表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/113

調子に乗った報い

 囚われている少女達を見ると、特異な特徴を持つ子も多く、様々な種族の少女達が囚われているようだった。中にはハーピーのように腕が鳥の羽になっている少女も居る。


 この子ってもしかして、マルコが捕まえてきたハーピーの子供か?


 ハーピーの子供は片方の羽が半ばで折れている。昨日の今日でこの状態だ、これ以上の犠牲者が出る前に、あの司教は早く殺さないと。


 彼女たちを見ていると、行き場のない感情が湧き上がってくる。それが怒りなのか義侠心なのかはわからないが、今は動くべき時だ。彼女達の肢体から目をそらし、気を取り直す。


 隠密用の補助魔法セットを掛けなおした俺は、部屋から出て屋敷の探索を再開する。周囲を探索すると、少女達が捕らえられている部屋は屋敷の奥にあり、周囲には窓も無く、容易に逃げられそうもない場所だった。


 それにしても広い屋敷だ、どれだけの人から血と財を吸い取れば、これだけの屋敷を立てられるんだろね? 何の情報も無しに探索するのは、さすがに無謀だったかもしれない。


 どれくらいの時間探しただろうか、1時間は経っていないとは思うが、数分ということは無いだろう。目的の人物はまだ見つかっていないが、見覚えのある人物を発見した。


「ぐふふ、まったく濡れ手に粟というのはこのことだな。ハーピーの子供と、子供の情報でこれだけ儲かるとは、司教様様だな」


 部屋の中で、熱心に金貨の枚数を数えていたのは、商人のマルコだった。良い機会だから、助けた御礼を徴収しておこうと思う。

 部屋に忍び込んだ俺は、マルコの後ろから忍び寄り、首に剣を突き付けて話しかけた。


「やあ、マルコさん。御礼を頂きに参りましたよ」

「もっ、もしや、アスラさんですか!?」

「お静かに願いますよ。うっかり手が滑ってしまうかもしれません」

「……わかりました。何をお望みでしょう?」


 物分かりが良すぎる気もするけど、まあ、今は話を進めるとするか。


「司教様は何処においでですか?」

「……教えますので!、命だけは助けてください」


 躊躇するマルコに、剣を少し押し込むと、司教の居場所を話してくれる。司教は西の別館に居るとのことだった。


「今言った場所、嘘じゃないでしょうね?」

「神に誓って、嘘ではありません」

「まあいいでしょう、私のことは内緒でお願いしますね」

「もちろんです。私は何も見ませんでした」


 司教の居場所を聞いた俺は、部屋から出た後、影に隠れてしばらく待つ。司教の居場所は聞いたが、信じられたものではない。悪人や犯罪者というのは、社会の最低限のルールを破るからそう言われるのだ。最低限のルールも守れない奴が、約束を守ると信じるほど、俺はお人よしではなかった。


 しばらく待つと、部屋の中からマルコが出てくる。後を付けると、どうやら地下に向かっているようで、ある一室の前に来ると、扉をノックする。


「司教様、私ですマルコです。屋敷に侵入者です、すぐに手配をお願いいたします」

「詳しく聞こう、まずは入れ」


 司教が別館に居るというのは、やはり嘘だった。この商人は生かしておいても、俺たちのことを、また誰かに話すかもしれない。こうやって案内してくれたのだから、苦しまないよう一撃で逝かせてやろうじゃないか。


 やっと見つけたぞ、豚司教め、待ってろ今殺してやる!


 俺は、マルコの背に隠れるようにして部屋に侵入する。侵入する一瞬でわかったことは、部屋の中に、豚司教と護衛が1人、あと少女と幼女がいることくらいだ。


 魔法とスキルで隠れているとはいっても、目の前にすれば直ぐに気づかれる。今は違和感を感じる程度でも、違和感は疑惑に、疑惑は確信に変わる。一度居るとばれてしまえば、再度隠れることは難しいだろう。人の錯覚を利用したクイズも、一度解けてしまえば、二度目から簡単に解けるのと一緒だ。


「それでマルコよ、侵入者とはいったい誰の事じゃ? よもやアルゴ達が失敗したわけでもあるまいな」

「それが……」


 マルコが答えようと口を開いた瞬間に、俺は行動を開始する。目の前のマルコを、一刀のもとに切り伏せた後に、返す刀で司教に切りかかった。


「危ない!!」


 少女の声にハッとした俺は、間一髪のところで護衛の一撃を避ける。急所を外すことはできたが、横っ腹を薄く切られてしまった。


「ウグッ!」

「よくやった、サムソン! そのままワシを守れ」


 呻き声を上げた程度で抑えられたのは、我ながら良くやったと思う。それほど深い傷ではないはずなのにめっちゃ痛い。今まで、ろくに攻撃を受けずに戦っていた弊害だな。


 俺は豚司教に意識を集中するあまり、完全に護衛のことを忘れてしまっていた。よく見ると、この護衛、以前に見たハゲである。鑑定する暇はないが、たしかレベルは47で、敏捷値以外は俺より高かったはずだ。こうして向かい合っているだけでも、相手の強さをひしひしと感じた。


 どうする俺? まともに戦って勝てる可能性は低い、勝てたとしても時間が掛かったら、援軍が来て俺の負けだ。どうにか一瞬の隙を作って、司教だけ殺して逃げるか?


 そのとき、声を上げて助けてくれた少女、ノルンさんと目が合った。


 そうだ、俺はノルンさん達を助けに来たんじゃないか。俺は正義の味方なんかじゃない、いったい何を勘違いしてたんだ俺は? 刺客を送られたんだから、司教を殺せれば殺すが、今回はノルンさん達のほうが優先だ。助けようとした人を忘れて、その上、助けられてしまった。情けないにもほどがあるだろう。


「この豚め、殺してやる! 『ダークミスト』」

「させるか! 司教様、下がってください」


 自分を取り戻した俺は、護衛を挑発して司教に注意を向けさせた後に、魔法を使って部屋の中を闇で満たす。護衛のハゲが司教の守りに専念している間に、俺はノルンさんとシンシアちゃんを小脇に抱えて、部屋から逃げ出す。シンシアちゃんは人が死ぬ瞬間を見たせいか気絶していたし、ノルンさんは俺が敵じゃないことを察しているのか、抵抗されることはなかった。


「待て貴様等! もの共、曲者じゃ、であえ!であえ!」


 待てと言われて待つ奴はいない、それに後ろから迫ってくる足音は、あのハゲだろう。敏捷値は互角だが、抱えている2人分の差があるため、徐々に距離を詰められていく。『ダークミスト』を乱発して、目くらましをしつつ、1階に上がり屋敷の出口に向けて走る。


「このままだと追いつかれます、私のことは置いて行ってください! その代わり、その子をお願いします」

「恩人を見捨てられるか!」

「私は人ではありません……見捨てられても文句は言いませんので」

「そんなん知るか、黙って運ばれてろ!」


 ノルンさんの我が身を顧みない言動を却下し、暗い廊下をひた走る。しかし、もうすぐ屋敷の外に出れるというところで、警備兵に前を遮られてしまった。


「貴様が侵入者か! その子達を離せ、この人攫いめが!」


 もう少しというところで、一番厄介な相手につかまってしまった。護衛のヒゲさんだ、こいつには勝てない。瞬時に『ダークミスト』を掛けて目くらましをし、踵を返した俺は、とにかくこの場を離れる。


「くっ、卑怯者め、待て!」


 待てと言われて以下略、前門のヒゲ後門のハゲだ。やばい、こいつは詰んだかもしれない。


 逃げる方向には、少女達の監禁部屋があり、このあたりには窓や外に通じる出口は無い。壁を破って逃げようにも時間が掛かるだろうから、壁を壊している間に、後ろからバッサリやられて終わりだろう。



 今までさんざん人を疑って来た俺が、何言ってんだって、言われるかもしれないが、こうなったら最後の手段だ。正直、神頼みに近い行為だが、たまにはそういうのもいいだろう。



 このとき俺には、どうやってヒゲの善意に付け込む、否、縋ろうかと考えながら、屋敷の奥へと逃げ込むことしかできなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ