第六話 〜隣は転入生〜
「えーー、この子が今日から入ることになった」
岡島が促し、
「鳥山思惟です♪」
おぉーー、と歓声。
「あーー、残り少ない中学校生活だ。それに彼女は帰国子女。仲間はずれにしたりしないようにな」
「仲良くしてくださいね」
女子の黄色い声と、男子のドス黒い声が(下心的な意味)飛び交う。
しかし俺には何も聞こえていなかった。
なぜ?
っていうかあれは誰だ。いや、シィだろあれ。
んでも髪の色真っ黒だしなぁ、キャラ違うし。
あーーーーー、分からん!
他人の空似かもしれないな。
そうだ、それだ。
似てるだけで別人だ。
「あ、・・・・おーーーい。渡ーーー!」
・・・・今、俺呼びませんでした??
「ん?なんだ酉島知り合いなのか??じゃぁ隣に座れ」
「え、いや、たぶん初めて・・・・だと・・・・思います。ってか隣って」
似てるだけだ、と決め付けた渡は、そう答えた。
「えーーー、ひどいなぁ。一緒に住んでるじゃん」
隣に来て思惟は言う。
・・・・一緒に住んでる?
まさかホントに・・・・・、
「え、シィ?」
「そうだよーー。同居人の顔くらい覚えててよーー。もしかして、ボクのこと嫌いなの?」
泣きそうな顔になるな。
「うわ、最悪」「渡!一緒に住んでるとはどういうことだ!!」「どうやら俺を怒らせたようだな!!」
「・・・・ギロチン」
そんな声が次々に。
「・・・・すいません。なんかすいません」
てか最後にとても危険な言葉が聞こえたような気がする
「許す♪」
「そこまでにしろ。ではホームルームを続ける」
「えー空気読めよーーー」「ノリわるーい」「いいじゃん別にー」
生徒が反発するが、
「ほーーーぅ、そんなに成績下げてほしいか?」
「・・・・・・」「・・・・・」
一発で沈黙。この独身風情がと誰かが洩らしたが、聞こえなかったようだ。幸い。
「ではまず、今日は・・・・・」
ホームルームが再開される。
いやいや、えっとこれはシィ?
自分で言ってたし、んでもキャラがあまりにも違いすぎる。
まさか・・・・・猫被ってる?
「えっとシィさ。家となんか違うな」
隣に聞こえるくらいの小声で話しかける。
「まぁね。ここの学生ってのをコピーしてみたんだぁ」
「コピー?どうやって」
「ん〜〜、まぁそのまんまの意味だよ。コピーしてボクに新しく入れたの」
「便利なものだなぁ」
「そうだね」
無邪気な笑顔。いつもこんなのだったら可愛いのに。
それにしても、魔王ってそんなことまでできるんだなぁ。
そしてホームルームは終了。
授業が始まるまでの5分ほどの休み時間。
「ねぇねぇ。どこからきたの?」「彼氏はいる?」「まさか渡の彼女?」「可愛いね、もしかしてアイドル?」「好きな食べ物は?」「趣味は何??」「渡君と一緒に住んでるってホント?」「英語は得意?」
もう恒例ともいえる、転入生への質問攻め。
「えっと、その一気に言われると困るなぁ」
シィは微笑。その微笑で何人かがため息を漏らす。
「彼女ってのは分からないけど、一緒に住んでるよ」
素晴らしい笑顔。だがこの状況では事態を悪化させる凶悪な笑み。
その証拠に、数え切れないほどの、あきらかに殺気を含む視線を感じる。
「思惟ちゃんは、渡君のこと好き?」
・・・・・それはいっちゃいけない言葉だと思うぞ。
「えっと、好きって何?? その、よく分からないんだぁ」
「ん〜〜 一緒にいるとドキドキする感じかなぁ。それとい」
キーンコーンカーンコーン
1時限目開始の合図。
そして一時限目の理科が始まる。
思惟は、頭が良かった。
今は昼休み。
それまでに理科・数学・国語・技術があったが、問題は全問正解。
いやぁ、流石魔王。
うちの学校は月曜日・木曜日が5時限で終了する。
そして今日は木曜日。
5時限目の地理を受け、掃除当番や用事のない連中は帰宅する時間になる。
「ねぇねぇ、思惟ちゃん。これからボーリングにでも行かない?」
女子数人がシィに話しかける。
「えっと、ボーリングってなに?」
この、なになに?はとりあえず、帰国子女ということであんま気にされないらしい。
「玉を投げるスポーツかな?楽しいからいこーよ」
「ん〜〜、でも渡は行かないんでしょ?」
その言葉を聴いた瞬間に、また大量の殺気が。
「女の子だけで行きたいもん」
「ん〜〜〜、じゃぁゴメン!」
なぜそうなる。
「え〜〜、ん〜〜〜〜。しょうがないなぁ。また今度ね♪」
「うん。また誘って♪」
そして二人並んで帰宅路につく。
「んでさ。なんで俺と二人になると戻るわけ?」
「メンドクサイからだ」
シィはもう、髪も濃紺。喋り方も無愛想。
普段のシィに戻っていた。
「あっちの方が可愛いのに」
「・・・・いやだ」
ん?
「なんで反応が遅れたんだ?」
「うるさい。黙れ」
なんか顔そむけて、まぁいいか。
「んで。なんでボーリング行かなかったんだ?」
「渡が行かないからだ」
いやいや、あんま答えになってねぇ。
「っつわれても。俺男だし」
「男だと女と一緒にいてはいけないのか?」
「そんなことはないけど。んでもあんま快く思ってくれないしなぁ。女苦手だし」
「しかし、ボーリングというものに興味が出た。今度連れて行け」
・・・・・・・。
「あいつらと行けばいいだろ」
「うむぅ・・・なんというか。むぅ・・・」
ありゃりゃ?なんか今日のシィおかしいぞ?
今日のっつっても、昨日会ったばっかなんだけど。
「どうした?熱でもあんのか?」
手を伸ばしてみるが、
「うるさい。触るな」
はじかれてしまう。
大丈夫っつーならいいか。
「まぁいいや。日曜日にでも行くか?」
「応。楽しみにしているぞ」
少し嬉しそうに言う。
「なんか、結構可愛いところもあるんだな」
「・・・・・・・」
ん?俺なんか変なこと言ったか?
その沈黙がずっと続き、家までずっと黙りっぱなしだった。
・・・・・気まずい。
「ただいま」
家に入り、居間へと向かう。
するとテーブルの上に置き手紙があった。