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感情戦記ANREMPELN ~未来を見通す戦士~  作者: 花澤文化
第1章 昇格試験、Ⅶ組からⅠ組へ
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第7話 兆し

「ワイズマン・・・!」


 Ⅱ組の教室。

 そこも同じように混乱で溢れていた。生徒はおろか、座学の教師まで慌てふためく始末だ。しかしそこはⅡ組。生徒の中には次の瞬間には冷静に戻っている者が数名。

 矢倉宗司やぐらそうじもそんな生徒のうちの1人だった。引き締まった体に長身、整った顔つきは今、少しだけ緊張しているようだった。


「お、落ち着いてください。今直ぐに避難通路へ・・・」


 教師はしどろもどろで話している。しかし教室は混乱しているのだ。声は全員に届かない。それにさらに教師も混乱するという悪循環がそこで行われていた。

 それを見て、宗司は逆に冷静になる。

 このままでは駄目だ。ここから動けない。冷静なものも数名いるみたいではあるが、その数名だけで動いても意味はないように思えた。


「矢倉、どうする」


 そんな中、1人の女子生徒が矢倉に話しかける。綺麗な黒髪をそのまま背中へと流している長髪の持ち主、ブレザーは恐ろしく似合っておらず、どちらかと言えば和服が似合うような見た目。

 姫椿ひめつばき。彼女はそういう名前だった。


「このままでは避難もままならない。とりあえず全員落ち着かせるべきだ」


 とはいってもこの混乱の中、どうすれば皆を落ち着かせることが出来るのか検討もつかない。

 しかしそんな宗司とは違い、姫椿は小さく「わかった」と頷くとそのまま顔を皆の方へと向け、1歩、2歩と歩いて行く。

 そして・・・。


「喝ッ!!!!!!!!」


 そう思いっきり叫んだのだった。

 近くにいた宗司の耳はあまりの大きさの声に驚きキーンという音が鳴っている。他のみんなもそれに気付いたようで教師含め、ポカーンとした顔でこちらを向いていた。

 あの騒ぎよりも大きな声を出せて、さらに注目を集めることが出来るとは、宗司は驚く。


「とりあえず、避難しましょう。このままでは攻められてジリ貧です。こちらから攻撃するにしてもこの狭い教室では少し厳しい・・・と思います」


 姫椿が作ってくれたこの空間を逃すわけにはいかないと宗司は説明を始めた。

 こうしている今もワイズマンは攻め込んでいる。その焦りがあることは事実。少し早口になっている自覚がありながらも話し続ける。


「前方、後方を戦える者でまとめ、避難場所を目指しましょう」


 とりあえず隊列を作る。

 避難経路を無事通り過ぎればこの学校の敷地外だ。そのまま逃げることが可能になる。あとは本職の人間に後始末を任せてしまえばいい。

 だから宗司たちの戦いはそれまでのものだ。小さく、弱い、そんな戦い。


(しかし・・・)


 宗司は疑問に思う。

 ワイズマンは感情性武器反対組織。この学校を狙う理由だってあるし、今までの歴史の中でも襲われた回数は結構な数になる。

 だからこうなるかもしれないと、そう思ってこの学校に入学してきた。軍人になるつもりのない人間でもそう覚悟しているのだろう。


 それほどまでに高い就職率、出世というものは大切なのだ。こんな危険な学校でも入学者は途絶えないにんきの学校となっている。

 それはワイズマン相手でも今まで一切死人を出していない(もちろん敷地内だけでなく、家に帰った後や遊びに出かけるときでも)この学校のセキュリティを信用しているということでもあるのだろうが・・・。


(・・・・・そう、覚悟。死ぬかもしれない、そんな覚悟があった。その覚悟の割にはなんだか・・・甘い。相手の侵攻は甘いような気がする・・・)


 そう、この学校をつぶしたければ放火でもすればよい。もちろんそれをさせないセキュリティもあるし、そこまでいけば犯罪なので捕まることにもなる。

 逮捕を恐れるようなやつがワイズマンにいるとも思えない・・・では、どうせ放火しても無駄だと思ったのだろうか。


 宗司は思う。

 自分の覚悟の下をいく相手に・・・。


(俺は拍子抜けしているのか・・・)


 不謹慎。

 拍子抜けできるのならまだいいだろう。そう言い聞かせる。


「矢倉、助かった。私は人をまとめることがどうにも苦手でな、先生と共に先導を頼む」

「いや、姫椿。君がいなければ俺は何もできなかった。先導は任せてくれ、避難経路は頭に入れてある。姫椿は後ろを頼んだ」


 そういって作られたのは隊列。

 一直線のなんの代わり映えもない単純な隊列ではあるが、だからこそ洗練されている。宗司は先頭に立ち、だいぶ落ち着いた教師と共に先導する。


 だが、問題はここだ。


(すでにだいぶ時間を使ってしまった。もしかしたら扉の外にはすでに敵がいるかもしれない)


 待ち伏せの可能性。

 障害物があるが故の心配。教室の扉は廊下側の前後についている。反対側は窓だ。窓の外は広いスペースがあり、そこに闇雲に降りていくのは危険と判断し、校舎内を進むことにした。


(あのスペースは見通しがよすぎる。狙ってくださいと言っているようなものだ)


 だからあの扉をあけて廊下に出る必要があるのだ。

 どうしても見えないスペース。死角ができてしまう。


(怒の感情が得意な奴に扉ごと吹き飛ばしてもらうか・・・?)


 すでに感情性武器の授業を少しやっているⅡ組。もちろん手元には基本的な武器が支給されている。しかし扉を吹き飛ばすほどの威力を出せるやつがいるのだろうか。

 基本的に感情性武器とはいえ、撃てるのは弾丸だし、出せるのは刀のようなものだ。

 それで扉を破壊することは・・・。


 爆音。

 途端隣の教室から何かが破壊されるような音と、叫び声とともに赤い何かがグラウンドの方向へ放たれていったのが扉の小さな窓から見えた。

 Ⅱ組は今更あれをみてもざわつかない。隣のクラスということもあり、何かとみる機会が多かったりするのだ、あれを。


「今のは・・・またあの子か・・・」

「レーザービームだよね・・・銃から・・・?」

「すげえ・・・あれが主席の怒り・・・!」


 とはいえ、少し小声での会話は行われているようだった。


(Ⅰ組主席・・・相変わらずほれぼれするような破壊力。俺の目指している・・・もの)


 宗司は少し考えた後、すぐにみんなに指示を飛ばす。

 今ので廊下に敵がいたらかなりうろたえるはずだ。うまくいけばあの主席が倒してくれるかもしれない。今がチャンスだ、と。


 先頭の攻撃要員2人が武器を手に思いっきり教室から飛び出す。

 やはり廊下には数人のワイズマン構成員がいたが、先ほどのレーザービームでそちらに意識が向いている。というより、驚いている。それはそうだ。いきなり教室からレーザー、驚くだろう。


「よっしゃチャンス!」


 先頭にいる攻撃要因の1人がワイズマン構成員を感情性武器で攻撃する。拳銃だ。発砲音と共に発射された銃弾は青。哀の感情だ。

 Ⅱ組ということもあり、ある程度自分の感情をコントロールできるのかもしれない。


 青の銃弾は四散。

 細かな粒子となって未だ吹っ飛ばされていない敵に降りかかる。


「・・・・・・」


 ワイズマン構成員はその粒子をあびると目をほそめ、その場から動かなくなる。

 どうやら相手の体の機能を少し下げた結果らしい。その隙にもう1人の生徒が「感情性武器type-刀」の柄で思いっきり殴る。

 相手は気を失いその場に倒れてしまった。


(いい調子だ)


 宗司は思う。

 やはり規模がでかいとはいえ、数字持ち以外はほとんどが素人の様子。それならば厳しい実技入試を潜り抜けて来た生徒で勝てるレベルだ。

 廊下に出るとⅠ組の姿はもうない。Ⅱ組側に来ていないということは反対側に行ったのだろうということが分かる。しかし。


(非常通路はⅦ組の近くだ。Ⅱ組の前を通らないと遠回りになってしまうはず)


 廊下にはⅠ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ、Ⅴ、Ⅵ、Ⅶと横に並んでいる。

 非常通路に行くためにはⅦ組の方へ行かなければならないはずだが・・・。Ⅰ組はその真逆へと進んで行ったらしい。


(そっちにも階段はあるが・・・そこから1階に行き、玄関から出るとかなり目立つ。遮蔽物がほとんどないし、校門なんか開けた場所だ。それこそ見つかればいいカモだ。・・・・・まさか)


 わざと・・・なのか。

 宗司はそう思う。Ⅰ組は精鋭クラスだ。確かにこのままでは7クラスが非常通路に移動し、人でごった返してしまう。だからあえてⅠ組は遠回りして・・・敵をおびき寄せながら逃げるつもりなのか。


(・・・・・)


 同じ生徒。

 同じ年齢。

 そのはずなのにどこか遠くに思える。真っ先に思いついた顔は金髪の女子生徒。宗司が目指す遥か高見。宗司は避難することだけを考えて行動していた。

 でも、それだけでは駄目なのか・・・?


「いや・・・」


 今はそれでいい。

 まずは全員で避難する。それがこのⅡ組最大の目標なのだ。宗司はそのままみんなの方を見る。


「移動しよう!今は敵がいない。非常通路もまだ混んではいないし、スムーズに移動できるはずだ。急ぎ過ぎず、前へ進もう!」





 何かが弾くような音が聞こえた。

 場所はグラウンド。その音はしかし、当人たちにしか聞こえていない様子だった。恐らくまわりは自分たちの戦闘で精いっぱいなのだ。

 乱闘地味た戦いは尚も続いている。


 最弱のⅦ組が奮闘していた。

 レーザービームに驚いたのは一瞬、すぐに戦闘を開始し、今も続いている。しかし先ほど、感情性武器のロックが解除され、今は人にも攻撃できるようになっている。

 切れ味は最大まで落とされてはいるが、その事実にワイズマン構成員が攻撃しあぐねている。


(私の剣が弾かれた・・・?)


 そんなたくさんの戦いの中の1つ、椿姫。椿姫は感情性武器を手に取り、向かってくる敵を倒していた。策も何もない。ただ己の剣の腕前だけを信じた戦い方。

 そしてそれは相手に通用していたはずなのだ。


 大人もいるとはいえ、所詮相手は素人集団。戦えるものは一握り。そんな連中が自分に敵うはずがない。そう思いながら戦っていた。

 憐れみを感じながら。哀しみながら。これからお前たちは自分に無残にもやられていく、そういう憐れみで出来た青い刀身を振り回して。


 しかし初めて。

 初めて椿姫の攻撃は防がれてしまったのだ。

 相手は黒いローブにワイズマン特有の仮面を付けている人間だ。背丈的には大人、そして男だろうと推定される。

 その仮面に数字はなし。


(ナンバーズではない・・・?)


 椿姫が唯一苦戦するとしたら今、教師が必死で動きを止めてくれているナンバーズぐらいだと思っていた。しかし相手は普通の構成員らしい。


「なるほど、剣術か」


 男はそう呟く。

 そうして先ほど弾いた時に折られた刀を地面へと捨てた。

 

 椿姫の青い刀身は哀の感情から成る。哀は何か相手のステータスを下げるようなものが多いのだが、椿姫の哀はどうやら物に効果があるようだ。

 物の硬度、連結、耐性部分を弱め、破壊しやすくする。武器殺し。それが椿姫の戦い。


 男はまた懐から刀を取り出す。

 もちろん出したのは普通の刀。ワイズマン構成員は感情性武器廃止のために結成された集団なので、当たり前のように感情性武器は使わない。


(折れた上で私の剣を弾いたのか・・・警戒する必要があるな)


 椿姫は刀を構える。

 うぬぼれているわけではない。事実をそう認識しているからこその自信を持つ椿姫はこうして冷静に観察し、学ぶ事も出来る。


 椿流、先の型。

 落ち花斬りおちはなきり


 刀を振る。

 椿姫が最も得意とする剣技の1つで落ちる花弁をも斬るかのような丁寧な一閃。相手の武器の弱いところを丁寧に斬って破壊する。そう使ってきたものを人間に使った。


「なるほど・・・・こうか」


 そういって男も同じく、椿姫と同じ落ち花斬りを出してきたのだ。

 しかもこの一瞬で、全く同じ動作で。

 冷静だった椿姫もこれには驚く。しかし攻撃の手は止められない。刀と刀がぶつかりあい、火花を散らせたのは一瞬。お互いの剣が弾かれ、後ろに飛ばされる。


 だが、今回は相手の刀は折れていなかった。

 綺麗に受け流された・・・のか・・・。


「な、なぜお前が椿流を・・・!」


 椿姫の家は剣術道場だった。

 父親がそこの師範をやっており、近所の習いに来た子供と一緒になって鍛練していた。そしてそれ相応の腕になった高等学校時に父親が先祖代々受け継いできた椿流を継承されたのだ。


 剣術道場で教えていたのは一般的な剣術で椿流ではない。そもそも椿流を継承されるのは先祖の血を受け継いでいる肉親だけだ。


 一瞬、肉親の可能性がある、と考えたが・・・・。

 相手はすでに知っていたものを使用したというより、今、試したみた、というのが正しい感じだった。すなわち、相手は今、あの瞬間に椿姫の剣術を盗んだということだ。


「もう一度やってみせよう」


 男は構え。

 そして静かに呟く。


「椿流、先の型。落ち花斬り・・・・・・ッ!」


 綺麗な一閃。

 しかし椿姫はとりあえず刀を構えた。冷静ではいられなくなっているかもしれない。それでもきちんと対処はする。


 椿流、後の型。

 菊一文字きくいちもんじ


 後の型は相手の攻撃の後に繰り出す技。先の型はこちらから攻める時に使う技だ。

 そして菊一文字は居合の術。刀を高速で抜き、相手を攻撃することもできるし、武器を破壊することもできる。


 また剣と剣がぶつかり合い・・・お互いに弾きあう。しかし。

 相手の武器は壊されず、こちらの腕も反動で吹き飛ばされるようになっていた。


(先ほどよりも威力が強くなっている・・・!確実に剣術を自分のものにしようとしているのか)


 椿姫はそれでも攻め続ける。

 刀の切っ先を相手に向け、そのまま走り出した。


 椿流、先の型。

 宵桜時雨よいざくらしぐれ


 出されるは高速の突きの連続。

 突きをものすごいスピードで繰り出し、相手にはまるで剣先の雨が降っているように見えるという攻撃力の高い技だ。

 一撃をかわしても次の突きが、もう一撃をかわしても次の突きが。


「椿流」


 しかし。


「後の型」


 相手はそれさえも超えてくる。


「菊一文字」


 先ほど出した自分の技によって思いっきり後ろにはじき返された。乱れ突きの一発を狙ってそこを思いっきり刀で弾かれたのだ。ダメージは負っていないものの、とうとう力負けしてしまった。

 自分の力が相手によって完成されていくのを見せつけられて、椿姫は焦る。


「ぐっ・・・ならば!椿流・・・・・・!!!」


 再び何かの技を出そうとした時、相手の刀が自分に迫って来ていることに気付いた。

 技にこだわりすぎて、忘れていた。こういう普通の攻撃だってあるということを。ただなんの変哲もない攻撃。だからこそ出がはやく、構えてしまった椿姫は行動が一瞬遅れる。


 その一瞬が戦いでは命取りになってしまうのだ。避けることができない。


(しまった・・・!)


 そう思うもすでに遅い。

 相手の剣先が自分に迫り・・・そして・・・。


「何熱くなっているんだ」


 相手の刀を弾く音が聞こえた。いや、弾いたというよりは完全に弾かれていたのだが、それでも相手の攻撃を防いだことには変わりない。

 黄色い小さな刀身。それで攻撃を防いだのは央太だった。


 しかし央太も剣術に関しては素人。

 相手の椿姫をも吹き飛ばす威力の攻撃を受けて思わず顔をしかめる。反動による痺れ。痛み。それぞれが央太を襲う。


(なんか良く分からないが・・・なんだったんだあの光景は・・・)


 時間は少し前に遡る。



 

 

遅くなりました。次はもう少しはやく書きたいとおもっています。


次回もよろしくお願いします。

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