ギルド
ともかく、体勢を立て直す必要があった。
慌てて町に戻り、赤いスライムの液体を道具屋のおばちゃんに渡す。
「お、ボススライムの液体じゃないか。頑張ったね」
「ああ、あれボススライムって言うのか」
「ん?ギルドに張り出されてなかったかい?」
「(ギルド……話の流れからすると冒険者ギルド、か)」
「……いや、あんまり見てなくてな」
「情報収集をサボると死んじまうよ。悪い事は言わないから、見ておきな」
すっかりこの一週間でおばちゃんとも顔見知りである。
しかし冒険者ギルドか。どういう所なんだろう。
代金である20Gを受け取り、ギルドへ向かう。
あれだけ苦労したのに、20Gでは明らかに赤字である。
道具屋を出て、脇道に控えていたラジ子と合流した。
「ギルドってのがあるらしい。たぶん冒険者用の」
「どのような場所なのですカ?」
「よくわからんが、ギルドって聞けばモンスターの情報とか討伐の仕事とかが
貰えるイメージだな」
「情報収集は確かに重要でス」
「ああ、うっかりしてた」
冒険者がダンジョンに入っているという事は、
俺のやっている事も冒険者だという事だ。
となれば、冒険者ギルドにも参加せず冒険者の真似事をする俺は
ただの不審者である。
片っ端から町を探さなければならないかと思っていたが、
意外にも道具屋とギルドはそれほど離れていなかった。
ラジ子を再び脇道に控えさせ、ギルドに入る。
「よう、新参か」
暇そうなおっさんが受付で話しかけてきた。
時刻は昼過ぎ。
こんな時間に冒険者がそれほど居るわけもないのだろう。、
中に人はそれほどいなかった。
「すまないんだが、ここってどういう場所なんだ?」
「ギルドを知らないのか?」
「なんとなくは知っているんだが……」
所詮、俺のイメージはゲームでのイメージしか無い。
しかも、ゲームごとにギルドの役割ってのは違うから
どこまでがイメージ通りなのかわからない。
「ギルドは冒険者が集まる場所だ。入会金をとる代わりに、情報やクエストを斡旋する」
「ふむふむ」
「入会金は100Gだ」
「年会費とかは無いのか?」
「入れ替わりの激しい業界だからな。特に低レベルの奴から年会費なんて取ったら誰も入らないさ」
なるほど。確かにそうかもしれない。
必要な収入は、クエストの斡旋で儲けているんだそうだ。
「ちなみに、入らないとどうなるんだ?」
「高位のモンスターの情報が公開されないし、クエストも行えない。そして何よりこれが使えない」
おっさんは1枚のカードを取り出す。
「これは?」
「ステータスカードってやつだ」
おお、ファンタジー世界とは思ってたが、ステータスがあるのか。
まさかギルドに入らないと確認できないとは思っていなかった。
「見てもいいか?」
「ああ。俺のは大したもんじゃないが、何のスキルがあるのか確認するのは大事だぞ」
おっさんのステータスカードを見る。
大まかには、下記のような感じだ
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グランド
クラス:ギルド受付員
スキル:翻訳Lv2 毒耐性 剣技Lv2 鑑定Lv1
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「スキルか」
「ああ。あと、ステータスカードは身分証にもなる」
つまり、ギルドは冒険者に必要な情報・仕事・身分を提供し、
代わりに入会金と、クエストによる冒険者の派遣ができるって事だ。
身分の所以外はだいたい俺のギルドに対するイメージと一緒だな。
「俺も入会できるか?」
「入会金が払えればな」
……手持ちの金は占めて220Gある。
今日の生活費を差し引くと、180Gくらい。
俺は迷わず100Gを支払った。
「確かに。じゃあ、ここに手を当ててくれ
何かの石が差し出される。
言われた通りに手を当てると、おっさん……グランドの持つカードに
文字が浮かび上がった。
「カードはそうやって作るのか」
「ああ。文字が書けない奴の方が多いからな。……ってなんだ、このスキル」
グランドが俺のカードを見て声をあげる。
ステータスの確認も仕事の内なのだろう。
よくよく考えれば、犯罪者が身分を偽る事もできるのだ。
覗き込み、俺のステータスを見せてもらう。
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ヤマシロ・トオル
クラス:冒険者
スキル:ドールマスターLv3 自動翻訳
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「ドールマスターなんてスキル、聞いた事ないな。どういうスキルだ?」
「あー、なんだ。多分、ラジ子の事だな」
「なんだ、それは?」
説明も難しいので、外からラジ子を呼び出す。
ラジ子の姿にグランドは一瞬身構えたものの、
ラジ子は積極的に動かなかったので構えを解いた。
「モンスター……ではないな。何だ?」
「俺にもよくわからん。仲間だ」
「光栄でス」
「!?」
ラジ子が声を発するのを見て、グランドはさらに驚く。
まぁ、喋ると思われるような外見はしていないだろう。
「あと、この自動翻訳ってのも妙だぞ。高位スキルだ」
「そうなのか」
「ああ。俺も翻訳は少し齧ってるが、自動翻訳ってのは常に言葉や声を翻訳し続けるスキルだ」
「それは……心当たりがあるな」
グランドと話せているのも、そのスキルのおかげなのだろう
看板が日本語に見えたのも、このスキルが働いていたのならば説明がつく。
……むしろ、こいつが無ければ何もできなくなっていたかも知れない。
「まぁ、翻訳は危険なスキルでもない。その変なやつは気になるが……」
「しかし俺も他に説明のしようがないな」
「一応、ユニークスキルとして判断しておこう。
だが、目立つから気を付けろよ?」
グランドが警告してくる。
ラジ子の風貌は自覚していたが、改めて人から警告されると
本格的に対策を考える必要があるのかもしれない。
ついでに、ボススライムについての情報を確認した。
ボススライム。ダンジョン1階層のボスモンスター。
巨大な体躯は魔法による火力で押し切る事が推奨。
ボスモンスターとは、ダンジョンの最奥部屋に現れる
強力なモンスターの事だそうだ。
さらに極稀に、通常の小部屋にも表れる。
会った時は撤退推奨、との事。
モンスターの資料は、次の階層のモンスターも載っていた。
なるほど確かに、姿を見ておくだけでも重要な情報だった。
……というか、今まで俺達が無謀すぎたという事だろう。