助けられる相手なら助けるけど
一応、前回の最後に登場したお嬢様のステータスを乗せときます。
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名前:エレーナ・フォン・リヒテンブルク
種族:普人族
モラル:64
レベル:34
筋力:46 (230)
耐久:49 (245)
敏捷:54 (270)
器用:51 (255)
精神:23 (115)
魔力:52 (260)
通常スキル:体術Lv2 小剣術Lv3 盾術Lv3 弓術Lv3 気配察知Lv2 異次元収納Lv2 生活魔法Lv3 光魔法Lv3 火魔法Lv3
固有スキル:戦乙女
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俺が怪しげな黒ずくめから助けたのは、”エレーナ・フォン・リヒテンブルク”という、この都市と同じ姓を持つ女性であった。
よく手入れされた金色の長い髪に高級そうな装い、どこからどう見ても良い処のお嬢様だ。
それでいてパラメータ的に、それなりに鍛えていることが覗える。
お嬢様然とした容姿からは想像できないが、もしかしたらお転婆さんなのかもしれない。
たしかこの街の主が『鮮血のハロルド』って呼ばれる物騒なお方のようだし、彼の身内だというなら固有スキルの戦乙女なんかも、らしと言えばらしい。
ちなみに『戦乙女』の効果は、自分を含めた部隊全体の全能力が1割上昇するという物らしい。
効果量こそ低いものの対象範囲が部隊全体であることを考慮すると、戦場においては破格のスキルだ。
さて、そんな彼女が期待の入り混じった目でジッと見ている訳だが、どうするよ俺?
・選択肢A:素直に名乗って厄介事に巻き込まれる。
出来ればこれは最終手段にしたい。これでも身重の妻を抱えた身だ、他人の面倒を見てる暇など無い。
・選択肢B:名乗るほどの者ではないですよと颯爽と立ち去る。
やっぱりこれが無難だよな、問題はそれで済ませてくれるかどうかだ。
・選択肢C:顔を見られてしまったので、厄介事に巻き込まれる前に口封じする。
どんな悪人だよ俺……さすがにこれは無い。
そんな事するなら最初から助けるなって話だよな。
俺が選んだのは、当然のように無難な選択肢Bだ。
「名乗るほどの者では有りません。私は急いでいますので、これにて失礼します」
「そう仰らずに、どうかお名前だけでも! 宜しければお茶でもご一緒致しませんか?」
手慣れた動作で近寄り、俺の腕に胸を押し付けてくる彼女。
この感触は……こんなに柔らかく且つ、重量感のある物が胸である筈がない。
だが何だろうこの感覚は……眠っていた本能が目覚めるような、そんな胸の高鳴り。
これがおっぱいという物なのか? この柔らかさは人を駄目にする。
いかんいかん、流されるな俺! 俺にはスズ達のちっぱいがあるじゃないか!
首を振り慌てて意識を戻す俺。
早く振りほどかなければと思う物の、この柔らかさが邪魔をする。
そんな風に、自身の邪念と葛藤していると路地裏の外から、人を呼ぶ女性の声が聞こえてくる。
「お嬢様ー? どこですかお嬢様ーーーっ!?」
「ちっフュンフ達ですか、もう追って来ましたのね……」
まさかの追加イベント発生だ。どうやら彼女を探しているようだ。
「あの、貴方様にお願いがありますの、どうかワタクシを匿ってくださいまし!」
そして俺は、追加で選択肢を選ばねばならなくなった。
・選択肢B-1:お嬢様を匿って一緒にここから逃げ出す
メリットはお嬢様の好感度上昇のみで、デメリットがデカすぎる。
お嬢様には感謝されるかもしれないが、黒ずくめからも彼女の保護者からも狙われる。
これは最悪の選択肢だろうな。
・選択肢B-2:このまま追手に引き渡す
相手は姫様とか呼んでることから護衛の騎士か何かだろう。
最悪、曲者の一味と勘違いされる可能性はあるものの、一応は命の恩人ということで悪い扱いにはならないはずだ。
デメリットは、お嬢様に嫌われ黒ずくめ達とも敵対するだろうこと。
・選択肢B-3:見なかったことにして立ち去る
メリットは運が良ければ、このまま面倒事に関わらなくて済む。
デメリットはお嬢様に嫌われ、最悪は黒ずくめ達の仲間と勘違いされること
さて、どうしようか? まあ迷う必要も無いか。
「さあ、早くワタクシを連れてお逃げください! ああ……危ない処を助けられ、更にはお相手の殿方と逃避行だなんて、なんてロマンチックなのでしょう! まるで夢のようですわ!」
俺が選んだのは当然――。
「ははは、その通りこれは夢です。ですから本当のあなたは私などには会っていません」
「はい? 貴方様はいったい何を仰っているのですか?」
「それでは良い夢を『スリープクラウド』!」
――選択肢B-3である。
彼女の頭部を灰色の雲が覆い。
腕に寄りかかる彼女の重みが増す。
どうやらちゃんと魔法が効いて、眠ってくれたようだ。
あとは目覚めた時に、俺と出会ったことは全て夢だった。
そう思ってくれるよう祈るのみだ。
眠りついたお嬢様を路地裏に寝かせ、俺とナオは近くの屋根に飛び乗り身を隠す。
しばらくして現れたのは4人の騎士風の男女だ。
レベルは46, 44, 43, 41となかなかに高い。
そして、そのうちの1人のステータスは俺にとって見逃せないものであった。
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名前:フュンフ
種族:混血種(魔人/樹人)
モラル:24
レベル:41
筋力:51 (359)
耐久:49 (345)
敏捷:79 (556)
器用:56 (394)
精神:28 (197)
魔力:101 (711)
通常スキル:体術Lv2 小剣術Lv4 盾術Lv3 気配察知Lv2 風魔法Lv3 火魔法Lv4
固有スキル:守護結界Lv4
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そう、騎士の1人は混血種の少女であったのだ。
4人の騎士の内、彼女のレベルは最も低いし筋力と耐久も高くはない。
それでも彼女が中心になっているように見えるのは、スキルに依るものかもしれない。
固有スキルが有るのは彼女だけだし、魔法を実践レベルで使えそうなのも彼女だけだ。
他のメンツは全員、完全に脳筋タイプだからな。
見た目こそ幼いが、精神値的にはノルンと同じくらいだろうから、20歳以上30歳未満ってとこだろう。
それにしてはレベルが高い。余程の修羅場をくぐってきたのかもしれないな。
ちなみにこの子、魔法が得意な魔人と樹人の混血だけあって魔力が高い。
鑑定で見た種族のパラメータ上限は以下のような物だった。
基礎パラメータ上限:筋力(90) 耐久(85) 敏捷(135) 器用(100) 精神(100) 魔力(150)
耐久こそ低いものの、かなり戦闘に向いた種族と言えよう。
帝国は実力主義と聞いていたが、彼女のような混血種も騎士として受け入れてたとは、少し見直してしまった。
「お嬢様!? ご無事ですかお嬢様!」
「ううーん、もうちょっと寝かせて頂戴な……むにゃむにゃ」
「――――良かった、眠っているだけでしたか……。お嬢様! 起きてくださいお嬢様!」
「何よ騒がしいわね……。なんだフュンフじゃないの、どうしたのよ?」
駆け寄った女騎士に抱え起こされ、お嬢様が目を覚ます。
「どうしたのよじゃありません! どうして御一人で抜け出したりなどしたのですか?」
「そんなの結婚が嫌だからに決まってるじゃない! お父様はよりによって、闘技大会の優勝者と結婚を前提に付き合えなんて言うのよ!」
「宜しいでは無いですか。優勝するくらいですから、きっと頼りがいのある殿方ですよ」
「宜しくないわ! 闘技大会に出るなんて、絶対にガチムチの脳筋野郎に決まってるわ! ワタクシはもっとすらっと均整が取れた人が良いのよ」
ご愁傷様ですとしか言えない。実際に参加すると言っていたハッさんは、ガチムチ脳筋野郎であったしな。
ちなみに俺は転生時に背が伸び、冒険者生活の中で細マッチョと呼べるような体型になっていた。
まあ、足は前世同様に短めだけどね……。
「そんな事よりあなた、ここでかっこいい冒険者様を見かけませんでしたか?」
「見かけておりませんが、その冒険者がどうされたのですか?」
「先ほど黒ずくめの者達に襲撃された時、助けて頂いたのです! どうにかして彼をワタクシのものにしたいですわね……」
「襲撃されたのですか!? それを助けたのが冒険者で……では、なぜお嬢様は眠っていたのでしょうか?」
「確かにそうですわね……あれ、どうしてワタクシは寝ていたのでしょう?」
「ともかくお嬢様、今直ぐにお屋敷へお戻りください! その代わり、冒険者に関しては私達でなんとか致しますので」
「……仕方がありませんわね、ではお願いしましたわよ」
少女騎士はご令嬢を抱え上げると、残りの騎士に周囲の守りを固めさせて、路地裏から出て行った。
ふぃ~、なんとかやり過ごせたか。
つうか参ったな、なんか知らんが追われる羽目に……。
夢オチを期待するのは流石に無理があったみたいだ。
それにしても望まぬ結婚かぁ。
確かに当事者からすれば嫌だろうけど、そんなことに巻き込まれるのはごめんだよな。
この世界では、恋愛結婚できる者なんてのはそれほど多くない。
冒険者なんていうはみ出し者なら話は別だが、そうでなければ皆多くのしがらみを抱えている。
結婚とは親が決める物というが、未だにスタンダードだったりする。
特に貴族のお嬢様には、その自由は無い。
恵まれた生活が約束されている代わりに、結婚相手は自由に決められない。
多くは家と家との繋がりを結ぶために使われ、多方面の利害が関わっており、下手に手を出すと大火傷だけでは済まないだろう。
まあ、お嬢様としての権利を享受しておいて、義務を果たさないのも道理に沿わない。
少なくとも俺に手助けする気は無い。
もちろん、俺が彼女を好きなら話は別だ。
もしそうなら、道理なんて蹴っ飛ばして、彼女を攫って一緒に逃避行としゃれこむだろうけどね。
しかし、俺にはもう守るべき者達がいるのだ、軽々しく会ったばかりの相手の結婚事情に首を突っ込むほどに、若くはないのだった。
今回の件は、別に彼女の命が掛かっているわけでは無いのだ。
人助けをしたいのなら、スラムに行けば良い。
今にも死にそうな少女達がそれこそダース単位で、転がっている事だろう。
そこらの屋台で飯を買って行けば、彼女達の命を数日伸ばしてやることはたやすい。
わざわざ苦労してまで、1人の少女の願いを叶えるのか、
たいした苦労も無く、何人もの少女の命を救うのか、
俺だったら後者を選ぶね。
というわけで、罪悪感解消のためにも、ちょっくら孤児院への慰問にでも行くとしようか。
スラムで炊き出しなんてのは目立つし人手も足らない、ならば専門の人を援助するのが手っ取り早いだろう。
餅は餅屋だ。
アンズが買い出しに精を出す間に、スラム街にある孤児院の場所を聞いておく。
どうやらリヒテンブルク内のスラムで、ここから近くに3つの孤児院があるらしい。
最初の1件目は人の良さそうなお爺さんが経営していた。
お爺さんのモラル値は高く、院内の子供達も痩せてはいるが元気そうだ。
俺はここで、ナオの収納に入れてあったワイルドボアの肉を一匹分と、寄付金を銀貨50枚(多すぎない程度)渡してさっさと立ち去る。
これで1人でも養える子を増やせれば良いんだけど。
肉の分配は任せてしまって大丈夫そうだし、御礼をしたいから泊って行ってほしいとも言われたが、俺の行為は自己満足の代替行為でしかない。
丁重にお断りし、次の孤児院へと向かった。
2件目の孤児院はお婆さんが経営していた。ここはヤバかった。
職員のモラル値を見てすぐに、銀貨10枚の寄付金を置いて立ち去る。
どうしてモラル値が低いのか探ることはしない。
知ると助けたくなってしまうからな……。
見ない振りが出来ないならスラムなんかに入ってはいけない。
不幸な子供なんてのはこの世界には溢れかえっている。
いちいち助けてたら切りがないし、助けられもしないのに無理に抱え込んで、子供達もろとも潰れたりしたらシャレにならない。
3軒目の孤児院は妙齢のお姉さんが経営していた。モラル値は低くも高くもなかった。
院内の子供達は痩せてたりはせず、ちゃんと食べさせてもらっているようなのだが、不思議と大人しい子が多く見受けられた。
そして子供達はそれに輪を掛けた特殊性も抱えていた。
子供達の多くは複数種族の特徴を持っていたのである。
つまり、そこは混血種の子達を引き取って育てる孤児院だったのだ。
王道にはどうしても反したくなるんですよね。




