表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異なる世界の機械人形  作者: あまつやま
3章 異なる世界の人形騎士
16/25

番外 人形騎士の生態

我が名はクロス。主を守る鎧である。


その主は今、ベッドで眠っている。

私の本体は鎧なので、眠る必要は基本的に無い。

また、夜のような動く必要のない時は基本的に何も考えていない。

人間でいう無心、などではなく、基本的に私は鎧である。

魔力が活発に働いている時だけ思考するので、

暇と感じた時は魔力を停止すればそれだけで意識が途切れる。

ある意味、この時間が睡眠と呼べるのかもしれない。


気が付くと空が若干明るくなっていた。

私が起きたのは、マスターとは違うベッドで動いた者に反応したためである。


「……おはようございます、クロス」

「おはよう、ラジ子」


ラジ子は、主の人形として私の先輩にあたる。

華奢な体を模したその体は一見人間にしか見えないが、

あきらかに人間では不可能な機動力と火を放つ筒を持っている。

主とラジ子によれば擬態のつもりではなく、外見はむしろ後付の機能であるらしい。


さて、彼女も魔力で動く人形である以上、本来睡眠という行動は必要ない。

だが、思考が高度になるにつれ、睡眠が必要になってきているらしい。

正直彼女と私では構造が違いすぎて、理解が及ばない範囲が多々ある。

寝間着を脱ぎ、いつもの従者服に着替えたラジ子は

マスターのベッドに座り込む。

マスターは日が昇り切るまでは起きないので、数時間は眺めているつもりだろうか。


一度、飽きないのかと聞いた事があったが、

そのまま「飽きません」と返されてしまった。

ラジ子は私よりずっと人間に近い精神を持っているようだが、

人間とは皆このような思考なのであろうか。





日が昇ると、私たちはダンジョンと呼ばれる場所へ向かう。

ここで日銭を稼ぐのだ。

槍を心ゆくまま操り、力のこもる限り駆け出すのは

何とも言えない充足感がある。

マスターの補助という形で戦う間も、実際には私の体だって動いているのだ。

充足感は自分で動いている時となんら変わらない。

むしろ、私の空洞の体を主が埋めてくれている間の方が

満たされているかもしれない。


マンティスと呼ばれる敵の鎌が、主の死角からやってくる。

左手の盾を動かし、その攻撃を弾き返す。

盾の衝撃で相手はよろめき、その隙に主が槍で敵を突き刺した。


「クロス、助かった」

「いえ、主も上達されています」

「はは、ありがとう」


特にお世辞のつもりはないが、主は世辞と受け取ったようだ。

だが、敵の隙をついて的確に攻撃を入れたのは

間違いなく主が槍の扱いに慣れてきているからである。


その後は、丸一日マンティスの相手をする事になる。

私は別にかまわないのだが、主としては

同じモンスターをひたすら狩り続けるというのは

かなり精神的に苦痛なようだ。

日によっては途中で切り上げる事もある。


「クロス、補助を頼む」

「はい」


主から声をかけられ、私の唯一の魔法、強化魔法を発動させる。

体の奥にある主の体から、いつも以上の力が振るわれ、

私の動きもそれにあわせて限界以上に動き出す。

このパワーをマンティスごときが止められるわけもない。

……ああ、主が苦痛を感じるのは、もしかすると敵の不甲斐なさなのだろうか。

それならば、私でも少しは理解できるかもしれない。


夕方。

日が沈み始めると、町へ戻る。

主は私から離れ、私も人の姿へ戻っている。

店主にマンティスの鎌の山を売り払い、幾ばくかの金銭を得た。

主が夕食を食べながら、ラジ子と今日の戦果を計算している。

食事をとらない私は、本来同じテーブルに座る必要すら無かったのだが、

ラジ子によると皆で夕食を取った方が主が心安らかになるという。

ならば、断る必要もない。

ラジ子の言うとおり、主は感情豊かに今後の予定を述べられている。

戦い以外でも私が役立てるのならば、それはとても好ましい事だ。

ではもしかすると、我々も食事を共に取れるようになれば、

主はさらに安らかになるのであろうか。

そもそもそんな事ができるのかすら私にはわからなったが、ふとそんな考えが浮かんだ。



やがて日が沈み月が昇り、再び夜が来る。

主は眠り、私もただの鎧に戻る。


「おやすみ、ラジ子。クロス」

「おやすみなさい、マスター」

「主。おやすみなさい」


明日もまた、主と共に戦場を駆けるのだろう。

その予感に何とも言えない高揚感を感じながら、

私は魔力を切り、意識も途絶えた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ