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異なる世界の機械人形  作者: あまつやま
1章 謎の世界の魔法機械
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空腹の一週間

俺、ヤマシロ・トオルは飢えていた。

抽象的な意味ではなく、食糧的な意味で飢えていた。


俺は教室にいた。いつもの事だ。

だが、その外がおかしい。

周囲には異常な程の森が広がっていた。

ギリギリ日光が入るか否か、程度にまで木々が生い茂り、教室を取り囲んでいる。

さらに言えば木々や生き物も、見た事の無いようなものばかりだ。

特に植物や生物に詳しいわけではない。

だが、見覚えのある植物が一つもない、という事はわかった。


教室の周囲がこんなことになってしまったのは、つい一週間ほど前。

午後の授業中、クラス全員が居眠りしていた光景までは覚えている。

やれやれとか思っていると、俺も意識を失った。

そして気がつくと、教室の周囲がこんな事になっていた。

正確には、森の中に教室が現れたような感じだ。


ここまでは良い。

常識的に考えれば良くないんだが、

この事態について1週間も考えてわからなった以上、気にするだけ無駄だ。

森の中で目覚めた俺達はまず慌て、慌て疲れ、食糧も水も無い事に気付いた。

近くに川が発見された事で水の問題は解消したかに思えたが、

最初にその水を飲んだ奴が腹を壊した事で皆の目論見は頓挫した。

さらに言えば、食糧になりうるこの森の動物は異常に凶暴だった。


犬をみつけて襲い掛かった男子生徒は、犬の群れに噛み殺された。

他にも、同じような犠牲者が5人ほど出た。

それでも、森を抜ければなんとかなると数人が言って

森の奥へ歩き出し、帰ってこなかった。





翌日。つまり2日目。

周囲を捜索していたある男が、訳のわからない事を言い出した

何でも、魔法が使えるようになったのだという。

最初は信じたくなかったが、

実際に手から焚き火くらいの炎が出ているのを見せられると

誰も反論できなかった。


そいつの他にも同じようなやつが現れた

水を出したり剣を出したり飛んだりと色々だったが、クラスの半分くらいが

そういう状態になった。

委員長はこれで生き延びる事ができると一瞬喜んだ。

彼は何の能力も出なかったが、各自の能力の説明し、

少なくとも生き延びる事ができる事を主張した。

特に、煮沸消毒で水が飲めたのは大きい。

魔法が使えない者も、手当たり次第に物を燃やし、水を飲んだ。


その翌日、この森に来てから3日目。

魔法使いと呼ばれた奴らは全員いなくなった。

まぁ普通に考えれば、森の外に出ようとするよな。

俺もこんな所からはさっさと帰って

ゲームやらジャンクフードやらを楽しみたかった。

気の根っこで空腹を紛らわせるにも限界はあるのだ。

だが、凶暴な動物による怪我人は増える一方で、

俺にしたって、空腹の不満より恐怖が圧倒的に勝っていた。





森に来てから4日目。

また一人魔法を使える奴が現れ、そいつは一時間もたたずに森の奥に消えた。

委員長はそいつを必死に引き止めたが、そいつの魔法、怪力の力を止める事はできなかった。

それから魔法使いはもう現れなかった。

既に皆、ここから脱出するには魔法を使えるようになるしかないと

確信していた。

だが絶望的な事に、どうやら全員が全員、魔法を使えるようになるわけではないらしい。


既に精神的に限界だった委員長と、他複数名が去った。

勿論魔法なんて誰も使えない。

数に任せて森を突破しようというのだ。

大多数が賛同し、少数が残った。

俺は、残った。

既に正気の判断ができる状態ではなくなりつつあったが、直感的な恐怖が

まだ俺を支配していた。





5日後の夜。

誰もいなくなった。

もう、ここに居るのは俺だけだ。


そもそも何で俺は行動しなかったんだろう。

魔法使い達に頼み込むなり、委員長達についていくなりの方法は確かにあったはずだ。

だがすぐに恐怖が俺を支配する。

最初に、狂犬に殺された生徒を見つけたのは俺なのだ。

このままここに居てもどうにもならない事は理解しているが、

あの獣たちから逃げ切る事が出来るとは思えない。


手元の紙を見た。

そこには手慰みに書いたものが描かれている。

最近買ったゲームに登場する、ロボットが描かれている。

まったくこの状況を改善する訳ではないが、

思考だけでも別の事を考えたかったのだ。


2枚目の紙には全く別のロボットが描かれている。

そこには、俺の願望が丸出しで描かれていた。

この状況を打破できるとすれば、それはどのようなロボットか。

俺が描いていたのは最小限の整備で動き、燃料を使わず、獣を殺し、炎を出す。

そんなロボットだった。

なんとも見事な現実逃避だったが、

ついにそれを咎める理性もやる気をなくし、

俺はやがてメモの中の事だけを考えるようになっていた。


樹の根をかじりながら手元のメモに書きなぐる。

妄想は加速していく。

どうも同じような絵をずっと描いているような気がする。

だがそれを止める自我も、他人も、どこにもいなかった。

いつの間にか夜になり、そして再び太陽が昇っていた





そして今日。

俺はついにぶっ倒れた。


……いまさら気づいたが、ひたすら齧っていたこの木の根。

これ、頭がおかしくなる系の『あかんやつ』だ。


手元のメモが目に入る。

そこには昨日からひたすら描き続けたものがあった。

燃料を使わず、獣を殺す刃を持ち、炎を出す。

そんなロボットの絵。

体感時間では数時間。現実ではおそらく数分が経ち、

俺は最後になるであろう言葉を発した。


「助けてくれ……」


なんでもいいから、助けてくれ。

魔法でも、奇跡でもなんでも良い。

しかしそれ以上思考する力すら既に無く、やがて俺は気絶した。


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