スズとナオちゃんの接触
翌朝目が覚めると、スズは血に塗れていた。ごめん大袈裟過ぎた、要は月のものが始まってしまったようなのだ。
昨日と同じで、お湯をもらってきてスズを洗い場に運び、毛布を剥がすと、毛布が真っ赤に染まっており、正直かなり吃驚した。何処か怪我したのじゃないかと心配になり、血が出てる箇所をじっくりと観察してしまったよ。スズのジト目が鉄板でも突き通せるんじゃないかってくらい鋭くなったのは言うまでもない。
取り敢えずスズの身体を綺麗にし、代えの毛布に包みベッドに運ぶ。洗い場に戻り、血で汚れた毛布に【洗浄】魔法を掛けたがなかなか落ない、固まってしまった血の汚れってなかなか落ないんだよな。どうしようかと迷っていると、ナオちゃんが毛布に着いた血を嬉しそうに吸い取ってくれた。
そういや血液ってタンパク質が多く含まれてたはずだ。肉だけじゃなくて血も好きなのかもな。
そうかスズの事を、ナオちゃんにお願いすればいいのか。ナオちゃん、スズの排出される血を吸収してもいいから、排泄物を貯めておいて後で排出したりできるかい?
ナオちゃんに触れてお願いすると、了承してくれた気がした。後はスズに紹介するだけなのだが、一つだけ問題がある。ナオちゃんの使用目的の一つを悟られてはならないということだ。スライムを眷属とした尤もらしい理由を説明しておくべきだろう。
「スズちょっといいか? 紹介したい子がいるんだ。驚くとは思うが、心を落ち着けて見て欲しい」
「あーーぅ?」
「このスライムが俺の眷属なんだ、襲ったりしないから安心してほしい」
スズのもとに戻り、ナオちゃんを俺の両手に乗せ見せる。スズは怯えた瞳を見せたが、暫くナオちゃんが大人しくしていると、危険が無いとわかってくれたようだった。
「この子はナオちゃんって言うんだ、これからよろしくな」
「あーーーお?」
「そうじゃない、ナオちゃんだ」
「…………あーおーひゃん?」
うむうむ、それでいいんだ。でも、怯えた瞳がジト目に変わっているのは何故だろうか? 解せぬ。
「そうだ、ナオちゃんだ。スズもこれから世話になるんだから、仲良くするんだぞ」
意味が分からないのか、スズが不思議そうな顔をしている。
「スライムはな、服の下に隠しておけば目立たないし、身体の中に物を溜めておくこともできる。つまりはこういうことだ」
俺はおもむろにスズの身体を覆っている毛布を引き剥がすと、ナオちゃんをスズの腰回りに装着する。これで多い日も安心だ。
「ひぅ!? あーぅ……うぅ……」
可愛い悲鳴をあげたスズが恨めしそうにこちらを睨んでくる。ふふ、癖になりそうだ……あれ? 今の俺って客観的に見たら、可憐な少女にスライムを纏わりつかせて喜ぶ変態ってことになるのか? 駄目だ、深く考えないでおこう。
スズに服を着せ、旅支度を整えていると、女将が食事を運んできた。食事を済ませると、スズを背負って宿屋を発つことにした。
町の北東から外に出て、街道沿いにヘイローの街へ向かう。途中で何度かゴブリンを見つけると、近づかれる前に【ウィンドカッター】で倒し、剥ぎ取りもせず先に進む。
歩いている途中、ときたま背中のほうから「あう」とか「うぅ」といったスズの悩ましい声が聞こえてくる。たぶん、ナオちゃんに慣れてない所為だろう。早く慣れてもらわないことには歩きにくくて困る。前かがみで歩くのは思いの外たいへんなのだ。
日が暮れると、野営の準備をして、スズに食事を食べさせる。スズのズボンを脱がせ、ナオちゃんが溜めこんでるものを吐き出させた。以前と違ってスズは汚れておらず、洗ってやる必要は無かった。
なんでだろう、楽になったはずなのに、何かが物足りない。これは認めちゃダメなやつだ、この世には知らないほうが良い事がたくさんあるし、性癖に関してもそれは同じだと思う。ただでさえ反社会的な性癖を多数持ち合わせている俺が、これ以上増やすと、お天道様に顔向けできなくなってしまうだろう。
スズを懐に入れて温めながら寝かし付け、長い一夜を過ごす。ナオちゃんはスズに付きっきりだし、やる事も無く暇な俺は、ヘイローの街に着いてからの事を考えながら時間を潰した。
まずはギルドにいって、拠点を変更しておこう。けっこう大きな街のようだから、暫くの間滞在してスズのレベルを上げたり、国境の砦に行く準備をしようと思う。馬車で4日の危険な道らしいから、旅の仲間も集める必要があるだろう。
仲間集めるとか、ボッチには難易度高すぎるだろう……。まずはギルドで聞いてみるしかねぇかな。仲間が駄目なら奴隷とか、いやこの国に奴隷はいないんだったな。
明けて翌朝、朝食を済ませた後、野営を片付けて街道を北東に向けて歩き出す。
それにしても、出会うのはゴブリン程度でもうマンネリだ。盗賊に一度も襲われていないというのも異世界転生した者としてはどーなんだろうか、出ないに越したことはないんだけどさ。
こんな事、考えているとフラグが立つんだよなと思いつつ歩いていると、大きな街が見えてくる。結局、何事も無く街に到着してしまった。街に入る前にやはり止められて、スズのことを問い詰められてしまったが、以前と同じ言い訳をし、冒険者カードを見せることで問題無く街の中に入ることが出来た。
街に入るついでに、門番さんにこの街がヘイローの街だということと、お勧めの宿屋を聞いたので、まずは宿屋に向うことにする。
教わった宿屋にの中に入ると、受付に厳ついオッサンが座っていた。
「らっしゃい、部屋をお探しで?」
「はい、出来るだけ頑丈な2人部屋をお願いします」
いつも通り、うっかり壊さないように頑丈な部屋をお願いする。
「頑丈な部屋か、一番頑丈な2人部屋は1日で小金貨2枚だが、お前さんそんなに強いのかい?」
小金貨2枚(約20万円)ってたっかいなぁ、流石に大きな街の宿屋だけのことはあるな。
「一応、ブロンズランクの冒険者なんですよ」
「小金貨2枚の部屋はゴールドランクの冒険者が使う部屋だ、シルバーランク以下なら銀貨2枚の部屋で充分だぞ」
「そうなんですね……それなら、銀貨2枚の部屋を5日分お願いします」
小金貨1枚を支払って鍵を受け取り、部屋を案内してもらう。派手さは無いが、質実剛健な佇まいで悪くない部屋だ。スズをベッドに寝かせ、冒険者ギルドに向かう。
「スズ、ちょっと冒険者ギルドに行ってくるが、ナオちゃんと一緒に待っててくれよ」
「あーーぅ」
ナオちゃんに留守の間のことを任せて、宿のオヤジにギルドの場所を聞いてから外に出る。どうやらこの街にも冒険者ギルドが2か所存在するらしく、ブロンズランク以上だと北側がお勧めらしい。
北側の冒険者ギルドに入ると、マッケイブの街にあったギルドと同じような作りになっており、入ってすぐのところの受付に、スキンヘッドのあんちゃん、筋肉質なおばちゃん、顔に傷がある白髪のおっさんの順で並んでいる。
俺は、仕方なしに、空いているハゲのあんちゃんの受付に向かう。
「てめーのようなガキが何の用だ? ガキは南のギルドにいきな!」
ガキって、これでも21歳の年齢設定なんだがな、まぁ周りを見ると20代の冒険者は少なそうだから、若い高ランク冒険者は少ないのかもしれないな。
「一応、これでもブロンズランクなんですがね」
「……偽物じゃないようだな。それで何の用だ?」
冒険者カードを見せると、話を聞いてくれるようだ。やはり冒険者カードは便利だ、これが無かったらもっと面倒なんだろうな。
「まずは、拠点のこの街への変更をお願いできますか?」
「あいよ、ちょっと待ってな」
冒険者カードを受け取ったハゲが、魔道具らしきものを使って書き換えを行ってくれる。
「ほらよ、確認しとけよ」
「はい、確かに。あとお聞きしたいことがあるのですが、いいでしょうか?」
冒険者カードの拠点の表示が『ヘイローの街』になっていることを確認して、仲間の募集について聞くことにした。
「いいぞ、話してみろ」
「すぐにではありませんが、エスト教国方面に行きたいと思っているんです。子供連れなもので仲間を探したいのですが、いい方法ありませんかね?」
初対面の人間に訊くようなことでも無い気もするが、ダメで元々訊いてみた。
「子供連れか……それだと、一緒に行ってくれる奴を探すのは大変だろうな。街道の護衛は冒険者の管轄外だから、傭兵ギルドにいって護衛を依頼するのがいいんじゃないか? 片道、金貨1枚程度で受けてくれると思うぞ」
「金貨1枚ですか……うーん」
金貨1枚ってのも高いし、護衛依頼をお願いするのもなんかなぁ。
「金があるならペットショップで獣を買うのもいいぞ、けっこう役に立つし、いざとなったら盾にして逃げりゃーいいしな。首輪をつけときゃ裏切りの心配もねーしな」
「以前もギルドでペットショップを勧めれたことが有るんですが、犬、猫なんて役に立つものなんですか?」
以前、マーサさんにも勧められたことを思い出した。勧めるってことは、こっちの犬、猫は何か特殊な力でも持っているのだろうか?
「身体能力は高いからな、ちゃんと武器と防具を用意してやれば、そこらの奴よりずっとつえーぞ。冒険者で獣を連れ歩いてるやつはけっこう多いぞ、ほらそこにもいるだろ?」
ハゲが指さす方向を見ると、2足歩行の犬のような獣人の姿があった。
えっ! 獣人ってペット扱いなのこの国? まぁ色んな国があるのはしょうがないよな。それに裏切らないお供が今は必要だし、ちょっと覗いてみるか。
「なるほど、情報ありがとうございました。情報料はおいくらで?」
「情報料? そんなもの取らないぞ、ギルドは冒険者の味方だからな」
はっ? デリルの町で取られたのはいったい……あれがほんとの勉強料ってやつか。ちょっと悔しいが、逆恨みされんのも嫌だし、告げ口はやめとこう。
ペットショップの場所をハゲに訊き、冒険者ギルドを後にする。ペットショップは街のハズレにあるそうで、教えられた場所に向かうと、派手な色のファンシーな看板がある店が目に入った。
店の扉を開けて中に入ると、ド派手な服を着た筋肉隆々の男性が出迎えてくれる。
「いらっしゃ~い! あたしのお店に、よ・う・こ・そ」
俺は即座に店の外に出て、扉をそっと閉めた。




