのまま止めとばかりに、胸の中心からやや左を剣で貫くと、オーガは断末魔を上げて地面に崩れ落ちた。


「助かったぞスズ、でも、さっきのは無茶だったんじゃないか?」

「ううん、あれくらいなら、ぜんぜん平気だよ」

「それならいいんだが。おっと話をしてる場合じゃなかったな」


 こっちは終わったが、まだキュロス達は戦闘中だ。キュロス達のほうを見ると、既にオーガの1体は倒されており、残りのメスオーガを囲んでいるところだった。倒すのも時間の問題だろうし、下手に手を出して連携を乱すことも無いだろう。


「あっちは大丈夫そうだな、スズとコテツは傷の手当をしてきてくれ。その間、俺とアンズは警戒だ」

「うん、すぐ戻ってくるね」


 スズとコテツが後方に戻って傷の手当をしている間、俺は高みの見物としゃれこもう。キュロスはオーガと正面から打ち合っており、一歩も引いていない。時より隙を見ては、周りを囲んだ兵達が渾身の一撃を放ち、キュロスの対応で精一杯のオーガは、攻撃をまともに食らうしかない。そうやって、俺達がオーガを倒してから5分もしないうちに戦闘は終了した。


「お疲れ様です、キュロスさん」

「お疲れ様、思ったより強かったんだなお前ら」

「はは、けっこうぎりぎりでしたよ。それより、倒したオーガはどうします?」

「収納に空きも無いしな、お前達の好きにしてくれ、俺達は司祭殿達を連れてこよう」

「では、お言葉に甘えておきます」


 キュロスさん達がニコラスさん達を連れてくるまでの間に、袖口からナオちゃんの一部を出して、オーガ3体を異次元収納に放り込んでおいた。


「流石じゃのお主達、もうすぐ出口じゃが、外に出ると魔物の領域じゃ。ここらで睡眠を取っておこうかの」


 ニコラスさんの言葉に、俺達もキュロス達も同意し、野営と食事の準備を始める。正直のところ、このまま寝てしまいたいくらいに疲れていたが、俺にはまだやるべきことがあった。


「ニコラスさん、少し外を偵察してきていいですか?」

「ふむ、お主1人で行くのか?」

「はい、1人のほうが隠れやすいですしね」

「そうか、それなら頼むぞい」


 ニコラスさんの許可を取り、スズ達にそのことを告げる。


「軽く偵察に行ってくるから、留守は任せるぞ」

「また1人でいくの? むぅ……仕方が無いから頼まれてあげる」


 スズは不承不承ながらも承諾はしてくれた。隠密性の高い任務だと、足手まといになってしまうというのを理解してくれているようだ。実のところ今回、隠れる必要は無いのだが、連れていくわけにはいかないので黙っておく。

 

 俺は1人で広場を先に進み、5分も進まないうちに、外の光が見えてくる。そのまま先に進み、地下水路から外に出ると、目の前には大きな湖が広がっている。水面に反射する日の光が、暗闇に慣れた目に痛いほどに眩しかった。


 俺は敢えて身を隠さずに、湖に近寄り水底を覗き込むと、湖の奥底に言い知れぬ力のような物を感じる。水底に巨大な影が見えたと思ったら、頭の中に低い男性の声が響いた。


(ようあんた、俺の声は聞こえるか? 聞こえるなら聞こえると念じてみてくれよ。あんただろ俺の意識に干渉してるのは)

(えーっと、聞こえてますよ。これで届くんですかね?)


 やっぱり見つけられちゃったか。黒龍と会った時の事を思うに、固有スキルが自動で発している認識阻害のせいなんだろうな、きっと。今回は助かったが、そのうち、上位者相手に居場所がバレバレで困ることになりかねない。固有スキルの発動を意図的にコントロールできるかは今後の課題だな。


(おぉ! 久しぶりの人だよ。んでさ、もしよかったら俺のお願い聞いてくれたりしない?)

(その前に、自己紹介とかしませんか? 私はアスラと言います)

(ああ、人なら自己紹介が必要か。わりぃな、俺達、龍族にはその習慣が無くてな。俺のことは白龍とでも呼んでくれや)


 やはり白龍だったか、それにしても随分とノリの軽い龍だな。もう少し老獪な感じかと思っていたよ、まあ、話しやすくていいけどさ。


(それでは白龍様、私は何をすれば?)

(封印を解いてくれないか? 外と念話ができるほどに封印が弱まっている今なら、あんたでも封印を解けるはずだ)

(なるほど、ですが封印されているということは、何か仕出かしたのですか?)


 太陽さんからは解除してやってほしいと言われているが、害が無いか確認しておく。


(いやそれが聞いてくれよ、俺はエストの守護龍なんてのを200年近くやってたんだが、300年前にエストが凶悪な魔物に襲わたんだよ。なんとか倒してやったんだが、街に被害も出たし、流石の俺も無傷とはいかなくてよ、弱ってる間に封印されちまったってわけだ。油断した俺も悪いんだが、助けた奴らに封印されるとは思わんだろ)


 何とも酷い話だが、凶悪な魔物も倒せてしまう白龍が、怖くなったのかもしれない。街に被害が出たってことは、白龍と魔物の戦いのとばっちりを食らって逆恨みしたのかもしれない。黒龍と会ったことがある俺としては、街の人の恐怖も分からなくはない。だからと言って助けてもらった相手を封印するなんて、賛成はできんがね。


(なんでまた守護龍なんてやってたんですか?)

(それはな、エストレアのためさ。あれは本当に良い女だった)

(はっ?)

(エストレアだよ、500年前にエストの街を興した女だぞ、知らないのか?)


 エストレアって確かエスト教の主神の名前だったか、実在した人物なんだな。それにしても1人の女のために街を守り続けるだなんて、一途な龍もいたもんだな。


(エスト教の主神の名前が、確かエストレアでしたね)

(エスト教? 主神? そんな事になってたのか。あいつが聞いたら爆笑するだろうなぁ)


 俺がエストレアについて教えると、白龍は昔を懐かしむようにひとりごちる。どうも悪い奴では無さそうに思えた。


(念のため聞きますが、封印が解けたらどうするんですか?)

(信じてくれるかはわからんけど、故郷に帰るつもりさ。俺を封印した奴らはとっくに死んでるだろうし、その子孫に仕返しすんのも、何か違うだろ?)

(信じますよ。封印を解くのに協力させてもらいますね)


 この白龍、純情一途なバカだと思いきや、それなりに成熟した精神を持っているな。こんな長く封印されていたのだから、誰彼構わず恨んでもおかしくは無いのに、それを飲み込む度量もある。それに個人的に考え方にも共感が持てる、先祖の罪を、子孫にまで償わせないというのは賛成だ。親は子を産むことを選べるが、子は自ら望んで生まれるわけでは無いのだから。


(助かるわぁ、そんじゃ今から言う位置の、封印石と結界石を取り除いてくれよ)

 

 白龍に教えられた場所に行き、地面を少し掘り起こすと、地下へ続く階段が現れる。地下に降りると、頑丈そうな扉があった。扉には鍵がかかっているようだが、錆び付いて脆くなっていたようで、魔法で強化した剣で強引に破壊することが出来た。扉を開けて中に入ると、石壁に半ばまで埋まっている、大きな丸い石が2つあるのが見て取れた。


(壁にめり込んでる石ですよね、これって何かに使えたりしませんか?)


 破壊してしまっても良かったが、それだとタダ働きになってしまうからな、白龍に報酬を強請るのもどうかと思うし、使えるなら貰っておきたい。


(どっちも古いからなあ、ちゃんとした手順を踏めば補強もできるが面倒だぞ。結界石は魔物除けくらいにはなるが、封印石は……漬物石くらいにはなるんじゃね?)

(なるほど、一応貰っておきますね)


 結界石は便利そうだし、封印石のほうは、まあそのうち何かに使えるだろう。


 石壁を剣で少しずつ削り、結界石と封印石を取り出す。封印石はナオちゃんに収納してもらい、結界石は革袋に入れて、自分の腰に括りつけておく。


(これで封印は解けるんですか?)

(封印の要は無くなったから、あと3ヵ月くらいで完全に解けるぜ)


 3ヶ月かあ、流石に待ってられんな。まあ、よくよく考えると、直ぐに封印が解けなかったのは良かったかもな。俺達が居なくなってすぐに、白龍の封印が解けたとかだと怪しすぎるし、この3ヶ月ってのが良いカモフラージュになるだろう。


(3ヶ月ですか……申し訳ありませんが、私は直ぐに北に行かないといけません)

(そっか、もう少し話したかったけど仕方無いな。そのうち礼をしに行くから、楽しみにしとけよ)


 龍からのお礼か……ぐふふ、楽しみでならない。まあ、お礼参りじゃないことだけは祈っておこう。


(それは嬉しいですね、楽しみにさせて頂きます。それでは失礼しますね)

(俺も力を使って疲れたから、しばらく眠るわ。またな)


 白龍がそう言うと、精神的なつながりのような物が断たれたような感じがする。用も済んだところで、地上に出て、湖の周囲を簡単に偵察してから地下水路に戻った。



 地下水路の広場に戻ると、思ったより時間が掛かったせいか、スズ達が俺を追って外に出ようとしている所であった。入れ違いにならなくて良かったと思う。



 この後、スズから小一時間ほど涙ながらの懇願だかお説教だかを受けて、俺はろくに眠れぬまま、逃亡3日目を迎える羽目になる。パラメータが通常より高い俺だが、流石にそろそろ限界だ。決めた、今回の件が落ち着いたら、しばらく寝て過ごすぞ!



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