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気付いた時には道は狭まっている、そんな時もある

更新、ちょいちょい遅れてすみません。

章も終盤に差し掛かり、一気に〆たいところ……頑張ります!

次章も次々章もはよ書きたいす。

 しんしんと雪が降り積もる中、俺達8人は工房都市へと向かって街道をひた走っていた。


 真昼間ではあるが厚い雲に覆われ、辺りは薄暗くて肌寒い。

 肌寒い程度で済んでいるのは、俺達のレベルが高いからであり、一般の人々はこんな雪の日に旅をしようなどとは考えないだろう。

 降り積もった雪で街道を判別しずらかったが、だいたい50メートル間隔で街道脇に木杭があるおかげで、迷わずに進めていた。



 俺は黙々と走りながら、この長いようで短い学問都市での20日間を思い出す。


 以前にも少し述べたが、俺は最初の2週間、図書塔通いと錬金術に明け暮れていた。

 その後、ちょっとした錬金術の失敗で3日間の休息を取る羽目になったものの、最後の2日でニアちゃんから報酬の紹介状を受け取ったり、アウラさんやブルーノ夫人、クルトへの別れを告げて、こうして工房都市へと戻っているところだ。


 ニアちゃんから受け取った紹介状は3通で、帝国、迷宮都市、皇国の各お偉いさんへ向けた物らしい。

 ただし、帝国の紹介状だけは出来れば使わずに、最後の手段とするよう忠告された。お相手がなんとも厄介な人物らしい。

 元々、帝国では長居するつもりも無かったし、コテツとアンズを解放したら直ぐに迷宮都市へと向かうので問題は無い……はずだ。



 アウラさんはクルトの強化育成を快く引き継いでくれた。

 彼女もひどい目にあっただろうに、ここまで早く立ち直ってくれたのは正直助かったという気持ちが強い。

 別れた時のボロボロなクルトを見るに、彼女の育成方針が完全にスパルタなのが少し気になったが、まあ死にはしないだろう。あのドM野郎にはスパルタくらいが丁度良い。

 

 ブルーノ夫人もこの20日間で、怯えずに俺と話せる程度には回復してくれた。

 時より思い出したように取り乱し、クルトに罵声を浴びせているようだが、罵声に驚いた自らの赤子の泣き声を聞くと、すぐに正気を取り戻すらしい。やはり、母は強しと言ったところか。これからも自分と子供の為に、せいぜいクルトを利用し尽してやってほしい。

 

 一方でディアナさんは、未だにユーリくんを失った事から立ち直れていないらしく、今は学問都市の教会にて泊まり込みのカウンセリング(もちろん有料だが)を受けている。

 アウラさんの話によると、彼女の考え方は180度変化し、今では殺人や強姦の罪を犯した者は皆殺しにすべきと話していたそうだ。ほんと極端から極端に走ったものだ……。

 流石にアウラさん1人の手には余り、このままでは拙いとニアちゃんに相談して、更生施設を紹介してもらったのだ。

 魔物や野盗に襲われて心を病む者は少なくない為、この世界では主に教会が、そういった者達(ただし裕福な者に限る)の社会復帰の助けとなっているらしい。


 ディアナさんにも早く立ち直って欲しい所だが、正直難しいかもしれない。

 彼女が被害者と加害者の事を真摯に考え、自分もまた被害者になる可能性があるのに気づき、それでも命は尊いものだと、そう考えて野盗を赦していたのならば、その考え方自体は尊敬に値する物だ。

 しかし、彼女の現状を見るに、どうやらそうでは無かったようだ。彼女は自分が被害者になるなど夢にも思わなかったのかもしれない。

 今回の事件を乗り越えて、被害者と加害者の双方のために行動できるような人物になって欲しいところだが、流石に無茶振りというものだろう。

 そう願う俺自身が、加害者を赦すほどの度量を持った大人では無いのだから。


 何だかんだ言って、俺を含めて一番の大人なのはアウラさんなのかもしれないな。


 恩人のディアナさんを支え、罪滅ぼしかもしれないがブルーノ夫人の面倒も見、クルトの育成を今はしてくれている。

 ブルーノ夫人護衛の為とは言え、元が仇の仲間であったクルトを鍛えるのは、複雑な想いも有るに違い無い。

 それでも一時的な感情をグッと堪えて、残された者達の為に行動ができている彼女は大人だ。


 俺が彼女の立場だったら、例え相手を生かしておいたほうが将来の為と分かっていても、感情に身を任せてクルトを殺していたかもしれない。

 まあ、そういう立場にならないよう努力しているつもりでは有るが、絶対という事は無い。もし、俺の仲間が1人死んだとして、俺は他の仲間の為の行動を選べるだろうか?

 現実は非情だ。1人の死に囚われて、気付いた時には破滅への道を突き進んでいたなんて事も有り得る。彼女達の事は、他人事で済まして良い事では無かった。

 俺はパーティのリーダーでもあるのだから、最悪の事態も想定しておくべきなのだ。



 そうそう、クルトの強化についてだが、当初はオークとタイマン張れる程度と考えていたのだが、これは少々無茶振りが過ぎた。

 元々が一般人に毛が生えた程度だったクルトを、20日で一人前の戦士に出来るほど、この世界はファンタジーでは無かったのだ。


 コテツとアンズの指導の下、陽が高い内はゴブリンやコボルトといった魔物を狩り、夕方は剣術や体術の訓練をし、夜は『休眠薬』で強制的に休息を取る。

 そんな毎日を送ったクルトのレベルは9⇒12になり、ゴブリン以上コボルト以下だったのが、コボルト以上オーク未満になった程度に留まった。

 よくよく考えると、経験値3倍の俺でさえレベルを9⇒12にするのに、クエストをこなしながらだが2ヵ月くらいかかったのだ。

 エグい副作用の代わりに成長には持ってこいの『休眠薬』を使ったとは言え、たった20日の成果としては、破格と言えよう。


 試しにオークとタイマンさせてみたら10分くらいはもったが、助けるのが遅れて危うくクルトが死ぬところだった。クルトはこの20日のスパルタ教育の間に、何度か死にかけてはノルンの『エクスヒール』の被験者になったりもしているので、今更ではあるが……。

 学問都市と工房都市間の街道で出現する魔物はゴブリンやコボルトが多く、稀にはぐれオークが出没する程度だと言う。オーク相手に10分持つなら、最悪でも時間稼ぎの壁役にはなるだろう。頑張れクルト……お前の命はきっと無駄にならない。



 さて、ここまでで話題に登場していないクレア達についても、この機会に話しておこう。

 

 彼女達4人は、野盗討伐が完了してから3日後には、港湾都市へと旅立っていた。

 クレアは名残惜しそうにしていたものの、馬車で旅をしている都合上、1月になって本格的な冬が来る前に、全ての旅程をこなす必要があると、オルガさんに引き摺られていったのだ。

 なんでも彼女達4人も、俺達同様に工房都市で装備作成を依頼したそうで、その待ち時間で各自の故郷を回っているそうだ。

 既にナタリアさんの故郷である芸術都市は寄ったそうで、学問都市はジーナさんの故郷であり、オルガさんの故郷である港湾都市で最後らしい。

 オルガさんの実家に寄った後は、本格的に雪が積もる前に狩猟都市で馬車を預け、徒歩で工房都市へと向かうとのことだった。

 今頃は彼女達も、工房都市について装備を受け取っている頃だろう。



 スズとクレアは、工房都市での再会を楽しみにしているみたいだったし、少しペースを上げようかな?

 そう考え、スズに声を掛けようとして、彼女の顔色に気付く。


「スズおまえ、体調悪そうだけど大丈夫か?」


「えっ……、あっ、ちょっと熱っぽいだけだから大丈夫だよ。街までならぜんぜん走れるって」


「無理するなよな…………。ほいっと」


「わっ、わっ、急になに!? ……びっくりするじゃないの」


 俺は自らのコートを脱いで両手に広げ持ち、彼女の後ろから抱きしめるようにコートで包んでミノムシ状態にし、そのまま荷物のように両手でかき抱く。


「これで寒くないだろ? 街まで、大人しくしてな」


「ふふ、ありがと。そこまで言うなら、甘えちゃうね」


 悪戯っぽく笑って言った彼女だが、すぐに「すーすー」と寝息を立て始めた。我が儘も弱音もなかなか言ってくれない彼女の事だ、たぶん無理していたのだろう。今回ばかりは気付けて良かったと思う。


 俺は体術スキルや隠密スキルを習得した際に学んだことを活かし、出来る限り彼女を揺らさないよう気を付けながら、街まで走り続けた。




 街に辿り着いてからまず向かったのは、クレア達が逗留予定だという宿だ。

 宿には拘りは無い、最低限は俺達が寝ぼけて壊さない程度に頑丈なら問題無い。

 その点その宿は、冒険者で言うところのシルバーランク以上向けの部屋も有るらしく、クレア達と合流するにしろ俺達が泊まるにしろ、最初の目的地となり得た。


 夕食には少し早いくらいの時間帯に俺達は、宿へと辿り着く。

 宿の扉を開け中に入ると、1階に併設された食堂には、見覚えのある後姿があった。

 受付で3階の頑丈な4人部屋を2部屋とってから、食堂に入って彼女に話しかける。


「ようっ、2週間振りくらいか?」


「あっ、お兄さん! しばらくぶりだね~、あれれ、スズはどうしちゃったの?」


「ちょっと微熱があるみたいでね。たいした事は無いみたいだけど、このまま寝かせて来るよ」


「そっかぁ、なら久しぶりに私が面倒を見てあげちゃおう!」


 何が嬉しいのか、クレアが上機嫌で提案してくる。


「それは助かるけど、頼んじゃっていいのか?」


「うん! 弱ったスズを見てると、なんだか昔が懐かしくってね。知ってる? お兄さんが来る前のスズって、ちょいちょい体調を崩してたんだよ」


「へ~そうなのかぁ。俺が知ってるスズはいつも元気一杯で、ふてぶてしくて困るくらいなんだけどな」


「まーね、あの頃はいつもお腹が空いて大変だったからなぁ……。私達がこうして元気に成長出来たのはお兄さんのおかげだよ。ほんと男爵さまさまです!」


 うぬぬぬぅ、せっかく忘れかけていたのに思い出させないでくれよ……。肉男爵という不名誉な称号(肉を大量に貢いだ事により得た称号)は、俺の黒歴史の一つである。マリーさんも元気にやってるかなぁ……?


「あのなぁ……それ未だにトラウマなんだから、いい加減忘れてくれよな。ったく、そんなことよりスズを部屋に運ぶぞ!」


「分かってるってば。部屋は3階だよね? ならこっちこっち!」


「あっこら! しょうがねぇなぁ」


 ほんとに懐かしいな……俺とスズにクレア、3人で孤児院に居たあの頃が、なんだか一番幸せだったように思い出される。

 たぶん、思い出補正も有るんだろうけど、あの日々が、今の俺には眩しくて遠く感じられた。


 3階で待っていたクレアに促され、確保した部屋の片方に入り、ベッドにスズを寝かせる。


「うん! やっぱり眠ってるスズって、相変わらずかわいいね~。起きてる時は、あんなに生意気なのにね」


「クレアが羨ましいよ、俺にはもうちょっと我が儘言ってくれても良いのになぁ」


「ふっふふ~、これは姉の特権なの。こればっかりはお兄さんにも譲ってあげないよ!」


 得意げに胸を張るクレア。ほんとに立派になって……スズとは大違いである。


「まっそういう事にしとくか……。さて、俺達は夕食にしようかと思うんだが、クレアはどうする?」


「う~ん、私はこのままスズを看てよっかなぁ……。あっ、そう言えば、お兄さんは冒険者ギルドへは行った? 私達はこの街に昨日着いたんだけどね、その時にギルドでお兄さんの事を聞いたら、逆に話が有るから見かけたら来るよう言ってって、頼まれちゃったんだよねぇ」


「ふむ、冒険者ギルドが話か……なんだろな? まあ、今日はまだ時間も早いし、これから行ってみるかな」


 スズの体調が優れないとはいえ、寝息は安定しているし顔色も良くなっているので、クレアに任せておけば問題無いだろう。

 

 念のためコテツ&アンズとイリスに、スズの事を頼んで、残りの4人で冒険者ギルドへと向かったのだった。



 この人選にたいした理由は無い、せいぜいがノルン、マシロ、ナオは、パッと見なら普人族に見えるから目立たないだろうとか、その程度のものだ。


 こんな何気ない選択の積み重ねが、俺の運命を決定してしまうのだと、後の俺は考える事になる。


 この人選が良かったのか悪かったのか、他の選択をした時の結果を知り得ない俺には、判断のしようがない。

 だとしても、最悪では無かったとだけは断言しておこう。

 どうやら、俺の運はそれほど悪くは無いらしい。



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