ブロンズランク試験、初めての遠出
西側の冒険者ギルドに着き、受付にマーサさんから預かった手紙を渡すと、奥の部屋に案内された。部屋の中には、見覚えのあるおっさんと、人形のように整った美しさの女性がいた。
「よう、来たな。俺はギルドマスターのゲオルグ、初めまして……じゃねーな。前に訓練所であったやつだよな?」
「そうですね、改めましてアスラと申します。今日はよろしくお願いします」
俺は鑑定結果見て思い出したけど、2年以上前に会ったきりなのによく覚えてるなこのおっさん。
「かたっ苦しいなおい、もっと気楽にいこうぜ」
「マスター、早く仕事の話を。申し遅れましたが、わたくしセシルと申します。お見知りおきを」
「わーかったよ! すまねーな、お嬢は融通が利かなくてな」
お嬢? なんか聞いたことあるような……鑑定すればわかるかね。
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名前:セシル・ブノワ
種族:普人族
モラル:-12
レベル:52
筋力:47 (566)
耐久:49 (590)
敏捷:92 (1108)
器用:67 (807)
精神:36 (433)
魔力:52 (626)
通常スキル:体術Lv4 小剣術Lv5 投擲術Lv3 隠密Lv4 気配察知Lv4 生活魔法Lv2 風魔法Lv5
固有スキル:神速
ギフトスキル:風精霊の加護
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あ、思い出した、ギルドマスターのおっさんが怖がっていた人だ。【神速】は一時的に敏捷を2割増しにできて、【風精霊の加護】は風魔法のレベル+1だな。
敏捷がシャレにならない値だし、ギルドの敵と見なされたらサクッと暗殺されそう、モラルが低いのはきっと仕事で……深く考えてはいけない。
「アスラさん、私の顔に何か?」
「もっ、申し訳ありません。あまりの美しさに見とれておりました」
「冗談は顔だけにして、仕事の話を始めますよ」
銀髪美女に無表情で毒吐かれるとゾクッと来るね、まぁ、これで鑑定したの誤魔化せただろうし、さっさと試験の話を始めてもらおう。
「ブロンズランクの試験についてお教え願えますか?」
「おうよ、試験は簡単だ。黒龍山脈の麓の森に行って熊を狩ってこい、以上だ」
「まったく使えないマスターです、これは後でお仕置きですね。僭越ながらわたくしが説明させていただきます」
あまりにも雑な説明に困惑し、セシルさんのほうを向くと、詳しく説明してくれるようだ。お仕置きとかちょっとドキドキするね。
「この街の西門から出て、街道沿いに馬車で3日程行くと黒龍山脈の麓の森に着くはずです。その森に生息するブラウンベアーを討伐してきてください。証拠として頭部をお持ちいただければ合格となります」
「なるほど、了解しました」
討伐するだけなのか、これパーティ組んでる人のが有利だよな。
「ちなみに、これって強い人とパーティ組んだら楽ですよね? これで試験になるんですか?」
「強い仲間を持つというのも、力の一つです。要はどんな手段であれ目的を達成できればいいのです。悔しければパーティを組めばいいんです。まぁ、ボッチのあなたには無理でしょうが。」
ぐっ、ひでぇ事言われたけど否定できん。つうか此処まで言わんでも……。
「えーっと、済みませんでした。これから準備をして明日出発しますね」
「おう、行ってこい。一応装備は整えてけよ。そんな防具じゃ一発もらっただけどお陀仏だかんな」
これ以上、精神を削られたくはないので退出を願い出る。せっかくの忠告なので、この後、街の西側で武器と防具を新調することにし、武器屋と防具屋の場所を聞いてからギルドを後にした。
まずは武器屋に向かって品揃えを見ると、東側の武器屋に比べて、品質が良く高価な武器が多く並んでいた。小剣だと、黒鋼の剣、ダマスクソードのどちらか迷ったが、店員と相談してダマスクソードを購入することに決めた。単純に威力だけなら黒鋼の剣だが、ダマスクソードのほうが魔法と相性がいいらしく、風魔法の【エンチャントウィンド】を有効活用できるからだ。
次に防具屋に向かい、転生当初から使用していた皮の防具セットを買い換える。奇襲中心の戦闘スタイルであるため、動きやすさを重視し、黒虎の防具セットを購入することにする。黒虎の革は高価ではあるが、耐水・耐火の能力も高く、単純な防御力もそれなりに高い。何より暗い色のため、闇夜や木陰に隠れやすいだろう。調整は今日中にできるとのことなので、明日の朝取りに来ることにして代金を支払い店を出た。
ダマスクソードが金貨5枚、黒虎の防具セットが金貨8枚である。金貨40枚以上あった所持金が金貨27枚(約2700万円)程度になってしまった。まぁ前の世界でのことを考えると、充分すぎるほどの資金なんだけどね。たぶん討伐依頼だけだったら、ここまで稼げることは無かったはずで、孤児院様々である。
ちなみに一番高価な剣はミスリルメッキの剣が1本だけ置いてあり、ミスリル貨6枚(約6000万円)で、これが総ミスリルのミスリルソードともなると、ミスリル貨300枚(約30億円)はするらしい。いい装備を手に入れるには更に莫大な金が必要ということだな。
数日掛りの試験となるため、装備だけじゃなく食糧や水、消耗品の購入も行う。食糧は歩きながらでも食べれるように、長期保存用の乾パンと干し肉を購入した。調理済みの暖かい料理をスキルで収納してもいいのだが、異次元でも少しづつ時間は経過するようで、入れっぱなしにしていると大変なことになる。
以前、食いかけの串焼きを収納したのを忘れていて、半年後に取り出したとき酷い目にあってから、収納には保存食のみを入れるようにしていた。
今回購入する干し肉は10kgで小金貨5枚(約50万円)だ。高レベルの魔物であるグレートバイソンの肉を使ったもので、良質な牛のような味で腹持ちもいい。レベルが低いと固くて食べるのがたいへんだが、俺くらいのレベルだと歯応えもあり美味しくいただけるので、最近は狩の途中でよく食べていたりする。
他にも野営に必要な、簡易なテントや毛布などを購入し、食糧や水と合計して金貨2枚の出費となる。残金は金貨25枚(約2500万円)ほどになってしまった。
遠出の準備も出来たので、孤児院に戻って、みんなに暫く留守にすることを伝えると、院長先生とマリーさんは試験を頑張るよう激励してくれた。スズは付いて行くとグズったが、何とか宥めて寝けしつけ、その日は早めに眠りに就いた。
翌日の朝早く、孤児院を出ようとすると、スズとクレアが外で待ち構えていた。
「アスラ、本当に行っちゃうの?」
「サクッと行ってくるから、スズ、いい子で待ってるんだぞ」
あまり長く待たせるのも可哀想だから、風魔法とか併用してサッと行ってサッと帰ってくるか。馬車で片道3日でも、俺の今のパラメータなら片道2日かからないだろう。
「ランクやっと追いついたと思ったのになぁ。まぁ、スズちゃんのことは私に任せといてよ」
「頼むよクレア、できるだけ早く帰ってくるからさ」
クレアも強くなっているから、任せて問題無いだろう。俺が行くのを辞めないことが分かると、スズが涙を流し始めてしまった。女の涙には勝てないってのはホントだよな、なんとか泣き止んで貰わないとな。
「泣かないでくれよ。スズも年齢的にそろそろレベル1になるんだ、そうしたら一緒に冒険者やるんだろ? そんな泣き虫じゃ冒険者になれないぞ」
「うん、わだし、冒険者になる。そしだら、いづも一緒だからね」
「(私も一緒に行きたくて、ランク上げてるんだけどなぁ……いい加減気づいてよお兄さん)」
傍らにしゃがんで頭を撫でて、スズが泣き止むまで待つ。クレアも何か呟いていたがよく聞こえなかった。スズも冒険者になりたいと言っていたのは、この世界ではレベルが離れすぎていると結婚ができないためだ。
レベルが20以上離れている場合、レベルが低いほうが夫婦喧嘩で簡単に死んでしまうことが有る。他にも女性のほうがレベルが高すぎる場合は、耐久パラメータのせいで子作りすらできない。女性の締まりで男性が不能になったり、差がありすぎる場合、門をこじ開けることすら出来ない場合もあるというのだ。
「お兄さん、また変なこと考えてませんか? スズちゃんもう泣き止んでますよ」
「あぁ、分かってくれたか。試験が終わったら、暫く依頼は休むつもりだ、埋め合わせはするよ」
「美味しいもの、たくさん作ってもらいますからね!」
帰ったらクレアにはまたチョコを作らされるんだろうな、スズの事を頼まれてくれるんだ、今度はケーキも作ってやろう。
「分かった、スズも何かしてほしいことあったら、考えといてくれ」
「今、してほしいことある……耳貸してほしいの」
服の袖を引っ張りつつお願いされ、しゃがんだままスズに顔を近づけて、耳を傾け聞く体勢になった。スズは珍しく恥ずかしがって顔を真っ赤にしている。
「ん、何かあるんじゃなかったの?」
「言うの恥ずかしい……ちょっと目を瞑ってて」
ふむ、いつも思ったことをズバズバ言う、スズにしては珍しいな。どんな恥ずかしい願いが聞けるのか、ドキがムネムネするな。
俺は何を言われるのかと期待しながら目を閉じると、「チュッ」という音と共に唇を塞がれる。吃驚して口が半開きになってしまうと、小さな舌が侵入してくる。
「わぁ、スズちゃん大胆……」
クレアの声で何をされたのかを察し、目を開けるとスズが俺にキスをしていた、しかもディープなほうだ。俺は目を白黒させつつも抵抗しないように自制するのに努める。下手に抵抗すると、パラメータの差によってスズに怪我をさせかねないからだ。
暫くすると小さな唇が離れていったので、スズを問い詰める。
「スズ、こういうことは大人になってからするものだよ」
「だって、シスターマリーが盗られたくなかったらツバ付けとけって……これでアスラにツバ付けたし、アスラは私にツバ付けたから、大丈夫だよね?」
なっ、なるほど、マリーさんの言葉を曲解してこうなった……のか? お互いにツバを付け合うとなるとこうなるのは確かだが、ちょっと無理があるんじゃないか?
「クレア、マリーさんが言ってたって本当なの?」
「本当ですよ、私も聞きました。(その後、ディープキスを教えたのが、私ってのは言えないけどね。怒られたくないしぃ)」
「まったく、あの人は……今度苦情を言っとかないとな」
マリーさんは素はさっぱりとしたいい人なんだが、たまに孤児院の子達に男の扱い方とか教えてたりもする。世の中を渡っていくのに便利なのは解るが、もう少し加減してほしいものだ。
「アスラ、私とじゃ嫌だった?」
「そっ、そんな事ないさ、スズが俺のことを想ってくれてるのを感じて嬉しかったよ」
苦い顔をしていたらスズが泣きそうになっていたので、慌てて否定する。まぁ、よく考えれば、嬉しいのは嘘じゃないしな。
「ならいい。絶対浮気しちゃダメだからね!」
「……勿論だよ、それじゃ行ってくるね」
スズの燃えるような視線から逃げるように、孤児院を後にすると街の西側に向かい、防具屋で昨日購入した防具を装着する。身体の動作が問題無いことを確認し、西門から外に出た。初めての遠出だ、気を引き締めていこう。
それにしても、だんだんと逃げ道を塞がれている気がする。これ、ハーレムとか作ったら刺されるよな絶対。ちなみに、初めてのキスの味は、朝食べたワイルドボアの味噌焼きの味がした。
お読みいただきありがとうございます。
主人公はアイアンランクにしては所持金がかなり多いです。
ソロなので報酬独り占めな上、奇襲中心のため防具の修繕費や、薬品類にかかる費用も必要ありません。
その割に、ギルドで討伐依頼の賞金と、孤児院で魔獣の売上を分けて受け取っているので目立たないという、完全にご都合主義です。
↑今回の話中に書こうと思いましたが、気づいたら入ってなかったので、後書きに記載しています。今後修正する機会があったら、話中にも書こうかとは思います。




