暴虐の豚司教
俺達が壁際に退避すると直ぐに、ノルンさんもシンシアちゃんを連れて付いてくる。俺は目立たないように小声でノルンさんに話しかけた。
「(こっちに来て良かったので?)」
「(良くはありませんが、私達がいると余計ややこしくなりますので、しばし匿ってくださいな)」
この子ちゃっかりしてるなぁ。まあ、匿うけどさ、シンシアちゃん可愛いし。
ノルンさん達を俺の後ろに隠す間にも、ニコラスさんが客に応対していた。
「これはこれは司教様、本日はどのような用件じゃろうか?」
「決まっているではないか、今日こそ貴様の孫娘をわしの13番目の嫁にしてやろうというのだ。有り難く受けるがいい!」
うわぁ、想像通りヤバそうなやつだよ。13番目の嫁とか羨ま……いや、けしからんな。
「(あんな男に求婚されてるとは、ノルンさんも苦労してるんですね)」
「(いえ、あの豚が求婚しているのは私ではなく、シンシアです)」
前言撤回、想像以上にヤバい奴だったわ。幼女に求婚とか流石にアウトだ。
「(この国の法律的に、その年での結婚とか大丈夫なんです?)」
「(我が国では神の言葉が全てに優先します。そして神の代弁をするのが、高位の神官であり、あの豚はそのうちの一匹です)」
確かに法律なんてのは、まともな国でしか大した効果の無い物だ。増して相手が権力者じゃ、有って無いような物だよな。
「(なるほどな、権力を振りかざして無茶を言ってきてるのか、あの豚は)」
「(その通りです。ですが司教様に対して、その呼び名はいけませんよ)」
ひでぇ、さんざん豚って罵ってたのは自分なのに。まぁこの程度は目くじら立てるほどの事では無い、今は情報収集に努めるとしよう。
いつも通り、鑑定で豚司教とその護衛を鑑定する。ちなみに護衛はヒゲ、ハゲ、ノッポ、チビの4人だ。
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名前:ディミトリス・エリクソン
種族:普人族
モラル:-2436
レベル:27
筋力:31 (110)
耐久:58 (206)
敏捷: 7 ( 25)
器用:21 ( 75)
精神:32 (114)
魔力:34 (121)
通常スキル:生活魔法Lv3 光魔法Lv4 異次元収納Lv3
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豚司教のステータスは酷いものだった。レベルの割に弱すぎる、パーティ組んでのパワーレベリングをしたんだろうな、きっと。そして、明らかにモラル値が低すぎるのに、未だにのさばっているというのだから、この国の無法さがうかがい知れるというものだろう。
護衛は、ヒゲがレベル49で万能型、ハゲがレベル47で物理攻撃重視、ノッポがレベル41で防御重視、チビがレベル38で速度重視のパラメータ・スキル構成であった。ヒゲとハゲにはちょっと勝てそうにないな。ちなみにモラル値のほうは、ヒゲ以外はやはり低かった。
こいつらを見ちゃうと、王国がだいぶマシな国だったことがわかるわ。異種族の扱いがもう少し良ければ、さっさと王国に戻るところだよ。
俺が鑑定をしている間にも、ニコラスさんと豚司教の交渉は続いていた。
「それではどうあっても、求婚を受け入れられぬと申すか!」
「そうは言っておりませぬ、せめて孫が成人するまで待っていただきたいのじゃ」
「いつも同じことを言いおって、わしは司教だぞ、貴様らはわしの言うことを聞けばよいのだ!」
豚司教は声だけは大きいので、2人の会話は良く聞こえてくる。話の内容が酷過ぎて、スズ達もあきれ顔だ。豚司教の護衛達も苦い顔をしているのがわかる。
「求婚を受けるにしても、商都連合の息子たちの了解も得なければならんので、今日の処は帰ってくだされ」
「ふん、まぁ良かろう。だが、いつまでも時間稼ぎが通用すると思うなよ」
ニコラスさんとの会話が済んだ、豚司教は壁際に居る俺達に気付いて、近づいてくる。
「貴様ら、最近来た冒険者だな。(なるほど、マルコに聞いていた通りだな)」
「はい、先日着いたばかりです。用も済みましたので、明日には出発するつもりですがね」
後半の呟きは良く聞こえなかったが、質問には素直に答えておいた。ついでに余計な面倒事に巻き込まれないよう、直ぐに旅立つことを明言しておいた。
「ふむ、そうなのか? ならばわし直々に、その者たちに洗礼を施しても良いぞ」
「有り難い申し出ですが、既に洗礼は私どもで済ませておりますので、司教様のお手は煩わせる必要はありません」
「なんだったら、貴様にも洗礼を施してやるぞ」
「結構です。私もニコラス様から、何度も洗礼を受けておりますので」
豚司教からの洗礼の申し出を、ノルンさんが即座に断ってくれる。洗礼なんてしてもらった覚えはないが、ここは合わせといたほうが良さそうなので、頷いておいた。
それにしても、ノルンさん洗礼受けてたのか……あのジジイめ、そんな羨まけしからん事を。いや、あのジジイはたしか、オッパイ聖人だったな、俺達と同じで嘘なのかもしれんね。
「ふん、わしの善意を無駄にするか! 神罰が下らなければ良いがな。(まぁ良い、どうせこやつもわしの物になるのだ)」
機嫌を悪くした豚司教が、ブヒブヒ呟きながら俺達のもとから去っていく。そのまま護衛達と合流し、教会から出て行った。
「なんとか出て行ってくれましたね」
「相変わらず、困った方ですじゃ。アスラさんも何か言われたようですが、大丈夫ですかの?」
「おかげさまで、無事乗り切ることが出来ましたよ。ノルンさんありがとうございました」
「いえいえ、御礼は不要ですよ。それよりも洗礼の証明として、この白いヴェールを付けてくださいね」
「わかりました、4人分お願いします」
ニコラスさんと合流した俺達は、お互いの無事を確認した後、洗礼についての話を聞いた。証明の白ヴェールを付けるだけで、洗礼自体は省略することにする。一応、スズの分も合わせて4人分のヴェールを頼むと、ノルンさんが奥の部屋から持ってきてくれたが、なかなか渡してくれない。
「ありがとうございます、ノルンさん。……ノルンさん?」
「4人分で金貨1枚になります」
しっかり金は取るのね。しかも金貨1枚を4で割ると中途半端な額だ、少しぼったくられてる気もする。まぁ、あの司教の洗礼を受けるくらいなら、金貨1枚くらいは安いものだろう。
俺は素直に金貨1枚を渡し、代わりにヴェールを受け取って、スズ達に渡して付けさせる。
「これでもう、外で余計なちょっかいを出されない筈ですよ」
「助かります。それはそうと、あの司教様の事は大丈夫なのですか?」
「いつもの事ですからのう、まあ、もうしばらくは大丈夫じゃろう」
豚司教を放置していいものか迷っていた俺は、ノルンさんに礼を言った後、ニコラスさんに軽く聞いてた。無理をしている様子も無いので、本当にいつもの事なのだろう。
洗礼の事で助けられた恩もあるので、出来る事なら、協力してあげたいところだが、無関係な人間が首を突っ込んでも、碌なことにならないだろう。
「何か有りましたら、先ほどの御礼がてら協力しますので、言ってくださいね」
「ありがとうございました。またのご利用をお待ちしております」
俺達はそう言って、ノルンさんに自分達が泊まっている宿屋を教えてから、店員のようなノルンさんの言葉に送られて、教会を後にした。
教会から宿屋へ帰る道すがら、豚司教との一幕についてスズ達と話をした。
「この国は長居しないほうが良さそうだな」
「うん、あんな豚には関わりたくはないものね」
俺の言葉にスズが頷くと、マシロが気づいた事を報告してくれる。
「ご主人、あの豚、ボクらの事知ってるみたいだった」
「ふむ、もしかしてブヒブヒ呟いてた時のやつか?」
「そう、マルコに聞いたって言ってた」
「そうか、教えてくれてありがとうな」
あの商人め、俺達の情報売りやがったな。商人にとって信用は大事だろうに、恩よりも金か、まぁ商人としてはある意味正しいのかもしれんね。
「俺達のことを知ってたってことは、この国を出るまでは油断出来ないな、充分に注意していこう」
「わかったよ、麻痺も直してもらったし、これからいっぱい頑張るからね!」
「病み上がりなんだから、無理はするなよ」
スズは麻痺が直って身体が軽いのか、やる気で満ちている。今後の成長に期待できるだろう。
その後もしばらく、宿への道を歩いていると
「ご主人、誰か付いてきてる」
「そうか、皆このまま、気づかないふりをするぞ」
マシロが言うには、尾行されているらしい。やはりマシロの固有スキルは有用だ、今晩の食事は肉を多めにしてやろう。どうせ相手はあの豚司教だろうな、俺達が明日旅立つ事を知ったから、焦ってるのかもな。もしかしたら今夜、襲撃があるかもしれない。
途中の屋台で、肉の串焼きを多めに購入して宿屋に戻り。1日銀貨7枚の6人部屋を取って、夜まで交代で食事と休息を摂る。
深夜0時くらいだろうか、階下の食堂から聞こえる音も消えたころに、マシロから警告の声が上がる。
「来た、宿の周りを囲み始めてる」
「各自、戦闘準備だ!」
やはり来たか、それにしても仕事が早い。ここは街の中だから、いざとなったら大きな音でも上げて、周辺の人達を起こそう。流石に多くの目撃者が居る中で、やましい事も出来ないだろうからな。
いつも敵に奇襲をかけている俺が、襲撃される羽目になるとはな。まぁ、マシロのおかげで、これは逆に好機とも言える。相手が準備をしている間に、お得意の奇襲といこうかな。




