他種族と、スズの決意
ブロンズランク試験に出発直後の話で、スズ視点です。
私はスズ、今日、私のアスラが遠くに行った。
出会ったころの私にとってアスラは、お肉をくれる人ってだけだった。そういう人の事をなんて言うんだったか、肉……肉奴隷? なんか違う気もするけど、まぁいい。
それが変わっていったのはいつ頃のことだったか、たぶん最近だったはず。少なくとも結婚の約束をした頃は、アスラが好きだったのか、お肉目当てだったのか正直分からない。
でも最近の私は違う気がする、アスラを見てると胸の中心が温かくなる。私に怪我をさせないように、優しく触れてくる指先は愛おしいし、私が迫ったときに見せる困ったような顔はとても可愛い。クレアちゃんに相談して、それが恋愛感情なんだって言われた時、そうなんだって、すんなり受け入れることができた。
そんなアスラは1週間もせずに帰ってきてくれるって言ってたけど、今の私に1週間は長すぎる。最近、私と一緒に居てくれるのはアスラかクレアちゃんくらいだ。前は他の子達とも、それなりに仲良かったんだけど、皆大人になって、孤児院を出たり仕事で忙しかったりだ。私はいつになったら大人になれるのかな?
アスラと離れてとても寂しかった私は、今は主の居ない部屋に忍び込み、アスラの匂いに包まれて眠りに就いた。
今日くらいはいいよね? あぁこの匂い、落ち着く……おやすみ……なふぁい……。
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「ようこそ、魂の修練場へ」
えっ、なに? 夢?
「良かった、今度はちゃんと人型だ。最初に来たのがスライムだったときは、とんだ変態だと心配になったもんだが。普人族かな……いや違うか、なるほど混血種、進化の種か」
「一人で何言ってるの? 頭大丈夫?」
アスラの部屋で眠りに就いたはずなのに、誰これ?
「ああ、すまない。僕は君たちの言うところの神さ、悪いが納得できるように強制させてもらうよ。スキル神ほど暇ではないのでな」
「? ……うん、わかった」
不思議と疑うことができない。悔しいが納得するしかなかった。
「さて、これから君に、【アスラの加護】を授けることができる。もちろんリスクはあるが、今後、アスラと共に生きていく気があるなら必須といってもいいだろう」
「受ける」
アスラは強い冒険者だ、そして今の私は弱い。どんな加護でも、得ることができた冒険者は凄く強くなるって聞いたことが有る、弱い私には絶対に必要なものだ。それに【アスラ】の加護だって言うのだ、受ける以外の選択肢は無い。
「これから君の肉体と魂に刻む加護の力は強大だ、下手をすると死ぬかもしれないよ。それでも受けるのかい?」
「……早く頂戴」
怖くないといったら嘘になるけど、迷う必要は無い。アスラとはずっと一緒にいたい、それにもう二度と、無力な自分のせいで大切な人を失いたくはなかった。……あれ、もう二度と?
「そうと決まれば、加護を授けよう。ここでの記憶は封印するからトラウマが残ることは無い、安心して苦しみたまえ」
「ンギィーーーーーーーーーーッ!」
自称神の手が私の額に触れると、身体の奥から内部を突き破るような激しい痛みに襲われ、私は声にならない悲鳴をあげつづける。
「まぁ、混血種なら死にはしないだろう。それにしてもスライムに混血種か……以外に面白い奴かもしれないな。世界がどう変わるのか楽しみになってきたよ」
楽しそうに呟く自称神の声を聞きながら、私は痛みのあまり気を失った。
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私はスズ、本当の名前をスズネと言います。
私はその朝、全てを思い出しました。昨晩、夢を見たような気がしますが、それは思い出すことはできません。ですが、これまで忘れていた孤児院に来る前のことを、全て思い出すことができました。
私は混血種です。父は普人族ですが、母は鬼人族です。
この国では普人族以外は人として見做されません、それは私も同じことです。いえ、もっと悪いと言ってもいいかもしれません。忌み児、混じり物、雑種、魔王の種、これらは私達のような異なる種族の両親を持つ子供の異名です。魔王の種とは歴代の魔王に、混血種が多かったことから付けられた異名だそうで、そんなこともあってか、混血種は迫害の対象となっているのです。
父と母と私の3人は、マッケイブの街の、北の川の上流に隠れて住んでいました。しばらくの間は、家族で仲良く暮らしていた私達ですが、3人だけで生活するというのは難しいことです。どうしても、生活に必要なものを街で仕入れる必要があるのですが、父が私が幼いころに病気で亡くなりました。
そうなると、鬼人族である母が街に出向くことになります。暫くは大丈夫だったのですが、結局のところ異種族であることがばれ、私達母子はこの国の軍隊に追われました。子供連れでは逃げ切れるわけもありませんし、幸い外見は普人族のようだった私なら、一目で異種族と分かる自分と一緒でなければ大丈夫だろうと、別れて逃げることにしたのです。逃げる途中で川に落ちて、記憶を失った私は孤児院に拾われ、今に至るといったわけです。
もうあれから3年以上経っています。母のことは探したいですが、今の自分にはどうしようもありません。それよりもこれからの事を考える必要があります。まずはアスラさんから離れる必要があるでしょう。
私はもうアスラさんと一緒に居ることはできません、一緒に居れば必ず不幸にしてしまうでしょう。こんな事なら思い出さない方が良かったのかもしれませんが、結局のところは遅いか早いかだけのことでしょうね。レベルが1になれば種族は分かってしまいますから。そうなる前に離れられるのは、むしろ幸運と言っても良いかもしれませんね、皮肉なことですが。
記憶を取り戻してもアスラさんと離れたくない気持ちに変わりはありませんが、いつまでも子供のようなことは言っていられません。混血種は成長が遅く、大人になっても若い見た目のままだそうです。こう見えて私はもう16歳です、好きな相手の幸せを願える程度には大人なのです。
私はしばらく悩むと、以前聞いたことを思い出しました。この街の領主様が、優秀な孤児を召し抱える際に、一旦、商都連合にある学校に留学させるらしいのだ。商都連合では他種族への差別も比較的マシと聞いていますので、これに紛れ込むことが出来れば何とかなるかもしれません。
そうと決まったら、まずは院長先生に相談です。院長先生とクレアちゃんに記憶が戻ったことを明かし、商都連合に行きたいことを相談すると、丁度明日、領主様が孤児院にいらっしゃるとのことでした。記憶を取り戻したことで、読み書きだけでなく簡単な計算ができるようになってましたので、領主様が来た際に掛け合ってくれることになりました。
この時、クレアちゃんには止められましたが、記憶が戻りやりたいことが出来たと嘘を吐き、何とかして説得することができました。ずっと仲良くしてくれたクレアちゃんに嘘を吐くのは、とても心苦しいものでしたが、理由が理由ですので仕方ありません。
今後の事が決まったので、クレアちゃんと一緒の布団に入り、今までの事やこれからの事、たくさんの事を話してから眠りにつきました。
明けて翌日、領主様が孤児院にいらっしゃいまして。院長先生と話し始めています。
「お久しぶりですね、タイラス殿。孤児院の皆は創建かな?」
「これはこれはラザール子爵様、おかげさまで皆元気でやっております」
「それは何より。今日はな、明日より商都連合に送ろうと思っている子供達の件で来たのだが」
領主様が孤児院を訪れるのは、種蒔の始まる前の2月、種蒔の終わった6月、収穫の終わった11月なのですが、2月から始まる商都連合の学校に向けて、この11月という時期、子供達を送り出すのです。
「恐れながら、その件で、一つお願いしたきことがあるのですが、よろしいでしょうか?」
「いいでしょう。なんですか?」
「それでは、スズこちらに来なさい」
院長先生に呼ばれた私は、領主様の前に立ち挨拶をした。
「失礼いたします、ラザール子爵様。私はスズと申します」
「君はたしか……以前に会った子だね。もしかしてこの子を商都連合に?」
「はい、読み書きも計算もできる子です。お願いできませんでしょうか?」
院長先生が領主様に願い出ますと、領主様はしばらく考えた後、了承してくれました。
「いいでしょう、但し、このことは内密にお願いしますよ」
「畏まりました。急なお願いをしてしまい申し訳ありません」
「構わないよ、タイラス殿には世話になっていますからね」
院長先生が頭を下げている間、私も失礼の無いように頭を下げ続けました。
「それではスズ、明日の朝早くに皆との別れを済ませてから、私の館に来たまえ。内密なことだ、馬車への見送りは許可できないからね」
「畏まりました。よろしくお願いいたします」
「それでは、明日は楽しみにしているよ。それではな」
領主様は上機嫌で帰っていきます。無事に商都連合に行けることになった私は、この時、頭を下げていて領主様の顔が見えませんでした。後から考えると、もしかしたらこの時、記憶が無いころに感じた気持ち悪い目をしていたかもしれません。
お読みいただきありがとうございます。
混血に対する記載がありますが、あくまでフィクションです。単に不憫萌えの合法ロリを出したいための舞台装置です。
もし、お気を悪くされた方がおりましたら、申し訳ありません。




