表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異なる世界の機械人形  作者: あまつやま
3章 異なる世界の人形騎士
12/25

新たなる壁


ボススライムを倒した俺達は、ダンジョン2階に出現するモンスター、

マンティスをメインターゲットとして活動を開始した。

ダンジョンへ向かい、1階を進む。

最短距離では、スライムの居る小部屋を3つ進むとボス部屋まで着く。

この辺はもう散々歩き回ったので自分の庭のようにわかる。


実は、町でダンジョンの地図が売られているらしいのだが、100Gもする。

上級ダンジョンでは罠など大量にあるから必要なのかも知れないが、

今の階層を攻略する上では100Gは高すぎた。

地図は当然、買うまで見せてもらえないので詳細はわからないが、

俺達が自分で作った地図でも十分役に立っている。

多分、不要だろう。


さて、マンティスの居る2階への階段はボス部屋の側面にある。

一度ボスを倒し、階段を出現させれば

毎回わざわざボススライムを倒す必要はない。


「よし、行こう」

「はい、マスター」


2階に進むと、1階と同じような分岐道が広がっている。

早速適当な分岐道に入り、ずんずんと進む。

そう長くは経たないうちにマンティスを見つける事ができた。


買えるだけ(と言っても2枚だが)買ってきた火符を懐から取り出す。

所持金はほとんど無くなってしまったが、

鎌は15Gで売れるのですぐに元は取れる。


「くらえ!」


鎌を広げてこちらに直進するマンティスに、

火を食らわせる。

そのままでは倒せないが、引火した事でマンティスは大きく姿勢を崩す。

その隙に一撃与えればそれで終わりだ。

そこからは、ひたすら単純作業だ。

マンティスの鎌を得るためだけにひたすら小部屋を回り、

マンティスを倒し続けた。





「かなり貯まりましたね」


昨日も確認した事だが、スライムに比べてかなり効率が良い。

マンティスの物理攻撃・防御はかなりの脅威だが、

火への致命的な弱点、そして俺とラジ子、2人とも火を使えるというメリットが

素晴らしい戦果を達成していた。


「……お、レベルアップだ」


今日はこれで最後と思っていたマンティスを倒すと、レベルアップした。

ボススライムの時の経験値と、山のようなマンティスを倒した事で経験値が溜まったのだろう。

ステータスカードを確認すると、確かにドールマスターがレベルアップしていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ヤマシロ・トオル

クラス:冒険者

スキル:ドールマスターLv4 自動翻訳 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「マスター。私はどう致しましょう」


ラジ子が正面から俺を見上げる。

どう、というのはドールマスターのレベルアップによる強化の事だろう。

だが正直、前回ラジ子の体を変化させた時のような大胆な変化は、現状では必要無い。

どうしたものか。


「……ラジ子が成りたいものになるといい」


困ったので、ラジ子に丸投げする事にした。

そもそも、強化はラジ子の意志で行われるものだ。

なりたい物があるのなら、ラジ子の意志に任せるのも面白いかもしれない。


「よろしいのですか?」

「ああ、やっちまえやっちまえ」

「ありがとうございます。では少々お待ちを」


ラジ子の目が閉じられ、淡く全身が光り始める。

……あれ、これ前みたいに時間のかかる強化だと

ダンジョンで夜を明かさなきゃいけないんじゃないか?

重大な事に気づいた俺の冷や汗を余所に、ラジ子を包む光はやがて消えていった。

静かにラジ子は再び目を開いた。


「お待たせしました」

「……あんまり変わってないな」


ラジ子の体はほとんど変わっていなかった。

……あえて言うなら、全身の球体関節が隠れるように

手首や肘、膝が拡大している。

つまり、より人間っぽくなっている。


「この姿は人間としてマスターに望まれたものです。

 できるなら、より人間らしくありたい。それが私の望みです」

「……恥ずかしい事言うんじゃない」

「ほら、ここもかなり人間らしくなりましたよ」

「脱ぐんじゃねぇよ!?」


どこで覚えてくるのか、ラジ子はどんどん感情が豊かになっていく。

より人間らし……くはないな。こんな事をしてくる人間はそうそういない。

騒ぎながら町に戻り、ドロップ品を売り払うと全部で500Gくらいの収入になった。

1階の時は一日100G程度が関の山だったので、5倍の収入である。

まぁ、火符2枚を使い切っているので利益としては大して変わっていない。

明日からは1枚にして、火はラジ子の炎頼りにした方が良いな。





そんな感じで戦力も収入も増え、ちょっと調子にも乗り始めていた頃。

マンティスを狩り始めて一週間くらい経った頃。

俺たちは見てしまった。

2階のボスモンスター、クイーンマンティスを。


「うへぇ……」

「……」


隣のラジ子も無言ではあったが、緊張が伝わってくる。

その日、偶然俺達はボス部屋の前まで着いてしまったのだ。

そしてそこは他の冒険者が、まさにクイーンと対峙しているところだった。


冒険者は鎧を着た男が2人。

ロープを着た女1人と、弓を持った女が一人だ。

こちらは普通の冒険者パーティに見える。

異常なのはそれを迎え撃つクイーンマンティスだ。

ひたすらでかい。体長は3M、4M程度はあるかもしれない。

そのクイーンが両腕を振るうと、重厚そうな鎧を着た男が壁までふっとばされる。

しかし冒険者も負けてはいない。

ロープの女が杖を振るい、クイーンが炎に包まれた。


「おお」

「あれは、上位の魔法のようですね」


俺の使うような低級の符では、あんな炎は出ない。

しかし、そんな炎でも弱点属性であるはずなのにクイーンを止めるには至らなかった。

クイーンはロープの女まで突進すると、大きな鎌を振りかざした。


「っ!」


ここまで悲鳴が聞こえてきそうな表情だった。

女は紙一重で攻撃を避けると、鎧の男が飛ばされた所まで走った。

何か反撃するのかと思ったが、違う。

あの必死の形相に、何かをするような余裕は見られない。

他の二人が追いつくと、弓使いの女が符を頭上に掲げた。


「まぶし……」


次の瞬間、強い光があたりを照らし、思わず目を逸らす。

そして、冒険者たちは一瞬で消え去った。

あとに残るのは、怒り狂ったクイーン。

たまたまなのか、確信を持っての行動か。

こちらを勢いよく振り向くと同時に、俺とラジ子は首をひっこめ撤退した。





マンティス狩りが順調だったのでしばらく忘れていたが、

2階にもボスモンスターが存在するのだ。

そしてボススライムがスライムと比べて非常に強力だったように、

クイーンマンティスも通常のマンティスよりかなり強力なようだ。

速い・でかい・固い。どこをとっても隙がない。


「ああ、クイーンを見たのか。あいつは初心者パーティの壁だからなぁ」


ギルドでクイーンの事を話すと、グランドからはそんな答えが返ってきた。

あの後、あまりにクイーンのインパクトが強かったので町まで戻ってきたのだ。


「あんなもん、どうやって倒すんだ?」

「前衛がなんとか生き延びて、

 後衛が死ぬ気で魔法を撃ち続ける。それだけだ」

「それ、大丈夫なのか?」

「前衛の基本的な防御、後衛の基本的な火力。

 その両方が必要だからこそ、初心者パーティの壁なんだよ」

「例外は無いのですか」


ラジ子が会話に加わる。

グランドには今の姿のラジ子も紹介済みだ。

もっとも、紹介した時はかなり面食らった顔をしていたが。


「極稀に、レアスキルってのを持ってるやつがいてな。あんたの主人のように」


グランドは喋りながら俺を見た。

そうか、ドールマスターもレアスキルなのか。


「そういうスキルの中には、クイーンみたいな奴でも

 真正面から吹っ飛ばせるくらいのものがあるんだとさ」


曰く、王都の方で勇者なんて呼ばれている奴らは

全員が強力かつ独特なスキルを持ち、

魔王の配下を片っ端から吹き飛ばしているらしい。


「魔王、なんているのか」

「おいおい、お前どんな田舎から来たんだよ」


かなり常識的な情報のようだ。

恥ついでに詳しく聞くと、北の果てには魔王と魔王軍とよばれる勢力が存在し、

活発にこちらへ攻めてきているそうだ。

故に北には巨大な城壁があり、

軍の大部分がそこで魔王軍を防いでいる、らしい。


「で、勇者もそこに居ると」

「ああ。ずっと人間は防戦一方だったんだが、

 勇者だけは魔王軍領へ攻め上がっているそうだ。

「……そんな奴らのスキルなんて、さっぱり参考にならんな」

「非現実的ですね」

「お前のスキルも奇抜さで言えば負けていないと思うがな」

「ほっとけ」


少し話がそれたが、結局クイーンは基本に忠実に戦うしかないようだ。

敵の攻撃を防御・回避し、隙あらば炎で攻撃。

必要なのはそれだけである。

とは言ってもラジ子は変に防具を着こめばスピードが落ちるし、

俺だって鎧を着ながら攻撃を回避するほどの力は無い。

そもそもクイーンの攻撃をさばく事もどれだけできるかわからない。


「……そういえば、そのパーティは符でどこかへ消えたんだが、

 そういう符もあるのか?」

「ああ、帰還の符だ。値は張るが……使えば一気にダンジョンの外まで出る事ができる」


なるほど、エスケープ用のアイテムか。

色々なアイテムがあるもんだ。


「なぁグランド。2人パーティでクイーン撃破ってのは結構難しいのかな」

「まぁ、簡単ではないだろうが……」


徒党を組む事に抵抗があるわけではない。

ただ、俺の戦闘力は完全にラジ子に依存している。

俺一人では平凡以下の男一人だ。

そんな奴が普通のパーティに必要とされるとは思わないんだよな。


一方、ラジ子だって俺に比べればかなり強いが、

俺という荷物を許容してまで迎える程のメリットがあるかと言うと

微妙な所だろう。


「確かに、テイマーは通常のパーティには居ない事が多い。

 テイマーが他のメンバーを誘ってパーティに参加、って

 パターンがほとんどだ」

「ですが」

「もちろん、十分な戦力を持つテイマーに限られる話ではあるな」


意味ねぇじゃねぇか。


「普通のパーティに参加させて貰うのは難しそうだな」

「まぁ、冒険者なら工夫する事だ。やれる事をやってからでも

 諦めるのは遅くないと思うぞ」

「おお、良い事言うな」

「さすがギルドの受付は年季が違いますね」

「もうちょっと素直に受け取れよ」


グランドがあきれた目で言う。

だが、確かにグランドの言うとおりだ。

先ほどの帰還の符と言い、まだまだ俺達には知らない事が沢山ある。

強化の余地だって沢山ある……と思う。

俺達はグランドに礼を言い、ギルドを後にした。



昨日はお酒の席があったので投稿できませんでした。

すみません。

基本的には毎日投稿したいと思います。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ