迎撃戦は積極的に
4/9) 最初の戦闘を少し修正、修正前の『スリープクラウド』が強すぎたので、格下以外はある程度抵抗できるようにしました。
マシロの話を聞く限り、敵はこの宿を囲むように、3方向から迫っているとのことだ。敵の数は6人ないし7人で、戦力的にこちらが不利だ。
さて、どう対処すべきか。こうして考えている間にも、状況は不利になっていくばかりだ。やはり戦力が分散している間に、各個撃破といくべきだろうか。
「コテツ、アンズはここで迎撃だ。マシロとスズは周囲の警戒と、コテツ達の援護を頼む。敵が強ければ防御に徹して、決して無理はするなよ」
俺が小声で支持を送ると、皆、無言で頷きを返してくれる。
「俺は少し様子を見てくるから、スズ、敵が来たら『シグナル』で俺に知らせてくれ」
「わかった、気を付けて言ってきてね」
無属性魔法の『シグナル』はパーティメンバーに自分の居場所を知らせることができるもので、味方に危機を伝えることも出来るのだ。支持を与え終わった俺は、マシロから敵の大まかな場所を聞いてから、自身に小声で補助魔法を掛けていく。
ちなみに、自身に掛ける補助魔法は、小声で詠唱しても充分に効果が発揮される。これが攻撃魔法となると話は別で、魔法を遠くまで届かせるためには、大声で詠唱する必要がある。そのため攻撃魔法を使うと直ぐに敵にバレるので、奇襲には向いていないのだ。
『ダークサイト』で闇を見通しを、『ハイド』で闇を身に纏う。『エンチャントダーク』を掛けた剣の刀身は闇に包まれ、威力も上がるし、光を反射することも無い。『デオドーラ』と『サイレンス』で臭いや音が外に漏れることも無くなる。最後に隠密スキルを意識することで、自分の存在が薄くなるのを感じる。
スズ達に見せるのは初めてではないが、目の前に居るはずの人間を知覚できなくなるのは、流石に慣れないらしく、戸惑いの表情が見える。そんな中、マシロだけは、俺の居場所を見失って居ないようで、感知能力の高さがうかがえた。
完全に闇に紛れた俺は、宿の窓から外に躍り出て、隣の民家の屋根に飛び移る。今夜は満月だ、血のように赤い月が夜闇を照らしている。
3方向の内、宿の正面側から来る敵はたぶん3人で、1人は感知しにくい相手だそうで、きっと手練れであろう。そのため、まずは宿の裏側と側面側から来る、4人を潰すつもりだ。
宿の裏側方向に、屋根伝いに少し進むと、蠢動する2人の気配を感じる。気配の直上に忍び寄り、月明かりに2人の影が出来た瞬間に奇襲を掛けた。
「『シャドウバインド』、『スリープクラウド』」
『シャドウバインド』で影を縫い付け、相手の動きを止めて、『スリープクラウド』で敵を眠らせる。2人はしばらく抵抗したが、しばらく待つと眠りに落ちてくれた。
安全を期すれば、殺しておくべきなのだろうが、宿から離れていることもあり、万が一、こちらの勘違いであることを考え、眠らせるだけに止めておく。
一応、2人を鑑定すると、レベルは30程度でスキル構成やモラル値の低さを見るに、刺客の可能性は高いだろう。
そうこうするうちに、スズから無属性魔法『シグナル』での合図が入り、急ぎ宿に戻る。俺が宿に着いたときには、丁度、窓から忍び込もうとする2人の影が見えた。
刺客と見て間違い無いだろうから、駆け寄りながら投剣を投げつける。投剣を受けて地面に落ちる刺客を横目に、もう一人に向かって屋根から飛び降り、右手の剣で切り付けた。
宿の壁を蹴って、一旦、距離を置いた俺は、刺客達の様子を伺う。剣で切り付けたほうは地面に伏しており、投剣を受けたほうは、既に体勢を立て直していた。
「貴様、よくも仲間を!」
俺は相手の言葉を無視し、投剣をもう一本投げつける。刺客は投剣を避けるが、それは想定内であり、俺は避けた先に向けて『ウィンドカッター』を放っていた。詠唱を省略した魔法を受けると、大概の人は虚を突かれ、回避が遅れる傾向にある。今回も『ウィンドカッター』をかわしきれずに、足に受けた刺客が、地面に崩れ落ちた。
「ぐっ、詠唱が無い……だと」
俺は崩れ落ちた刺客に走り寄り、止めの一撃を加える。ついでにもう1人の、倒れている刺客の首も落としておく。
まったく、戦闘中に余計なこと喋ってる暇が有ったら、逃げればいいのに。おっと、俺もこんなこと考えてないで、スズ達のもとに向かわないとな。
死体の回収をナオちゃんにお願いした俺は、ナオちゃんをパージし身軽になった身体で、窓から部屋に戻る。ナオちゃんも成長中であり、今や20kgほどの重量がある。筋力値の上がっている俺には、大した重さではないが、やはり少しは違うのだ。
部屋に戻ると、既に戦闘が始まっていた。部屋に踏み込まれた瞬間に、迎撃したのか入り口付近に、刺客が1人倒れ伏している。残り2人を、コテツとアンズが1人ずつ相手をしていた。
アンズは互角の戦いを繰り広げているが、コテツの方は防戦一方だ。部屋の中ということもあり、コテツが得意の槍を振り回せない所為もあるが、相手が悪い。コテツは、この短い時間で多くの傷を受けていた。
「コテツ、交代だ!」
「面目ない主殿、お頼み申す」
俺は、敵と間違われないよう、コテツに声を掛けてから、敵の前に躍り出る。
「チッ! もうちょっとだったのによ」
「あんたが、こいつらのボスか?」
一応、情報収集と時間稼ぎのために会話を試みる。覆面で顔を隠してはいるが、この小さな体型は覚えている、たぶん豚司教の護衛にいたチビだろう。相手が会話に応じそうなので、今のうちに鑑定しておく。
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名前:アルゴ
種族:普人族
モラル:-2142
レベル:38
筋力:48 (292)
耐久:50 (304)
敏捷:58 (353)
器用:47 (286)
精神:33 (201)
魔力:24 (121)
通常スキル:体術Lv2 小剣術Lv4 投擲術Lv3 隠密Lv4 気配察知Lv3 異次元収納Lv2 生活魔法Lv2 光魔法Lv2 闇魔法Lv3
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思った通りあの時の護衛の1人、アルゴであった。パラメータやスキルは完全に奇襲特化で、戦闘経験では負けるかもしれないが、パラメータとスキルレベルは俺のが上だ。これなら充分に勝てるだろう。ちなみに光魔法については豚司教の護衛は全員持っていたので、この国の騎士になる条件か何かかもしれない。
「まぁいっか、話に付き合ってやるよ。お前が言う通り俺がボスさ、お前のレベルは確か30だったな、なら俺に勝てるはずはない。悪いことは言わねーから、大人しく後ろの2人を渡しな」
やはり、スズとマシロ狙いのようだ。レベルがバレているのはマルコの所為だろう、あの商人、今度会ったらどうしてくれようか。
「2人を捕らえてどうするつもりだ? それにそんな無法、許される訳がない」
「口には出来ないおぞましいことだって、許されちまうんだなぁこれが。今日は他にもう2人捕まえに行ってるみたいだからよ、4人もいりゃ、それなりに長生きできんじゃねーかな」
他にも2人って、もしやシンシアちゃんとノルンさんのことか? 庇ってもらった恩もあるし、助けられるなら助けてやりたいな。
「何だったら、後ろの2人以外は、見逃してやってもいいんだぜ。例え、ここを切り抜けても、街の出口は俺の仲間が見張っている。お前達には意地張って死ぬか、2人を渡して生きるかの選択肢しかねえんだよ」
「アスラ、私が……」
「俺を信じろスズ! 『ウィンドカッター』!」
スズの言葉を最後まで言わせず、俺は行動を始める。『ウィンドカッター』をアンズと戦っていた刺客に放ち、目の前のアルゴに剣を向けた。
「なっ、てめぇ卑怯な!」
「アンズ、コテツ、そいつは任せた」
俺はアルゴと剣を打ち合って、部屋の隅に追いやっていく。
「畜生! なんであいつら来ねーんだよ、遅すぎだろ」
「仲間なら来ないぞ、俺が潰したからな」
「はっ? ふざけんなお前程度に倒される訳が」
動揺で剣が鈍った瞬間を見逃さず、俺は全力の突きを放つ。アルゴは剣で受け流そうとしたが、想定以上に速い俺の攻撃に防御が間に合わず、まともに突きが入った。
「ガフッ、なんで……こんなに強えんだよ……」
そう言って崩れ落ちるアルゴの止めを刺し、振り向くとアンズとコテツも刺客を片付けたところであった。
「これで粗方、片付いたな。マシロ、治療を頼むぞ」
「ん、任せて」
薬品類をマシロに渡し、コテツ達の治療を任せる。
「スズ、もう自分から離れるとかは無しだぞ。お前が居なくなったら俺、嫌だからな」
「気持ちは嬉しいけど、でもあなたの為なら」
「きっと、泣くし、暴れるぞ。国一つくらいなら壊すかもしれない」
「そっか……うん、もう絶対に離れようなんて思わない」
我ながら情けないことに、気の利いた事は言えなかったが、スズは嬉しそうに顔をにやけさせているので、俺の気持ちは伝わったと思う。
スズと話をしている内に、ナオちゃんが部屋に戻って来て、死体の回収を始め、治療が終わったコテツ達も、部屋の片づけをしてくれている。
そう言えば、スズの言葉に思わず行動しちゃったが、あいつ何か言ってたよな? 街の出口は見張られてるんだっけか、後はニコラスさんの教会も襲われてそうなことか。
「もしかしたら、ニコラスさん達も襲われているかもしれない」
「助けるの?」
「ああ、恩もあるしな、まずは合流しよう」
「わかった、準備する」
スズが部屋に置いていた荷物をまとめて、出発の準備を始める。直ぐにナオちゃんの死体回収が終わり、騒ぎが収まった事を察したのか、宿の主人が部屋にやってきた。
「あのぉ、何か有りましたか?」
「ええ、襲撃を受けましてね、けっこうな騒ぎだったと思いますが、誰も来ないんですね?」
「まぁ、たまにある事ですし、巻き込まれたくありませんからね。それで部屋の修理代を頂きたいのですが」
なるほど、確かに巻き込まれたくはない。宿屋は安心して休めてこそだろうに、よく恥ずかしげも無く、金払えとか言えるな。
「ふむ、襲撃を許しておいて、金を払えというのですか」
「ぐっ……申し訳ありませんでした。ですが、これ以上は困りますので、出て行ってもらえますか?」
「ああ、言われなくてもそうしますよ、直ぐに出発します」
スズが荷物をまとめ終わるのを待って、宿屋を後にし、ニコラスさんの教会に向かう。部屋の片づけは途中だが、あとは宿の主人に任せることにした。
教会の近くまで来ると、俺は自身に魔法を掛けて闇に紛れて、スズ達と一旦別れて先行する。
ノルンさんとシンシアちゃんが無事ならいいな。まあ、助けるにしても、まずは偵察だ。助けられるなら助けるが、無理そうなら諦めるつもりだ。会ったばかりの人を助けるために、仲間の命を危険に晒す気は無いからな。




