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異なる世界の機械人形  作者: あまつやま
1章 謎の世界の魔法機械
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アステの町



ダンジョンを脱出した俺達は、早速周囲の探索を開始した。


幸い、人が草をかき分けたような跡が残っており、

さらに稀にではあるが、特定の方角から人がやってくるのが確認できた。

それは例外なく冒険者風の恰好をした人間ばかりであり、

最初に発見した冒険者達が異常な趣味に走っている、というわけでもなさそうである。


人の痕跡と、踏み分けられた道を進み続け、

時に迷いながらも数時間が経った頃。


「……町だ」


目の前には町と呼ぶべきか、村と呼ぶべきか。

明らかな人の住処の集まりがあった。

空は赤く、やがて何も見えない夜が来るだろう。


俺達は町の外観の観察もほどほどに、早速町へ向かう事にした。

入り口には鎧を来た男が2人立っている。

じろじろ見られたので何か言われるかと思ったものの、

結局何も言われなかった。

あまり規律は厳しくないのかもしれない。

明らかに人ではないラジ子と明らかに周囲と服装が違う俺はこの場所では異様に目立つ。

まぁ、今はそれは気にしても仕方ない事だろう。


「……人がいるな」

「エエ」


道を歩く人々なんて、こんな事になるまでは

ありふれた事だと思っていた。

だがこの数日を思い返せば、とても幸運な事だったのだと気づく。

色々な感情がこみ上げ、じっと立ったままの俺を、

ラジ子は何も言わず待っていてくれた。


「……もう大丈夫だ。ありがとう、ラジ子」

「お気になさらず、マスター」


気を取り直し、町を改めて観察する。

ぶらぶら眺めただけだったが、注意深く見ればいくつかの発見があった。

まずこの町の名前は、『アステの町』というそうだ。

そして、人々は皆同じような色の衣服を着ている。

日本のように、人によって赤だの青だのの服を着ているような事は無い。

また、建物も荒い木製だった。道にはコンクリートなどまったく見当たらないし、

大通りらしい所にチェーン店は一つもなかった。


だが、人々の話す言葉や、看板に書かれた文字は明らかに日本語だった。

つまりここは日本語圏内で、日本ではありえ無いような

古い建物しか並んでいない。


「……」

「マスター?」


……これだけ判断材料が揃うと、もう認めるしかないだろう。

ここは日本ではない。それどころか、地球ですら無いかもしれない。

アステの町を一通り歩き回った後、俺の結論をラジ子に話した。

見た事のない動物、ありえない魔法の力。

創作の世界にしかいないような人々と、

現代ではどこかに必ずある様々な物が、まったく見当たらない事。


「確かに、マスターの世界とは異なる世界のようでス」

「ああ」

「……ただ、水を差すようですが、どちらにしろやる事は変わらないのでハ?」


ラジ子が無表情な顔で言う。

いや、もともとラジ子に表情は無いが、きっと顔があればそんな顔をしている。


「……言われてみれば、確かにそうだな」

「当初の目標であった人間との接触は達成しましタ」

「ああ」

「次は衣食住の充実を図るべきかト」


確かに、日本に帰る為の足掛かりすら無い以上、

実は俺の勘違いだったとしても、本当に違う世界だったとしても。

俺はここで生活するしかない。

そしてその為にはまず衣食住が必要不可欠だ。

となれば必要なのは……。


「金が要るな」





俺は道具屋に入った。

店内にはおばちゃんと客の冒険者らしき人が数名、訝しげにこちらを見ている。

やはり、彼らにとって未知の素材でできた学生服は目立つようだ。

といってもできる事は何もないので、見ないふりをして受付の前に立つ。


「これを買い取ってもらえるだろうか」


スライムの液を差し出す。

そう、ダンジョンでスライムからドロップ品の売却だ。

ここがファンタジーな冒険者達の町ならば、

ドロップ品を売って収入が得られるはずだ。


「ああ、5Gだよ」

「あと、その服っていくら?」

「20Gだね」


服は、ちょうど大通りで皆が来ているような服だ。

おばちゃんが指を刺したところをよく見ると、

たしかに掠れた時で、20Gと書かれている。


「わかった。とりあえず買い取りだけお願い」

「あいよ」


銅色の貨幣が5枚出てきた。

どうやら銅貨=1Gのようだ。

次の客が60Gに銀貨を5.6枚支払っていたので、

銀貨=10Gだろう


ひとまずは貨幣の存在と、スライム液の値段を確認しただけで十分だ。

あまり長居しても悪目立ちするだけなので、そのまま道具屋を出る。

店の陰になった横道から、控えていたラジ子が出てきた。

どうもラジ子は俺に従うモンスターとして認識されているらしく、

店の中には入れない方が良いだろうと判断した。

ラジ子には悪いが、仕方ない。


「いかがでしたカ」

「スライム液は5G、服は20Gだった」


他にも、毒消しが60G、回復薬が50Gである事を確認した。

今の所、俺たちが金を稼ぐ手段はドロップ品の収集しかない。

そして、外の野生動物よりもダンジョンのモンスターの方が

圧倒的に遭遇率が高い。

その後、日が沈むまで俺たちは物価の情報を集め、

町の外にある洞窟に移動してからようやく座りこんだ。


「宿は50G、食事は5~20Gくらい、か」

「スライムのドロップ率を50%とすると、一日40体程度倒せば

 衣食住が揃いまス」

「多いな……」


物価調査で特に重点的に調査したのは、宿と食事の値段だった。

だが食事はともかく宿は、今のスライム狩りでの収入では

厳しそうだ。

スライムはラジ子の炎でだいたい撃退できるとはいえ、

40体を毎日倒し続けるのはなかなか大変だろう。

一応、一日丸々ダンジョンに籠っていれば不可能な数ではない。

だがスライム以外の敵はまだ未知数だし、俺の戦闘力も皆無に近い。

方針として、少なくとも装備が整うまではスライム狩りに徹するべきだろう。


「だが、これで先が見えてきた」


ダンジョンでモンスターと対峙するのは、ラジ子がいるとは言え

かなり危険に思える。

だが少なくともここには町があり、頑張れば衣食住が揃う。

あの森の環境に比べれば大分に改善している。


ごつごつした岩の上で横になると、

どっと襲い掛かってきた疲れに、まぶたが重くなる。

意識を失う前に、隣に控えた頼もしいロボットに声をかけた。


「明日からもよろしく、ラジ子」

「はい、お休みなさいませ、マスター」



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