人間との遭遇
教室を出てから2日間、予想以上に人は見つからなかった。
それでも気長に川を下り続け……俺達はついに一つの出会いをした。
先の方の水辺に、大きな人影が引っかかっているのが見えた。
急ぎ足で近づいてみると、それは確かに人間だった。
正確にはかつて人だったもの、死体だった。
死体なんて正直まじまじと見たくは無かったが、
それでも久々に見る人間の姿だった。
俺と同じ制服を着ている。
顔は痩せこけ、状態もかなり酷い事になっていたが、見覚えのある顔だった。
たしか、怪力の魔法に目覚めたクラスメイトだ。
上流から流されてきたらしい。
「仲間の方ですカ」
「ああ」
実際は仲間なんて大それたものじゃ無かったが、
ラジ子から見れば一番わかりやすい説明だろう。
変わり果てたクラスメイトの姿にどうすべきか立ちすくんでいると
そいつは他の獣と同様に消えて無くなった。
……跡には何も残らない。
俺は結局どうすることもできず、そのままその場を立ち去った。
◆
変化があったのはそれから4日後。
「……!」
その時俺は何回も幻覚を疑った。
人の声が聞こえたのだ。
「ラジ子」
「はい、人間の声ですネ」
ラジ子にも確認し、俺は現実の事だと確信する。
声は森の方から聞こえていた。
それほど離れてはいない。
急いで森へ走った。
……目的の人間は、それほど離れた場所にはいなかった。
いかつい恰好の5人組が話し合っている。
どうやらこちらはまだ気づかれていないようだ。
本当はすぐにも助けを求めたかったのだが、
彼らの風貌がそれを押し留めた。
「なんだあの恰好」
その男女のグループは金属製の鎧を着こみ、手には剣や弓があった。
現代ではまず見ないような恰好……というか、
ファンタジーな冒険者そのものだった。
話が終わったのか5人組は奥の建物に進んで行き、姿を消す。
慌てていなくなった彼らを追うと、そこには地下への階段があった。
それはまるで……。
「……ダンジョンだな」
「ダンジョンですネ」
先程の彼らの風貌も相まって、
目の前の階段はダンジョンの入り口と呼ぶに相応しかった。
周囲の古びた石壁が独特の雰囲気を発している。
階段を凝視するものの、奥はここからでは見えない。
それなりに深い所まで続いているのだろう。
5人組の声は既に何も聞こえなかった。
さて、どうしたものか。
「周囲に人間はいないようでス。先に進むしかないかト」
今、人間の手がかりとなるものは先程の5人組、あるいはこのダンジョンだけだ。
ラジ子の言う通り、降りてみるしかないだろう。
「……モンスターとかいないよな」
「……保証はしかねまス」
迷いながらも、ラジ子と俺は階段を下りた。
ちなみにラジ子は車輪で移動するので、
俺が抱えつつ強引に降りた。意外と重いなこいつ。
◆
階段を降りると、まさしくイメージ通りのダンジョンであった。
石づくりの空間が、多方面に分岐して広がっている。
壁にはダンジョン1階と書いていた。
……日本語に見えるが、ここは日本なのか?
適当に分岐道を選んで進むと、小さな部屋に着いた。
誰も居ないように見えたが、目を凝らすと何か動いている。
それは、青色の液体だった。
水たまりというわけではなく、
重力に反してうろうろと移動している。
その見た目はまさにそう、スライムであった。
「スライムだ」
「スライムですネ」
スライムはこちらを見つけると、
どろどろと近づいてきた。
……よくわからないが、危ない気がする。
俺はスライムに木の棒を投げつけた。
棒はスライムに突き刺さると、どろどろと溶けて消える。
スライムは気にも留めずさらに近づいて来ていた。
「ラジ子、火だ」
「了解です、マスター」
ラジ子がすぐさま炎で応戦する。
スライムは炎に巻かれながら、
どこで出しているのかわからない悲鳴をあげ……やがて消えた。
その跡には、何かよくわからない物が残っていた。
スライムと同じ色の液体が、風船のようになって転がっている。
どうやら倒したようだ。
「これ、大丈夫なのか?」
スライムが落とした液体を、同じように木の棒でつつく。
こちらは、棒が溶けたりはしなかった。
とりあえず回収しておこう。
スライムが居なくなった所で、改めて状況を整理する。
どうもここはそのまま俺のイメージするダンジョンそのままと考えて良さそうだ
入り組んだ道でモンスターが襲い掛かり、それを倒すとアイテムが手に入る。
もしかすると罠もあるかも知れない。
……という事は。この先に進んでも人に会える可能性は低いのではなかろうか。
先程の冒険者風の人達の事を考えると確実に人間が居るのは確かだが、
無策で先に進むべきではないだろう。
「と、思うんだが」
「ご最もでス」
「……よし、方針を変えるか」
これからどうするべきか。
ダンジョンと冒険者がいるのなら、あくまで想像だが近くに村や拠点があるはずである。
つまり、この近辺を探しつつ、人がやってくる方向へ向かえば、
町に着く……かもしれない。
少なくとも、このままダンジョンを進むよりは安全な方法に思えた。