表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
103/113

過去から忍び寄る足音

 クレアに場所を聞いて、ノルンとマシロ、ナオの3人をつれて冒険者ギルドへと向かう。


 時刻はだいたい午後5時といったところだろう。宿の外は雪が降っており、暗い通りに人通りは多くない。

 女性陣はフードとマフラーで特徴的な耳や髪を隠してもらっているが、道行く人も防寒の為か同じような恰好の者も目に付く為、目立つことは無さそうだ。



 俺達が今向かっている冒険者ギルドは、街の中央にあるギルド本部であった。


 余談だが、この工房都市に冒険者ギルトと呼ばれる場所は、街の中央と東西南北の5ヵ所存在する。

 街の中央にギルド本部、外に通じる街門付近に出張所を設ける。これは、大きな街の冒険者ギルドに良くある形態である。


 街門付近の出張所では、主に討伐依頼や狩猟依頼、採取依頼といった、常設依頼の受注と完了報告が可能だ。これは街門付近で依頼物のやり取りを完結させることで、外部から持ち込まれる魔物の死骸や臭いの強い植物等を、出来る限り街中に持ち込ませないようにとの、住民に配慮した処置である。

 各方面で出現する魔物の種類や、採取可能な植物が異なるため、各出張所で受注可能な依頼は多少違ったりもする。

 各出張所で冒険者に特色があったりするのも面白い。

 工房都市を例に挙げると、北は学問都市へ通じるため理知的な冒険者が多いが、南は狩猟都市へ通じるため荒くれ者が多い、東には。狩猟都市であれば南に白龍山があるため、高レベル冒険者が南出張所に集まる、といった感じだ。


 ギルド本部では基本的にギルドの事務・運営を行っているが、高難度の討伐依頼や、特殊の護衛依頼などもここだ。

 常時は出現しないような強大な魔物が現れた場合は、ギルド本部と出現した方面の出張所に討伐依頼が出される。完了報告はギルド本部にするのが一般的だ。

 護衛依頼については、一般的に街道の護衛依頼は傭兵ギルドの担当なのだが、街道以外での護衛は冒険者に依頼されることが多い。傭兵は対人戦闘を得意とし、冒険者を魔物討伐を生業としているため、野盗が多く出る街道では傭兵の護衛、魔物が出現する森や山では冒険者の護衛といった住み分けがされているのだ。

 ただし、傭兵は街に居付く者が多いため、各自決まったルートの護衛はするが、人にくっついて護衛をするといったことはしない。そのため、行商人のように様々な街を言ったり来たりするような者の護衛を、傭兵は嫌がり、冒険者がそれを担う事も少なくない。

 アウラさん達が冒険者でありながら、ブルーノさんを護衛していたのも同様の理由だったのだろう。そして冒険者は、対人戦の経験が少ない者が多い為、不覚をとったのだろう。


 魔物は本能に忠実であり、良くも悪くも素直だ。それに比べて人の悪辣さと言ったら……おっと、話がズレてきたな、一旦戻そう。


 ともかく、出張所は各方面の常設依頼に特化しており、それ以外はギルド本部の担当となる。街を移った際の報告をするのもだいたいここで、クレアが訪ねて俺達を呼ぶよう言われたのも、ギルド本部であった。


「それにしても、俺達が呼ばれるなんて初めてじゃないか?」


「そうですねぇ、ランク的には指名依頼などで呼ばれてもおかしくないのですが……ですが、あり得ないというほどでは有りませんね」


「そうだな、シルバーランクったって結構いるからな。わざわざ、俺達みたいなのを指名する奴も居ないだろ」


 シルバーランクの冒険者は狩猟都市だけでも100人近くは居たのだ。その中で、名が売れているのは地元出身の冒険者だったり、高難易度の依頼を達成したりした者達くらいだ。

 俺達のように、ワイバーン狩猟の常設依頼を地道にこなしていたような冒険者が目立つことはない。更には俺の固有スキル『エアマスター』が働いている所為か、全くと言っていいほど目立ってなかった。知られていたとしてもせいぜい、日常的に利用していた狩猟都市の東方出張所内に限られるだろう。

 そんな俺達がわざわざ呼ばれるのだから、ギルド側からのアクションというよりは、ギルド側へ何らかの働きかけがあった事に対するリアクションと考えた方が良いだろう。


「でしたらやはり、クレアさん同様、誰か他のかたが訪ねてきたとかでしょうか?」 


「それもなぁ……クレア以外だと心当たりも無いんだよな」


 この世界に来てもうすぐ5年も経つと言うのに、訪ねて来てくれそうな知り合いが思いつかないなんてな……。

 ほんと我ながらコミュ力が低すぎる。


「行けばわかる、それよりごはん」


「それもそうか……よし、さっさと用事を聞いて、飯にするか!」


 マシロの呟きに頷き、ギルドへの道を急いだ。




 ギルド本部の中は閑散としており、冒険者らしき姿は無く、4ヵ所ある受付窓口で開いてるのも1ヵ所のみだ。


「あのー、シルバーランクのアスラと申しますが、こちらでお呼びと聞いて来たのですが……」


 窓口に座った20代半ばほどの受付嬢に、ギルドカードを提示しつつ話し掛けた。

 

「はい伺っております。担当の者をお呼びしますので、少々お待ちください」


 そう告げて一旦は奥に引っ込んだ受付嬢が連れて来たのは、如何にも事務員といったような真面目そうな青年であった。


「お待たせいたしました。僕はこちらで依頼の受注担当をしているものでして」


「はあ、受注担当ですか?」


「はい、僕のようなギルドの受注担当が依頼者様からお仕事を受けるかどうか判断した上で、皆様のような冒険者のかたに依頼としてお出ししているわけです」


 ふむふむ、冒険者が何でも屋だからって、どんな依頼も受けているわけでは無いのだな。ある程度の見識や良識がある者が、依頼料や難易度的に問題無いか判断して受けているのだろう。


「なるほど。それでその受注担当殿が、私にどういった御用ですか?」


「それなのですが……数日前に依頼と言いますか、貴方のお仲間に関する、情報開示を要求されたお客様が来ましてね。少々、風体の怪しい方でしたので、お伝えしておいた方が良いかと思いましてね」


「それはまた……わざわざ有難うございます。その様子ですと、情報については開示していないという事で良いですか? あと、その時の事について詳しくお伺いしても?」


「勿論です。ギルド員の個人情報は、基本的に外部に漏らすことは有りませんのでご安心を。後はその時の事についてですが…………」


 彼は憶えている限りの事を教えてくれた。ちなみに料金は無料であったが、これ見よがしに見習い冒険者救済のための寄付金の話を出されたため、銀貨5枚ほど支払っておいた。

 まあ話を聞いた限りでは、情報の横流しなどせずに警告までしてくれたわけで、銀貨5枚くらい安い物だ。


 どうやら、フードで顔を隠したガタイの良い剣士風の男が、スズという混血種の女性が登録していないか、登録していないなら探せないかと聞いて来たそうだ。

 事務員が、ギルド員の情報開示は不可能であると告げ、人探しといった依頼をするのであれば依頼者の身元の確認が必要だと話すと、その剣士風の男は何も言わずに立ち去ったのだという。

 その後、気になった彼が律儀にもスズの事を調べて、パーティリーダーとして登録していた俺に警告してくれたというわけだ。


 うーむ、スズを訪ねて来た剣士風の男か……誰だ?

 スズ関連で思いつくのはあいつくらいだけど、まさか騎士がそうそう国元を離れるとも思えんしなぁ。

 どちらにしろ、さっさとこの国を離れたほうが良さそうだな……。

 

 俺達4人は、事務員の青年に感謝と別れを告げてギルドを後にした。




 ギルドからの帰り道、商店の一角の酒場の横を通り過ぎようとした時の事だった。

 マシロの被ったフードがピクピクと揺れる。


「マシロ、どうかしたか?」


「……いる、ヤバいやつ。なに、これ? 怖い」


 酒場の方向を見てブルブルと身体を震わすマシロは、フードの下の顔は真っ青であった。俺は抱きしめてやりたい気持ちをグッと堪えて、まずはやるべき事を優先する。


「ノルン、マシロを頼む。ちょっと様子を見て来る」


「近づいても大丈夫なのでしょうか?」


「流石に街中で襲ってくるって事は無いだろう。一応、いつでも逃げれるように準備を」



 そう言い残した俺が、酒場に入り周囲を見回すと案の定、テーブルに座る剣士風の男が目に付いた。

 室内のためかフードは脱いで背中に垂れており、肩口から馬鹿でかい大剣の柄が見えている。腰には手頃なサイズの長剣も下げ、どちらも使い込まれている様子を見ても、歴戦の強者の雰囲気を感じる。

 横顔を見るに、見覚えのある普人族の壮年の男性だ。


 やはりこいつだったか……。それにしたって、こんなとこで見つけるとか、何たる運命の悪戯か。


 俺は彼から少し離れたテーブルについて、取りあえずエールを一杯頼む。


 マシロの『絶対感知』がどういう仕組みでこいつを敵と判断したのかは不明だ。彼女の第六感がそう断じたのかもしれないし、彼に染み付いた同族の血の臭いを感じたのかもしれない。それでも彼女が敵と感じ、恐れたのはこいつで間違い無いだろう。


 図書塔に通っていた時、俺は有名な強者についても情報を集めていた。その中には彼の記載も当然会ったのだ。


 曰く『獣狩りの勇者』、曰く『一刀両断の騎士』。

 彼は獣国との戦で名を上げた騎士らしく、彼が背負った巨大剣に切れない物は無いという。戦では俊敏な動作で向かってくる獣人達を、ことごとく一刀両断に切って捨てたらしい。


 彼の名はレオン・バロール、サウリア王国が誇る王国十剣の第九席、俺が初めて殺した変態貴族に仕えていた男である。



 ともあれ、まずは情報収集だ。

 出来るだけ焦点を合わせないように奴の方を向き、鑑定を発動させる。


----------------

名前:レオン・バロール

種族:普人族

モラル:334 ↓48down

レベル:58 ↑2up

筋力:71 (1146) ↑3up

耐久:67 (1081) ↑4up

敏捷:49 (791) ↑3up

器用:53 (855) ↑1up

精神:54 (871) ↑1up

魔力:25 (403) ↑1up

通常スキル:体術Lv4 大剣術Lv5 槍術Lv4 小剣術Lv3 斧術Lv3 弓術Lv3 盾術Lv3 気配察知Lv3 異次元収納Lv3 生活魔法Lv2 土魔法Lv3 人物鑑定Lv3

ギフトスキル:大剣の才

----------------


 気のせいか、以前よりも強くなっているような気さえする。


 こいつが来たということは、主を殺された復讐だろうか?


 たしかこの男は、スズがあの変態貴族に囚われていた時、孤児達を商都連合の学校へと護送していたはずだ。

 スズもその中にいると聞かされていたはずだし、今になって事の真相を、あの屋敷に居た使用人とかに聞いたのかもしれない。


 まあ、たまたまこっちに来てるだけかもしれないし、まだ断定は出来ないな。

 俺はエールを傾けつつ耳を澄ませて、彼とその向かいに座る男との会話を盗み聞く。


「…………確かにその雑種のメスは、その宿屋にいるんだな?」


「へい、さっき来た客が、きれいな娘達がその宿屋に入っていくのを見たって話で、何でもその中の1人は顔に鱗が有ったそうで、他の娘も雑種じゃねーかって噂してたんでさぁ」


「確かに、それなら行ってみる価値は有りそうだな」


 既に特定されてるじゃん!?


 急いで帰って荷物をまとめて逃げるか? それって自分の罪を認めてるようなものだよな。

 もし、彼が話を聞きたいだけだった場合、その時点で罪人として追われる事になってしまう。

 足止めするにしても、直接自分から話し掛けるのは怪しいし、うーむ。


「それで、その宿への道案内を出来る奴は居るか?」


「ちょいと時間は掛かりますが、良いっすかね?」


「ふーむ、どうするか……」


 おっ、これだ!


 レオンと向かいの男の話声を聞き、渡りに船な案を思いついた。 

 俺は席を立つと、カウンターの店員に自分の宿へと酒を一樽運ぶようにと依頼する。勿論、彼に聞こえるように自分の宿の名前を出した上でだ。


「ちょっとそこの君、もし良ければ、自分を君の宿へと案内してくれないだろうか?」


「案内……ですか? まあ、構いませんが」


 かかった!

 俺は胡乱げな態度を見せつつ答える。


「そうか助かる。こうも順調に物事が運ぶとはな、どうやら自分には神の御加護があるらしい」


 そう言って「ハッハッハ」と笑う彼を見ながら、俺も心の奥でほくそ笑む。


 どうやら俺にも神の御加護があるらしい。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ