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降りかからない火の粉は払わない

 俺達を案内してくれている自警団の青年のモラル値表示は-300を下回り、重犯罪者を示す赤色であった。

 これは何かあるなと、見かけた人を片っ端から鑑定していくと、いずれのモラル値も犯罪者を示す赤色もしくは黄色の文字で示されていた。

 

 まったく帝国に入った途端にこれか……。


 案内された宿屋に入ると、中に居た宿の主人と女将さんのモラル表示も真っ赤だ。値的にはこの2人がこの村では一番低いかもしれない。


「やあおじさん、冒険者さん達を案内して来たんだけど、部屋は空いてるかな?」


「あいよご苦労さん。部屋ならいつものが空いてるぜ。ひい、ふう、みいの……8人か、2人ずつの4部屋でよけりゃあ合計銀貨1枚でいいぞ。もちろん食事も後から部屋に運んでやるぞ」


 確かに安いな。

 しかし俺には「格安にしとくから戦力分散してくれ、残りのお代は後で徴収すればいいんだからよ」としか聞こえなかった。

 当然、食事には何らかの薬物が盛られている事であろう。


 こんな所に泊まるのは嫌だが、かといって吹雪の中で野営するというのも勘弁してほしいところだ。

 やはりここは多少強気に出ても、穏便に済ませる努力をすべきだろう。


「いえ、雑魚寝でも構いませんから8人で泊まれる大部屋はありませんか?」


「大部屋かぁ……有るにゃあ有るがあそこは強い奴ら向けの頑丈な部屋だからけっこう高いぜ。あんたら強そうには見えねえけど払えんのかね?」


「ははは、こう見えても強いんですよ。私はシルバーランクの冒険者ですし、他の子達もブロンズランク上位の力はあるはずです。この前だって宿で馬鹿な野盗共の襲撃に逢ったんですがね、軽く皆殺しにしてやりましたよ」


 そう笑いながら冒険者カードを見せてやると、宿の主人が顔に冷や汗をかき女将さんの顔も蒼くなる。

 スズとノルンも納得したように一つ頷いて冒険者カードを見せ、今一分かって無さそうなマシロとイリスにも冒険者カードを出すよう促していた。


「どうですか、分かって頂けました? 私達は一晩の宿を、貴方達はその対価として宿代を。お互いビジネスライクに行きましょう」


「ビジネスライクってのが何かは知らんが…………参った、降参だ。大部屋は銀貨10枚、食事は「もちろん要りません」……だよな」


「では交渉成立ということで、部屋にはもう入れますか?」


「悪いけど少しだけ待ってくれ、今は村の者が臨時で使っていてな。おい、ちょっと言ってきてくれ」


 女将さんが「あいよ」と答えて部屋に向かって直ぐに、十人ほどの武具を装備した厳つい男たちが宿から出ていくのが見えた。

 試しに鑑定を掛けてみると、いずれもレベルは20前後でモラル表示は真っ赤だ。

 なるほど、戦力が分散したところを宿の内側から集団で襲い掛かるのか……。

 これって完全に村ぐるみの組織的犯行だよな。


 大部屋の中で女将さんがしばらくドタバタと――たぶん掃除をしてるんだろう――した後に戻ってくる。


「部屋の準備は出来たから、いつでも使っておくれ」


「ありがとうございます。それでは早速休ませていただきますね」


 とりあえずこれで大丈夫だろう……。


 俺達は銀貨10枚を支払い、大部屋に入ってそれぞれ休息に入った。




 部屋に入った俺達は、暖炉の前に陣取って一息つく。


 まったく今日は酷い目に会った。


 こうも負の面を連続で見せられると、たいしてこの国を知らないというのに嫌いになってしまいそうだ。


 溜息を一つ吐き、部屋の中の面々を見まわす。

 ナオとマシロは既に横になって眠る準備は万端。

 コテツとアンズも完全に座り込んで休憩しているが、警戒を解いていないようだ。

 スズとノルンは今後の事を話し合っているようだが、時より笑い声も聞こえてくる。


 イリスだけが納得がいっていないような顔で、俺の傍に立っていた。


「拙者には先ほどの話会いで、何がどうしてああいう流れになったのかとんと理解が出来ぬのでござる。なぜ主殿は力を見せてまで村人を追い出し、大部屋を借りたのでござるか?」


「ああ、それなぁ……まあ簡単に説明するけど、静かに聞いてくれよ。まずは前提として、この村の人達は皆なんらかの犯罪を犯している」


「それは真でござるか!?」


「頼むから静かにな……モラル値的には間違いないよ。それでだ、その犯罪の舞台がこの宿だろうと推測したわけだ、それで2人部屋に別れる事での戦力の分散を許さず、大部屋から敵戦力を追い出したというわけさ」


「やはりそうだったのですね、こんな小さな村にちゃんとした宿があるなんて、おかしいとは思っていたのです」


「どうりで、どいつもこいつも厭らしい目つきをしてると思ったわ」


「さっきまで敵意がたくさん。でも、今は怯えてるみたい」


 ノルンとスズ、マシロが俺の説明を補足してくれる。


「なるほどそれで……では、これより敵を殲滅するのでござるな」


「いいや、それはしない。少し多めに宿代を払う事で、お互い不干渉を貫こうと交渉したのがさっきの話の趣旨だ」


「うん、そこまでは私も分かったんだけど、退治しなくて良かったの? あいつらがしてるのって野盗みたいなものなんじゃない?」


「そうなんだけどな……でもさ、退治したら退治したで厄介な事になりそうじゃん?」


 スズがいう事ももっともなのだが、今回に限っては単純に野盗を相手するのとは話が違う。


「そうですね。曲がりなりにもこの村は、普通の村に見えますからね。もし私達が村人を害せば下手をすると、犯罪者としてこの国に追われかねません」


「あーたしかにそだね。この村の人たちって、普通に良い村人にしか見えなかったものねぇ……」


「ならばこの辺りの領主に訴え出たらどうでござるか? このまま悪人を放置するのも忍びないでござるよ」


「それも辞めておいた方が良いかな……。こんな村が放置されてるってことは、黒幕はそれなりに権力を持つ相手だろうからな。それこそ訴えた先の領主が黒幕だったりしたら、身に覚えの無い罪で投獄されかねん」


 俺達がいくら間違っていると声高に叫んだところで、誰も聞いてはくれないだろう。

 この土地に長く住んでいる村人達と余所者の俺達、どっちの言を信じるかなんてのは言うまでも無いだろうからな。


「それでは、拙者達は何もしないというのでござるか?」


「本来、犯罪を取り締まるべきなのは国であって俺達じゃない。俺達は冒険者であって正義の味方でも何でもないんだ。降りかかる火の粉は払うが、自ら厄介事に首を突っ込むような真似は止そう」


 個人に出来る事なんてのはたかが知れている。

 それを見誤って無茶したつけは、自分だけでなく仲間にも降りかかるのだ。

 正義なんていう実体のないものに囚われて、パーティを危険に晒すのはリーダー失格と言えよう。


「むむう今一スッキリしませぬが、承知したでござるよ」


「私は納得したよ。でも、警戒だけは必要よね?」


「そうだな、3交代で見張りを立てて休むとするか。悪いんだがマシロだけは2番目と3番目の両方を担当してくれ。その分明日は俺が背負って走るからさ」


 マシロが「任せて」と快諾してくれたため、3人ずつの3交代で見張りを立てて一夜を明かした。

 ちなみに1番目が俺、スズ、ナオ、2番目がマシロ、コテツ、アンズ、3番目がマシロ、ノルン、イリスだ。


 結局は事前の交渉が功を奏したのか、宿で襲撃を受ける事無く吹雪の夜を乗り切ることが出来た。

 



 翌朝になると吹雪は止んでおり、俺達はそそくさと村を後にした。

 だいぶ雪は積もっているが走れないほどではない。


 背中からは安らかな寝息が聞こえてくる。

 俺はマシロを起こさないよう、上体を揺らさないよう気を付けて走り続けた。

 冬場はスノウウルフやスノウハーピー、アイスゴーレムなんかが出るらしいのだが、幸か不幸か遭遇することも無かった。

 やはり移動速度が速いと襲いずらいのだろうな、馬車や徒歩でトロトロ移動してると襲撃を受けるに違いない。


 道中が順調だったためか、陽が落ちる前には帝国第四の都市リヒテンブルクに着くことが出来た。


 リヒテンブルクは都市というより軍事拠点といったほうがピンとくる佇まいだった。

 街を取り囲む壁は高くて軽く10メートルは超えるだろうし、門の警備も物々しい雰囲気だ。

 冬場だというのに街へ入ろうとする人は多く、いかにも強そうな男たちが門の前で列をなしていた。


 俺達もその列の最後尾に並ぶと、前の男が話しかけて来た。

 世紀末に出没しそうなトゲトゲしい革鎧を着たモヒカン男だ。

 寒くないのだろうか、特に頭とか……。


「ようあんちゃん! もしかしてあんちゃんも闘技大会の出場者かい?」


「いえ私達は別の用事で来ました。ですが、余裕が有ったら見学くらいはするつもりですよ」


「そら良かった! あんちゃんは強そうだからな、ライバルは少ない方が良いに決まってる」


 レベルは36で大剣術レベルが4となかなかの強者だ。

 彼に鑑定系のスキルは無いため、俺の装備や動作から強さを見破ったのかもしれない。


「あなたもお強いですね。ここの闘技大会というのはあなたのような強者ばかりが集まるのでしょうか?」


「へへ、まあな。俺様の名はハッサン、『豪剣のハッサン』だ。王国ではちったあ名が知れた冒険者なんだぜ」


「なにちんたらしてんのよ、次は私達みたいだよハッサン!」


「わりぃわりぃ今行くって! じゃあ俺達は行くけどよ、見学すんなら応援頼むぜ、えーっと……」


「冒険者のアスラと申します。ハッサンさん、闘技大会での健闘を祈ってますよ」


「あんがとよ、またなアスラ。次会ったら一緒に酒でも酌み交わそうや」


 仲間らしい男女達と共にハッサンは門番の方へと行ってしまった。

 

 見た目はアレだが悪い奴でもなさそうだ。

 モラル値的にも一応はプラスの値だったしな。


 それにしてもハッサンかぁ、どっかで聞いた事が有る気がするんだが……。

 レベル的にはブロンズランクだろうし、ブロンズランクの冒険者にも一応は二つ名のような物が付く場合はあるが、その名が知られてるのはせいぜいが拠点にしてる街の中程度だ。

 ちなみに俺の固有スキルの所為か俺の二つ名は何故か覚えられていないし、スズ達の二つ名は付いてすらいない。

 それに王国で名が知れてるっても大袈裟に言ってるだけで、有名な冒険者ってわけでは無いはずだ。

 それなのに俺が聞いた事が有るって事は、直接見聞きしたことが有る相手って事だろう。


 う~ん、ハッサン、ハッサン、ハッサンさん……ハッさん?

 思い出したよ、ハッさんじゃん! 


 あれだ初めて冒険者登録した時、ゲイルくん(イケメンくん)に絡んでたチンピラ(5話参照)がハッさんのはずだ。


 そういやゲイルくんが死んだのって、結局は何が原因だったんだろうな?

 俺は勝手にハッさんの所為だと思ってたわけだが、真相は闇の中だ。

 まあ、今更知った所でどうにかする気も無いけど、知れば対応を考えられる。

 ハッさん達には近づかないとかね。


 まあモラル値はプラスになってたし、あれから5年も経ってるんだ。

 例えあの時の犯人がハッさんだったとしても、今は更生してるって可能性もある。

 この5年で俺にも色々な事が有ったのと同じで、ハッさんにも色々あったんだろうしな。


 その辺り、一緒に酒を酌み交わしながら話をするのも良いかもしれないな。

 ゲイル君の死の真相も気になるしね。

 

 等と過去に思いをはせながら、俺は帝国の都市へと足を踏み入れたのだった。


 あっ、入市税は1人銀貨1枚だったよ。

 良心的だなって思っちゃったのは既に帝国に毒されちゃってるんだろうな、他の国だと冒険者なら無料で入れるんだからさ。





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