魔法との出会い
ギュイーン
ギュイーン
ギュイーン
……妙な機械音が聞こえる
足元に何かがぶつかっているようだ
それにしても機械の音なんて久々に聞いたな。
もしかして今までの事は全部夢だったんじゃなかろうか
目を開ける。教室だ。
窓を見る。森だ。
つまり、夢じゃなかった。
何万回目かの絶望を乗り越えて顔を上げる。
ギュイーン
ギュイーン
夢では無かったが、
異音はまだ続いていた。
足元を見る。
「ギュイーン」
「……」
……よくわからない、機械がいた。
白い球体のボディに木製の車輪を2つつけた、
おもちゃのラジコンロボットのような、何かだった。
当然だが、周囲には俺以外だれも居ない。
誰かの仕業ではない。
「はっ」
先ほどまで突っ伏していた机を見る。
正確にはその机の上の紙、絵を見る
そういえば、まさにそっくりなものを直前まで思い描いていたような……
「ギュイィ」
ラジコンロボットは俺が目覚めた事に気づいたのか、
口をパカパカ空けている。
空いた口からは刃物が飛び出していた。
怖い。
なんでこんなものがあるんだろう
幻覚のせいで無意識に作ってしまったのだろうか
……あるいは。今の状況に限っては、もう一つの可能性があった。
「まさか、魔法?」
「ギュイィ」
ラジコンロボットは肯定とも否定とも取れない奇妙な音を出した。
俺は再び絶望した。
この状況から、仮に万に一つ、俺が生き延びる可能性があるとすれば、
それは魔法しかなかった。
最後の希望が、こんな奇妙なロボットとは……。
もしも俺の設計図通りなら、こいつは狩りと炎を出すくらいしか取り柄が無い。
「……あれ、十分じゃないか」
「ギュイィ」
足元のラジコンロボット(命名;ラジ子)が
俺の想定どおりの機能を備えているとすれば。
俺は最後の力を振り絞り椅子から立ち上がる。
「お前の名前はラジ子だ」
「ギュイィ」
「さっそくだが頼む。動物を狩ってきてくれ」
「ギュイィ」
ラジ子はパカパカと口を開ける。
直感だが、肯定の意を伝えている……と思う。
ラジ子はそのまま旋回し、森へ走り出した。
俺も走る。
正直死にそうだが、ラジ子を見失ったら。
あるいはラジ子が動物にやられたら、本当に死ぬしかない。
ほとんど力の入らない足を振り回し、俺はラジ子の後を追った。
◆
しばらく進んだ所でラジ子は俺を待っていた。
周囲を見回すと、
ちょうど崖の下にイノシシのような動物が水を飲んでいる。
大体の形はイノシシなんだが、牙が異常に大きい。
この世界の動物はなぜか異常に戦闘特化だ。
俺がラジ子の傍まで近づくと、ラジ子は再度急発進する。
崖からイノシシめがけて飛び降り、口から刃物を出す。
そして重力に従い、勢いのままイノシシの体に突き刺さった。
「グォァ!?」
「ギィィーーー!」
イノシシは必死にラジ子を振り下ろそうとするが、
その頭部にはラジ子の刃が刺さっている
それなりに効いているとは思うが、イノシシは抵抗の手を緩めない。
イノシシがくたばるにはかなり時間がかかりそうだ
(俺も行くしかないよな……)
崖から下りて、近くにあった棒を手にゆっくりと近づく。
ラジ子に当てるわけにはいかない。
だが全力で攻撃しなければやられる。
渾身の力を込めて叩く。
食糧を得る最後のチャンスだ。手加減はできない。
「くそっ!このっ!」
懸命に、俺はイノシシを叩いた。
イノシシは混乱しこちらを向くが、俺はその隙にラジ子を押し付け、
さらに刃を食い込ませる。
悲鳴を上げるイノシシに構わず、そのまま俺はイノシシを叩き続けた。
しばらくして、イノシシは動かなくなった。
それどころか、消えてなくなった。
その跡に、見覚えのあるものが残っている。
「……肉?」
俗に言う、肉だ。肉がいきなり出てきた。
冷静な状態ならゲームじゃあるまいし……と警戒もするだろうが、
俺は特に気にしなかった。
なんせ数日ぶりの食糧だ。しかも肉だ。
ラジ子は頭部に備え付けられた筒から炎を出し、肉を焼いた。
しかし十分に焼けるまで俺は待てず、若干生焼けのまま噛みつく。
あまりの美味さに涙が出てきた。
肉はかなりの量で、正直今も吐き気がするほどであったが
俺は結局すべて食べきった。
ああ、うまい。
俺の頭にはもう、それしか無かった。