帝国の孤児院
少々遅くなり申し訳ありませんが、あけましておめでとうございます。
今年もどうかよろしくお願いします_(._.)_。
混血種の子達を預かる孤児院は街の最外縁、スラムの端っこに位置し、意外なほどに堅牢なその建物は高い塀で囲われていた。
俺達は今、この孤児院で早めの夕食を振る舞われていた。
夕食のメニューはもちろん、俺が提供したワイルドボアの肉をふんだんに使ったものだ。
食堂には10人ちょいの子達と職員らしき人達が集まっており、今も静かに夕食を口に運んでいる。
院内にいる子達はどうやら成人していないようで、鑑定によるステータス確認が出来なかったが、見た目からある程度どの種族との混血なのかは想像できる。
見てすぐ分かるのは、特徴的な耳と尻尾を持つ獣人族と、緑色の髪と細長い耳の樹人族の血が混じっている子達だ。
頭の横から黒っぽい捻じれた小さな角が出ているのは魔人族で、幼い顔にヒゲを蓄えているのは土人族ドワーフの子だろうか?
普人族・獣人族・樹人族・魔人族・土人族、少なくとも5種族の特徴を持つ子達がいるようで、数は少ないが中には男の子も居る。
にしても、混血種の男の子なんて初めて見たな。
見た目で男の子と分かったのは、山羊角の生えたやんちゃそうな子と、緑色の髪とヒゲの生えた耳の長い子の2人だけ。
女装させたら女の子と見分けがつかないほどに中性的な容姿をしている為、他にも男の子が居るかもしれないが、俺には分からなかった。
声を聞けば分かるかもしれないが、子供たちは静かに行儀よく食事を摂っている為、声での判断も不可能だ。
それにしたって静かだ。
以前、王国の孤児院で厄介になっていた頃は、食事時もギャーギャーとうるさいくらい賑やかであったものだが、ここまで静かだと逆に心配になってくる。
「なんとも静かな食卓ですね、ブリギッタさん」
「そうであろ? 行儀良くするよう、しっかりと教育しておるでな」
「はは、そうですね。ここまで行儀の良い子達は見たこと無いですよ」
肯定的発言と捉えたのか嬉しそうに応えた彼女は、この孤児院の院長をしているブリギッタさんだ。
何でも父親の後を継いで、5年前からこの孤児院を運営しているらしい。
ちなみにステータスはこんな感じ。
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名前:ブリギッタ・マイヤー
種族:普人族
モラル:14
レベル:28
筋力:34 (127)
耐久:33 (123)
敏捷:29 (108)
器用:63 (235)
精神:32 (119)
魔力:54 (202)
通常スキル:杖術Lv3 人物鑑定Lv3 生活魔法Lv3 水魔法Lv3 火魔法Lv2 錬金術Lv3 調剤Lv3
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意外にもレベルは28と高く、魔物との戦闘経験も多そうだ。
高レベルの生産系スキル持ちは珍しく(レベルを上げる為に魔物を狩るのに戦闘系スキルが必須なため)レベル3ともなれば一人前の職人になれる。
そんな錬金術とか調剤スキルを持っておきながら、親の後を継いで孤児院の院長なんてやってるのが素晴らしい。
女性として平均的な背丈の20代中頃の美女で、出るとこは出て引っ込むところは引っ込んだ素晴らしい体型で、特にその豊かな胸部装甲などは100人中99人は振り向くこと間違い無しだ。
そんな素晴らしい物を持ちながらも、顔立ちはシャープで魔道具らしき眼鏡を掛けた顔は知的な雰囲気も感じさせる。
客観的に見ればこの上無く良い女である。
にもかかわらず、俺が彼女に性的魅力を感じないのはどういう事だ?
俺のロリコンはここまで重症化していたというのか…………マズいぞこれは……。
とまあ、そんな俺のリハビリの為にも、こうして夕食のお誘いに乗った俺は、孤児院の子達を眺めながらブリギッタさんとの会話を楽しんでいた。
「私にとっては大事なモノらだが、混血種に対する差別意識は未だに根強い。アスラ殿に嫌悪感は無いのかね?」
「ここだけの話、俺の妻も混血種ですからね。嫌なわけが有りません」
「それは素晴らしい! しかし、混血種は子供を産むことが出来ないと聞くが、それでも良いのかね?」
「例え子が出来なくとも俺は彼女を愛しています。それに出来ないと決まったわけでもありません。実際に…………いや、これはまだ不確定か」
スズはまだ妊娠初期で、これからが大変な時期だ。
考えたくは無いが流産の可能性もゼロではない。
出産まで無事に済んで初めて、混血種も子供を産めると言えるだろう。
今の段階でへんに期待を持たせるような事を言うべきではないな。
「ふむ……その口振りは心当たりがあるのだな。もし混血種の出産に関して何か分かったら、私にも教えては貰えないだろうか? 出来るならこの院のモノらにも産ませてやりたくてな」
「……了解しました。いつになるかは分かりませんが、話せる時が来たらお話しします」
そう頷いて、その話は打ち切った。
その後は世間話に終始した。
俺達が南西の獣国付近の街に向かう事を話した時だったか――、
「それは丁度良い! 1つ提案というか頼み事があるのだが、夕飯の後にでも聞いてはもらえないだろうか?」
――と頼まれた俺は、夕食が終わった現在、院長室で話を聞いているところだ。
院長室には意外にもしっかりとした作りのソファーが設えられており、そこに向かい合わせで座ってお茶を飲みつつ話を聞く。
「さて本題に移らせてもらおうかな。アスラ殿は近々、中央森林近くの街へと向かわれるとか。実際にどの
街に向かうかはお決まりかな?」
「いえ特には決めてません。街と言うより森に用事が有りましてね」
ちなみに中央森林と言うのは、獣国がある大森林の事だ。
大陸中央部にあるため単に中央森林と呼ぶのだ。
「それは素晴らしい! 丁度うちのモノを、その辺りの街にお使いとして出そうとしていたところでね。差し支え無ければ連れて行っては貰えないだろうか? 道案内くらいならさせるし、護衛報酬ももちろん出そう」
「護衛ですか…………正直、責任が持てないので、傭兵ギルドで専門家に依頼したほうが良いかと思いますが……」
「アスラ殿に断られたら他にあては無くなってしまうな。傭兵ギルドの奴等が、混血種のあの子をまともに護衛してくれるとは思えない。頼む! この通りだ! アレとと一緒に行ってやってくれないか? アレも私にとって、掛け替えのない大切なモノなのだ!」
この世界において護衛依頼は傭兵ギルドの領分だ。
冒険者は個人的に付き合いのある相手を護衛するか、特殊な場所――密林や火山、迷宮や遺跡など――での護衛を受け持つくらいだ。
かく言う俺も護衛依頼は受けたことが無く、人を守りながら戦うというのは正直自信が無い。
とはいえブリギッタさんの言う事も分かる。
護衛対象が立場の弱い者であれば、護衛する側が裏切る可能性すらある。
護衛対象が勝手な行動をしたとか、いきなり切りかかって来たとか、口裏を合わせてしまえばいくらでもやりようが有りそうな気がする。
まあ、危険な場所に向かうわけでも無し、連れていくくらいなら構わないよな。
「…………分かりました、その話お受けします。案内をしてくれるのであれば護衛報酬は不要です」
「そうか恩に着るよ! 宿の場所を教えて貰えれば、明日の朝にでもキミの元へと向かわせよう。だが、本当に報酬は良いのかい?」
「ええ、私にも大切な者達がいます。大切に思う気持ちは分かるつもりですから……それより、宿の場所ですが――」
俺達が泊まる宿を彼女に伝え、寄付金として銀貨50枚を渡してから院長室を辞する。
その際「こんな良い人がいるとはね」と彼女が感慨深げに呟くのが聴こえた。
良い人とか前世のトラウマを刺激されるから止めてくれ。
日本では最近、あんまり良い意味で使われないよなこれ。
根は良い人なんだけどとか、良い人だと思うんだけどとか、良い処が見つからない時に取りあえず褒めとけって使われるイメージだ。
まあ、そういう意味で呟いたのでは無いと思うけど、いかんな。
この国では甘さは見せまいと誓ったはずが、気を抜けばすぐこれだ。
ともかく時間も遅くなっちまったし、早く宿に戻ってスズ達に伝えないとな。
急ぎ孤児院から出ようとしたところ、目の前に躍り出た4つの小さな影に遮られる。
「「「「待ってください(待ってくれ)!」」」」
「なんだ、孤児院の子達か。何か俺に用かな?」
出てきたのは4人の少年少女達。
食堂で見た中の、孤児院で年長の子達だろう。
俺が答えると、4人の中から少しだけぽっちゃりとした小柄な少女が一歩前へ出て、代表で話し始めた。
「まずはその……今日はありがとうでした」
「それは、どういたしまして」
「それでですね……さっき聞いたですが、お兄さんはお姉ちゃんと一緒に行くですよね?」
「もしかして盗み聞きしてたかな。お姉ちゃんってのは、案内してくれるって子の事だよね?」
「盗み聞きじゃねーよ。聴こえちまっただけさ、な?」
「偉そうにしないの、聴こえたのは私とこの子なんだから」
黒巻き角の生えた魔人族との混血らしき少年が口を挟み、緑髪の獣耳少女がそれを窘める。
この子というのは、コクコク頷いているもう1人の小柄な獣耳の子の事だろう。
「黙るです。今はそんな事話してる場合じゃないのです」
「悪ぃノイン姐、俺が悪かった。あんたも気を悪くしねえでくれ」
「それは良いけどさ、用ってのは?」
「時間が無いので用件だけ言うです。詳しくは言えないですが、私達のお姉ちゃんをどうか助けてほしいです」
「もちろんさ。依頼なら受けたからには、無事に連れ帰るつもりだよ」
「そうじゃねーんだよオッサン! 俺達が言いたいのは「それ以上はダメ!」」
少年が何か言いかけて、獣耳少女に止められ「チッ」と舌打ちを一つ。
「とにかくお姉ちゃんだけは、何が有ろうと助けるですよ! 頼んだですからね! 約束破ったら化けて出るですからね!」
「まあよろしく頼むぜ、オッサン!」
「よろしくお願いしますね、オジ様!」
「あ、おい、今のどう言う事だよ!」
3人が言いたい放題言って去り、最後に小柄な獣耳少女がペコリとお辞儀をして立ち去った。
まったく何だってんだよ、今の子達は。
思わせぶりな事だけ言われても、何が何だか分からない。
しかしそれでも、既に自分が厄介事に巻き込まれているのではないか?
そんな悪い予感だけはひしひしと感じた。
なんとも面倒な話である。
スズ達にどう言い訳すればいいのやらだ。
宿へと帰りつき依頼された内容を説明し、どうにかスズ達の賛同を得ることが出来た。
混血種ばかりを集めた孤児院の話をした辺りでは、胡散臭げに話を聞いていたものの、混血種の子を護衛する件については賛成のようだ。
やはり相手が混血種だからこその、仲間意識のようなものがあるのかもしれない。
とはいえ、その孤児院と同行する子に対しても、十分な注意を払うようには念押しされた。
それも当然だよな。良く考えると、遠い街に子供を1人でお使いに出すとか正気じゃねーしな。
この旅の間に、同行する子から情報を得れればいいんだけどね。
あとは今後、勝手な行動は控えるようにと釘を刺されたくらいか。
自覚が有るため反論すらできん。
このままズルズルと自由を奪われ、いずれは財布の紐も握られてお小遣い制に、とか……無いよな?
そんな日本のパパさん達みたいにならないよう気を付けねばだ。
ちなみにスズ達のほうの闘技大会に関する情報収集は、無事に完了したとのこと。
詳細の報告は明日にしてもらった。
今日は色々あり過ぎて疲れちまったしさ。
そのまま俺はエロいこともせずにベッドにダイブし、泥のように眠った翌朝、訪ねて来た少女――彼女の鑑定結果――を見て悪い予感が的中した事を知る。
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名前:アハト(エルマン・ド・ロードシルトの眷属)
種族:混血種(魔人/普人)
レベル:19
筋力:48 (116)
耐久:47 (113)
敏捷:66 (159)
器用:45 (108)
精神:19 ( 46)
魔力:43 (103)
通常スキル:小剣術Lv3 隠密Lv3 気配察知Lv1 水魔法Lv2 火魔法Lv2
固有スキル:空間転移Lv2
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おいおい、眷属ってどういうことよ?
もしかして、闇魔法の『コントラクト』って人にも使えんのか?
どっちにしろ、ヤバい事に首を突っ込んだことは確かだよな。
なんか貴族っぽい名前も見えてるしさ……。
この回でちょっとキャラを増やし過ぎた感が……書き分けられるよう頑張りまっす。
あと、ステータスの眷属表記を名称のほうに持っていきました。
今後はナオちゃんの眷属表記も同様に移動予定です。
これ以前の表記は現状のままでご勘弁を(修正する機会が有れば直すかも)。




