スライムと大きなスライム
ついに町へ辿り着いた俺とラジ子は、
衣食住の為の金を得るため、ダンジョンへ向かった。
道中で見つけた動物をラジ子が狩り、ラジ子の炎で調理し、
水もラジ子の炎で消毒してから保管する。
……ラジ子様々である。
ダンジョンに到着すると、まさに今からダンジョンへ挑むのであろう
冒険者パーティの姿がちらりと見えた。
すぐに入って行ってしまったので
あまり観察はできなかったが、剣士と魔法使いがいたような気がする。
「この時間から冒険者は動き出してるんだな」
「そのようですネ」
俺達も日が出る直後、かなり早朝に出たつもりだ。
現に、町はまだ静まり返ったように静かだった。
だが、冒険者はそうでも無いらしい。
俺達も階段を下り、ダンジョンに入る。
念のため昨日と同じ道を通ると、昨日と同じようにスライムが動いていた。
さぁ、頑張って狩らないとな。
スライム戦も、基本的にはラジ子任せだ。
スライムはダンジョンの小部屋にしか出て来ず、
一度に1体から4体が居る。
最初に見かけたのが1体だったのはラッキーだったのだろう。
その1体がドロップアイテムを残してくれたのも、実はかなりの幸運だったのかもしれない。
「いつもすまないねぇ」
「それは言わない約束ですヨ」
スライムへの対処は、1体だろうが4体だろうが、
基本的にラジ子の炎で攻撃し続けるだけだ。
だが、水も飯も金もラジ子が稼いでくれる現状は、
ちょっとしたヒモ状態で心苦しい。
たまに俺の方へ攻撃してくるスライムも居るが、
これは拾ってきた棍棒を適当に振り回せば時間が稼げる。
その隙にラジ子が刃を突き立て、スライムにトドメを刺す。
「色々と問題はある気がするが、スライムはラジ子だけで大丈夫だな」
「どうやら4体以上は出現しないようですので、大丈夫でしょウ」
その後も、ひたすら機械的にスライムを狩り続けた。
スライム液も毎回ドロップするわけでもないので
そんな調子で、ひたすら機械的にスライムを狩り続けた。。
数を数えるのも面倒なくらいスライムを倒し、
予定通りスライム液が20個集まるまで狩り続けた。
◆
夕暮れになる事、町に戻り買い物をする。
20Gの衣類を一つ購入した。
衣服は風通しが良く、しかもダンジョンに挑んでいる事を伝えると
動きやすく頑丈なつくりらしい服を与えてくれた。
そのまま購入した黄土色の服に着替え、食堂で夕食を食べる。
「うめぇ……」
「それは何よりでス」
食事は先払いらしく、よくわからんスープとパンを注文して
20G、銀貨を2枚支払った。
やってきたのもパンと、やはり良くわからないスープだったが、
今まで調味料無しの焼いた肉だけで生活していた俺にとっては
何より文明的な食事だった。
この時点で既に本日の収入のうち50Gほど使っていたが、
初期投資という理由で自分をごまかす。
「そういえば、服装を買えたから悪目立ちはしなくなったな」
「あとは私の風貌が問題ですネ」
「まぁ、ラジ子は仕方ないさ」
「やはりヒトの形の方が違和感がないのでしょうカ」
「そうだな。あとは、犬型とかなら目立たないかも」
あまり見ないが、この世界にも犬のような生物はいるようだ。。
町の中でも時折見かける。
もっとも、仮に犬の姿になってもラジ子のように喋りはしないだろうが。
……しないよな?
「あとは今日の収入で装備を整えて、
俺もスライム狩りに参加できれば万全だな」
「私としてはマスターには後方支援に徹して頂きたいですガ」
「今の装備じゃ支援すらできないし、
いつまでもラジ子だけ戦ってもらうってわけにもいかないさ」
それに、いつまでもスライムが狩れるわけでは無いかもしれない。
今の内に戦力的な余裕があれば、もっとダンジョンの奥で
稼ぎの良い暮らしがあるかもしれない。
今がふんばり時だろう。
◆
それから4日間。
俺達はひたすらスライムを狩り、装備もどんどん整えた。
主に買った装備は、槍と剣だ。
ラジ子に腕は無いので、当然俺の装備である。
まだ牽制程度だが、俺も戦闘に参加できるようになったのだ。
……だが。順調かと思われた狩り生活は、
翌日、つまり狩りを初めて5日目に起きた。
突然、そいつはダンジョンに現れた。
スライムの数倍の大きさのモンスター。
赤い液体の詰まった巨大なスライムである。
「なんだこいつ!?」
しかも間の悪い事に、そいつは俺たちの退路に突然現れたのだ。
逃げるにもダンジョンの奥は未開で、まずありえない。
さらに、今まではこちらに気づいていないスライムへの奇襲が主な戦法だった。
いろんな意味で最悪の状況だ。
「ラジ子、炎だ!後先考えるな!」
「はイ!」
怯みそうになる体を叱咤し、ラジ子に指示を出す。
普段は気にしていないが、ラジ子の火炎放射は時間制限がある。
あまり長時間の使用は、砲身が耐えられないのだ。
そんな事がわかるのも魔法の効果ってやつだな。
しかし今は制限なんて事を言っている場合ではない。
赤い巨大スライムは、雰囲気からして異常だった。
ラジ子は巨大なスライムに最大火力で炎をあびせる。
周囲にいた普通のスライムが余波で焼け死んでいく。
だが、それほどの威力でも本命を仕留めるには至っていない。
「アアアアア」
唸り声をあげてこちらへ突進する巨大スライム。
ラジ子は後退しながらも、最大出力で炎をあびせ続ける。
俺も、槍で側面から攻撃してはみたものの、
体が巨大すぎて効き目は薄そうだった。
しかもスライムと同じ体質なら、深く刺すと
刺した槍が溶けてしまう恐れがある。
やがて、巨大スライムが異なる動きをした。
体を2倍以上に広げ、倒れ始めたのだ。
そう、逃げるラジ子に苛立ち、一気に飲み込もうとしたのだ。
俺は盾を捨て、槍を両手で強く握った。
……これはピンチでもあるが、チャンスでもある。
この数日スライムを狩り続けてわかった事だが、
スライムの中心部には少し色の濃い部分がある。
核のようなここはまさにスライムの弱点で、ここを攻撃して破壊すると
スライムは直ちに絶命する。
この大きな赤スライムがそうだとは限らないが、試す価値は十分にあるだろう。
「おおおおお!!!」
体を広げた巨大スライムへ、槍を力いっぱい突き刺す。
そう、体を広げるという事は、体の中心までの層が薄くなるという事なのだ。
体重を乗せた槍はスライムのほぼ中心、核の近くまで突き刺さり、
木でできた部分が溶かされていく。
しかし金属部分はそうもいかないらしく、
刃先は残ったままだった。
「ァァァァァ!!」
絶叫を上げる赤スライム。
のたうちまわる体が、逆にスライムの核に刺さった槍を揺らし、
核に更なるダメージを与え続けた。
続けて、悶えるスライムにラジ子が最後の力を振り絞り、
最大級の炎でスライムを包みこんだ。
「ァァ……ァァァ……」
赤スライムは声も絶え絶えに、後ろへ倒れこみ、
ついに消え始めた。
「……た、倒したのか?」
「そのようでス」
赤スライムは消えるのも遅かったが、やがてその姿は見えなくなった。
そして消えた跡には、いくつかの物品が残っていた。
いつものスライムのドロップとは違う赤い液体。
そして皮製の鎧。おお、確か防具屋で200Gする奴だ。
……一方、こちらも致命的な損害を受けていた。
溶けた槍なんかどうでも良いが、
俺達の最大武器であったラジ子の火を出す砲身。
金属製のその砲身が、無残に溶けだしていたのだ。
「ラジ子、大丈夫か?」
「動作には問題はありませン。戦力の低下は避けられませんが」
とりあえず、町まで戻ろう。
ダンジョンの入り口向かうため、足早に小部屋から出た所で、
以前感じたあの感覚に包まれる。
そう、レベルアップだ。
「おお、レベルアップだ」
「何か、新しい魔法はできますカ?」
ラジ子の砲身は、依然と溶けたままだ。
前回のようにラジ子の強化は行われないらしい。
しかし、ラジ子への解析能力は上がっているように見える。
今まではどのように動くか、しかわからなかったラジ子の体も、
溶けだした砲身をどうやって修理すればいいか、なんとなくわかるのだ。
……わかるのだが。
「ラジ子。その溶けた部分。直すの無理そう」
「エエー」
奇妙な声を上げるラジ子。
そりゃそうだろう。
レベルアップして状況の深刻さが深まっても何のありがたみも無い。
俺も、町で鍛冶屋でも行けばなんとかなると少し思っていたのだ。
レベルアップでわかった事は、ラジ子の砲身には希少な金属が含まれている事、
そして魔法の術式が含まれている事だった。
どう考えてもあの町にあるような鍛冶屋では無理だろうし、
万一可能だったとしても莫大な金がかかるだろう。
ううむ、いったいどうしたものか。