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男には避けようのない罠

 帝国第四の都市”リヒテンブルク”、ここは帝国の南側に位置する大都市である。

 南東に徒歩4日の距離には王国との国境が存在し、南西に徒歩3日の距離には獣国の縄張りでもある大森林が存在している。

 そのため両国に睨みを利かせる補給基地としての役割も担っていた。

 いざ戦ともなれば、この都市から各最前線へと兵士や補給物資が送られ、最悪の場合はこの街での防衛戦となるだろう。

 そのため高く頑丈な外壁で覆われ、頑丈な石造りの街並は軍事拠点のようにも見える。


 そんな物々しいはずの街が、今の時期だけは賑やかな喧噪に包まれていた。

 寒い冬の時期だというのに街中には人が溢れ、そこかしこの酒場からは賑やかな声が聞こえてくる。

 漏れ聞こえてくる話は、どれもこれも闘技大会の話ばかりだ。


 街についた俺達もすぐにその日の宿を探したわけだが、どの宿も宿泊客が一杯で、5軒目に訪れた宿でどうにか4人部屋を二つ確保するころには、とうに日も暮れ辺りは暗闇に包まれていた。

 ちなみにこの宿も、借りられるのは2日後まで。なんでも3日後から闘技大会予選が始まるらしく、3日後以降は予約で一杯ならしい。

 どちらにしろ俺達はまず、獣国方面に向かうのだ。問題は無いだろう。



 部屋に荷物を置いた俺達は、宿に併設された食堂で夕食を摂る。

 渡された食事は謎肉の腸詰がメインのスープに、蒸かしたジャガイモらしき芋類が二つ。

 味はそれほど悪くは無いが、少々量が物足りない。


 それなりに作りのしっかりした宿屋で、4人部屋食事付きで銀貨10枚(8人なので合計銀貨20枚)だったからこんなものだろう。

 食堂を切り盛りしてる女将さんに銀貨10枚を支払い、適当に追加の食事を運んでもらって皆で摘みながら、今後の予定を話し合う。


「取りあえず今日明日はこの宿に泊まって休息としたい。明後日にはこの街を発って、大森林との境まで向かうつもりだ」


「ということは、やっぱり闘技大会には出場しないって事よね?」


「そうだな。予選期間中に向こうに行って、帰って来た時に丁度本戦が始まる頃だろうなぁ」


「では、本戦の見学は出来るのでござるな?」


「ああ、それくらいなら良いだろう。高レベルな戦いは見るだけでも勉強になるだろうしな」


 ナオとマシロは我関せずとフライドポテト?を一心不乱に口に運んでいるが、スズとイリスは大会観戦に乗り気なようで嬉しそうにしている。


「観戦するのは良いのですが、そう簡単に観戦出来るものですか? 今日だって宿を探すのに苦労しましたよね?」


「あ゛! ……それもそうだな、明日にでもその辺り確認しておくよ。ノルン、指摘してくれてありがとうな」


「本戦は6日後から3日間かけて行われるみたいだから、最終日だけでも見学できると良いわね」


「そうでござるな、最終日の準決勝と決勝は見逃せないでござるからな」


 やっぱり観戦チケットみたいのが必要なのかな?

 明日にでも冒険者ギルドに顔を出して、ついでに聞いてこようかね。


「わかった。じゃあ明日は冒険者ギルドで情報収集だ。ノルンとイリスは一緒に来てくれ、残りはコテツとアンズに付き添って最後の物資調達だ。スズ、そっちは頼むな」


「任せて……と言いたいとこだけど、最近なんだか私とアスラが別行動ってのが多い気がするんだけど」


「それはきっと気のせいですよ。アスラさんも信頼してるからこそ、スズにもう一方のチームを任せてるのですよ」


「そんなこと言ってノルン、私が居ない間に抜け駆けする気でしょう?」


「うふふ、そんなことは有りませんよ。アスラさんも何か言ってあげてくださいよ~」


 そう言って俺の腕に手を絡め、しなだれかかってくるノルン。

 煽る気満々じゃんねこの子。


「しょうがないな……。じゃあ、スズとマシロはノルン達と冒険者ギルドに向かってくれ。俺はコテツ達と物資調達だ。これなら文句は無いよな?」


「えぇ、そんなぁ……」


「うぅ、せっかくのデートが……」


「しょうがないだろ。コテツ達は首輪や契約の件が有るんだから、俺かスズのどちらかは付いてたほうが良いだろう? それにコテツ達と一緒に行動するのも、たまには悪くないしな」


 俺がそういうと2人は不満げな顔ではあったが、どうにか納得してくれた。


「じゃあコテツにアンズ、明日は2人が俺とゆっくり話せる最後の機会となるだろう。何か要望が有れば、遠慮無く言ってくれていい」


「そんな……某たちにはこれ以上の望みなどは……」


「そうですよ。私達にはこれ以上は望むべくも有りません」


「そうか、まあ有ればで良いんだよ。有ればで」


 う~ん、最近何か言いたげにしてる気はするんだけどなぁ……。


 かといってあまり踏み込んだ事を聞くのも気が引ける。

 俺とコテツ達の関係を例えるなら、雇用主と労働者というのが適当だと思う。

 仲間というには対等では無いし、主従というほど深い関係でも無い。

 友人や家族なんてこともない。

 どこの世界に金で買っておいて、家族だ親友だ言う奴がいるというのか。

 いや、結構いるのかな……?


 ともかく、俺にとってコテツとアンズは今までしっかり働いてくれた従業員のようなものだ。

 退職金代わりに物資を持たせたり、多少の願いは聞いてやっても良いと思っている。


 言いたい事も言えずもやもやしたまま別れるのは好ましくない。

 出来れば円満退職と行きたいものだった。

 

 まあ、明日それとなく話をしてみるかね。

 

 食事が終わると各自の部屋へと戻り、その日は久しぶりにスズ達と色々してから眠りについた。

 色々というのはまあ、スズの身体に負担とならないよう舐め合ったりとか色々だ。

 この世界ではあまり一般的では無い行為だが、提案したら皆すんなりしてくれた。

 特にマシロはお気に召したようで、そのまま食べられるのかと恐ろしくなるくらいの勢いだったな。

 つうか、こんな事ならもっと早く頼んどくんだったな……。




 翌日は少し遅めに起きて朝食を摂り、二手に別れて街に繰り出した。

 俺はコテツとアンズ、ナオと一緒に市場の方へと向かう。


「さて、まずは何処へ行こうか?」


「私達の物資でしたら、残りは日保ちのあまりしない食料品類のみです」


「そっか、なら失敗したかなぁ? 朝市ならもうちょい、早い方が良かったかも」


「いえ、このくらいの時間のほうが、売れ残りが安く手に入りますので問題有りません」


 限られた資金で大量に仕入れるならそれも有りか。


「なるほどなぁ、今日は全てアンズに任せようかな。俺は勝手がわからんし」


「はい、お任せください!」


 俺とナオ、コテツはアンズに先導されて市場の中を練り歩く。

 アンズの露店のおばちゃんとの丁々発止な値下げ交渉を見る限り、俺が口を出す隙間は無い。

 付いて行っているだけの俺達は実に暇だ。


 うーむ、なんか買い食いでもするかな。

 

 露店では謎肉の腸詰を焙って売ってたり、煮込んだスープを一椀いくらとかで売っていたりもする。

 俺はオニオンスープらしき、具材がトロトロになるまで煮込まれたスープを二椀購入し、片方をナオに渡す。

 ナオは消化器官が未熟なせいか、固形物は好まないが消化の良いスープ類は喜んで飲む。

 小さな口でこくりこくりと飲む姿は、ひな鳥のようで庇護欲が湧く。

 

 俺が一口で半分ほど飲み干し一息つくと、コテツが何かに気付き耳を澄ませていた。


「どうした?」


「今、女性の悲鳴が聞こえた気が」


「どっちだ!?」


 コテツが「あちらに……」と指差すと同時にスープを無理矢理渡して、俺は走り出す。

 目指すは市場からは死角となっている、路地裏の入り口。


 路地裏に入ると確かに、奥の方から複数の人の気配がする。

 途中から足音を消して近づくが、俺なら速度をそれほど落とさずに走ることは出来る。

 

 人影が見えてくると同時に、端から鑑定でざっと見ていく。

 詳細は気にせずまずはレベルだけをチェック、慣れたものだから2秒と掛からない。

 

 路地裏の奥に追い詰められたレベル34の美しい女性が1人。

 対するは、逃げ場を塞ぐように武器を構えた黒ずくめの者達が5人。

 レベルは俺から見て右から38, 39, 35, 40, 39。


 これなら――。


「どりゃー!」


 ――気配を感じて振り向いた右端の黒ずくめに、アックスボンバーをかまして通り抜ける。


 そのまま女性の前へと回り込み、剣を構えて黒ずくめへと向き直った。

 俺の技を頸椎に食らった相手は、地面に叩きつけられて失神している。残るは4人だ。


「何者だ、キサマ!」


「人に名前を聞くときは、自分から名乗る者だろう?」


「……どうやら命が惜しくないものと見えるな」


「そんな悠長に話をしてる場合かな?」


「何「どーーーん」……何だ!?」


 左端の――今の俺から見て右端の――黒ずくめが水平に飛んでいき、路地裏奥の壁にめり込んで止まる。

 ドロップキックをかましたナオは、俺の真横に相変わらずの綺麗な着地を決める。


「満点だな、後で花丸を上げよう。さて、これで2対3か」


「く! まだだ!」


「いや、撤退だ。俺が時間を稼ぐ」


 残る3人のうち真ん中の1人が切りかかってくる。

 レベルは確か35で声を聞く限り男、ってうおっ!?

 寸でのところで剣を掲げて防御した。


 何だこいつ、想像以上に速いぞ!


 何度か切り結ぶが、もしかしたら俺よりも速いかもしれない。

 それでも力は俺のが上、このままなら押し切れるはず。


「負傷した2人は回収した! お前らもすぐに撤退しろ!」


「了解、いくぞ」


 その言葉と共に、目の前の男が何かが入った袋を放り投げ、それに刺さるようにナイフを投擲する。


「ちぃ、退避だ!」


 もう1人の男と対峙していたナオの手を掴み、俺の胸元へ引き寄せて庇う。

 狙われてた女性は知らん。離れてるからたぶん大丈夫……と思おう。


 俺が背を向けた途端に周囲に閃光が走る。目くらましか。


 光が収まり周囲を見回すと、見えたのは黒ずくめ達の後ろ姿だけだ。

 最後の悪あがきに鑑定で見ると、最後尾は俺と切り結んだ男だった。


----------------

名前:ドライ

種族:普人族

モラル:61

レベル:35

筋力:49 (257)

耐久:47 (247)

敏捷:53 (278)

器用:44 (231)

精神:32 (168)

魔力:38 (200)

通常スキル:体術Lv3 小剣術Lv3 二刀流Lv3 投擲術Lv3 気配察知Lv2 水魔法Lv3 風魔法Lv3

固有スキル:偽装工作

----------------


 くっそ! レベル35とかやっぱり嘘だろ?

 この『偽装工作』ってスキルで誤魔化してやがるよな、たぶん。


 あと、他の奴等の種族が魔人族だったのは覚えている。

 ということは、このドライって奴も本当は魔人族なのかもしれない。

 相手した感じだとたぶん、レベルは45~50ってとこだろう。


 異種族が関わってくるようなのは間違いなく厄介事だし、これだけの手練れを放つって事は黒幕もそれなりの権力者のはず。

 思わず手を出してしまったが、これは迂闊な事をしたかもしれない。

 でもさ、男として助けられるなら普通助けちゃうよねこういうのって……ある意味罠だよなこれ。


 等と後悔していると。


「このたびは助けて頂き、本当にありがとうございます。わたくしの名はエレーナ、貴方のお名前を伺っても?」


 と、いかにも高貴そうな女性が話しかけて来た。


 どう見ても厄介事ですね……はい。

 このまま知らんぷりして、帰っちゃっていいかな?


 今更かもしれないが、外套のフードを被り口元も隠して女性と向き合う。


 なんかさっきこの子のレベルを見た時、見覚えのある名前を見たような気もするんだよね……。

 もう一回鑑定してみちゃおうか。


----------------

名前:エレーナ・フォン・リヒテンブルク

種族:普人族

モラル:64

レベル:34

筋力:46 (230)

耐久:49 (245)

敏捷:54 (270)

器用:51 (255)

精神:23 (115)

魔力:52 (260)

通常スキル:体術Lv2 小剣術Lv3 盾術Lv3 弓術Lv3 気配察知Lv2 異次元収納Lv2 生活魔法Lv3 光魔法Lv3 火魔法Lv3

固有スキル:戦乙女

----------------


 あははー”リヒテンブルク”ですか、そうですか…………この街の名前も”リヒテンブルク”だよね、こりゃ厄介事確定ですわー。

 ほんとこういうテンプレとか要らないですからー。マジで。


 つうかアレですか、珍しく転生主人公っぽい事した罰ですかねこれ?




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