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感情戦記ANREMPELN ~未来を見通す戦士~  作者: 花澤文化
第1章 昇格試験、Ⅶ組からⅠ組へ
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第5話 武器に触れ・・・そして

 座学を終えた5、6限の時間にⅦ組の生徒たちは普通の学校と比べると遥かに大きなグラウンドに集合していた。今現在生徒たちがいるのは砂のある地面ではあるが、コンクリート製の道や少し離れたところに行くと草や木が生い茂っているところもある。

 様々な状況を考え、訓練できるように軍学校のみ特別なグラウンドを用意することを許されていたのだ。


 それを見て「すげえ」と感心している生徒もいるが、やはりほとんどがそんなことには気付かないとばかりに笑いながら談笑しているものや、目をつぶり精神統一的なことをしている者もいる。

 普段やる気のない生徒たちがなぜこうも浮足立っているのか、理由は1つだった。今、この時間は初めて感情性武器を触る授業なのだ。


「みんな着替えたな」


 そこにいたのは先ほど座学を担当していた新任教師だった。

 生徒たちはみな、現役の軍に所属している人に教えてもらえると思っていたので少しだけ拍子抜けする。露骨にがっかりするものもいた。

 教師は苦笑いする。


「気持ちは分かるが少しは落胆を隠してくれ・・・。その・・・なんだ・・・今日やるのは感情性武器の基礎的な説明が主だから座学分野の俺が担当することになった。授業を進めていくにつれてみんなが期待しているような人も来てくれるだろう」


 その説明に露骨に嫌そうな顔をするものは今度はいなかった。

 少し期待外れではあったものの、この授業で本当にやりたかったのは感情性武器に触れること。それさえ叶えられれば最低限いいのだ。


 生徒たちはいわゆる迷彩服のような厚手の運動着に着替えている。緑色を基調としたもので迷彩柄が全体に行き渡っている。しかしこれは形だけのものだ。

 迷彩服の中には体育の時間に使うような半そで短パン、またはジャージなどを着ており、いつでも脱げるようにはなっている。


 軍の人間相手ならばそんな格好で運訓練など!と怒られるかもしれないが、今日の担当は新任教師であるらしく、「なんかこれ可愛くない」と言っていた女子なんかはすぐにでも脱ぐかもしれない。

 

 実際は軍の人間もそれに関してはそこまで咎めなかったりする。

 それこそ外での訓練などだった場合は厳しいが、こうしてグラウンドなどで行う訓練ではそこまで厳しく指導されたりはしないのだ。

 戦争が起きなくなったこの時代。少しずつ緩くなってきている。


「では名前を呼ぶから1人1人来てくれ。練習用の感情性武器を渡そう」

「そんなプリント配るみたいなテンションで渡されるんだ・・・」


 歴史学の授業で真面目に質問をしたりしていた納谷が呟いた。

 教師に名前を呼ばれる度に生徒が1人1人教師の元へと歩いて行く。その際渡された木で出来た筆箱のような箱。どこか高級感のあるそれを渡された者は慎重にそれを持ち運ぶ。

 もし誤って発動してしまっても今は殺傷能力をオフにしている状態なので怪我をすることはないが、それでも慎重にはなってしまう。


 全員の名前を呼び終わると「それじゃ開けてみろ」という教師の一言に全員が動き出す。静かにその箱を開けると中に入っていたのは手のひらで持てる大きなペンのようなものだった。

 色は漆黒。とても黒い。そこに花柄のような模様が金色で刻まれている。

 央太がそれを見て真っ先に思い出したのはおせちの入った重箱だった。あの容器のような高級感。


 「高い万年筆だよ」と言われればそのまま信じてしまいそうになるが、万年筆にしては大きすぎる。手のひら全体でようやく握れるというそれはペンではなく・・・刀や剣の柄のようだった。


「一応それが基本的な感情性武器『Type-脇差』だ。それに感情を込めると刀身が噴き出す。長さは36cm程度かな。短い刀と思ってもらって構わない」


 そう言うと教師もまた自分のつけていたベルトのホルダーから似たような柄を取り出した。生徒のものとは違い、新品ではないのかどこか傷がついていたりと年季が入っている。

 それを見ていた1人の女子生徒・・・黒髪ストレートで色白、線の細い体をしていてブレザーが圧倒的に似合わない和風少女こと姫椿ひめつばきは目を細める。


(やっぱり・・・座学の教師とはいえある程度実技も出来るということか)


 生徒に品定めされているとは思っていない新任教師はみんなの楽しそうで、どこか緊張感のある顔を見渡した後、少しだけ笑い・・・その柄を思いっきり握った。

 すると柄が光り出す。


「感情性武器を発動させることは簡単だ。ただその柄を握るだけでいい。赤ん坊だって出来る。なぜなら人間は常に何らかの感情を持っているからだ。無感情な人間もいるかもしれないが・・・それでも無感情という感情がある、らしい。俺はまだ見た事がないがな」


 教師の持つ柄の真ん中にあるガラス玉に『喜』の文字が浮かんだ。

 柄が薄いピンク色のオーラで包まれ、ボッ!と薄いピンク色の短い刀身が柄から噴き出した。その様子を見て知ってはいても生徒たちは驚く。


 感情転化システム。リィンベール国が生み出したと言われている特別なプログラムで、それを組み込めば使用者の感情を読み取り、武器に変えることが出来る。

 あの柄は一見ただの柄に見えるが中身はハイテクなコンピューターなどで出来ているのだ。

 もちろん乱暴に扱っても壊れないようにはなっているのだが。


「この間も説明したとおり、得意な感情は人によって違う。得意な感情ならばその武器の性質を90%近く・・・人によっては100%近く出せるが、苦手なものだと30%以下しか出すことができない」


 新任教師は少しため息をつきながら、また柄を強く握る。そうすると今度は柄自体が黄色く光りだし、柄のど真ん中にあるガラス玉のようなものに『楽』の文字が浮かんだ。

 そして先ほどのように柄から刀身が噴き出した・・・のだが。


「・・・・」


 さっきまで驚いていた生徒が思わず無言になり、しらけてしまうほどの光景がそこにはあった。

 刀身は噴き出したのだが・・・その長さが5cm程度しかなかったのである。36cmの小脇差はただでさえ短い部類に入るのだが、あの長さではナイフとも呼べないだろう。


「こんな感じに俺は『楽』の扱いが苦手でな・・・10%程度しか武器の能力を発揮することができないんだ。長さもそうだが、強度、切れ味、何から何までこの状態では低いんだ。要するに俺の得意感情は『喜』ということになる」


 そこで教師は再び薄いピンク色の刀身を発現させる。

 その後生徒たちの顔を見渡し、少し考える素振りを見せた後「姫椿」と1人の女子生徒の名前を呼ぶ。

 姫椿は「はい」という凛とした声を響かせた。


「感情ごとに武器には特徴が出てくる。『喜』の特徴、言えるか?」

「はい。『喜』は主に仲間の能力の底上げ、そして回復を中心とした感情です。その代わり殺傷能力がとてつもなく低いですが、サポート役として重要な役目を持つ感情、で合っているでしょうか」

「正解だ。そのままいけばペーパーテストもいい点をとれるだろう」


 姫椿は「ありがとうございます」と淡々言う。

 そして新任教師はまた辺りを見渡し、1人の生徒に目を付けた。


「比嘉、『哀』の感情の特徴はなんだ?」

「え、あ・・・えっと・・・」


 突然あてられた遊里は少しだけ慌てながらも、頭の中にある単語で文章を構築していく。普段からおどおどしており、急な展開についていけないことも多いが、持ち前の頭の良さや記憶力でカバーしてきたのである。


「確か・・・『哀』は相手の能力を下げたりする感情で・・・殺傷能力もそれなりにあるので戦えるサポート役という感じ、でしょうか・・・」

「概ね正解だな。『哀』は何も相手の能力を下げるだけではない、やろうと思えば他の物にも干渉できる。例えば気温を下げるとか、植物の成長を遅くするとか。人のよってそこらへんも差があるだろう」


 次に新任教師が目をつけたのは坊主頭の見岡と同じぐらいやんちゃそうな印象を受ける髪の長い男子生徒だった。その髪色こそ黒いが、高等学校時には金髪に染めていたらしい。

 「伊達」とあてられたその男子生徒は「俺っすか・・・」と明らかに残念そうだった。


「『怒』の特徴はなんだ?」

「うおおお!よかったー!一番楽な感情で・・・。えーっとあれっすよね、攻撃でドーン!ってやつ。なんか余計なもん全て捨てて単身体だけで喧嘩に来たみたいな」

「何を言いたいのかは分かった・・・。『怒』は特殊能力がない。殺傷能力に長けていて、攻撃の形が変化することもある。ただの銃でも散弾銃になったり、刀が巨大な大剣になったり」


 伊達の答えに少し呆れつつ、新任教師はまた違う生徒に目を付けた。

 髪の毛にパーマをかけており、髪色は若干茶髪。迷彩柄の服装には「可愛くないから」という理由でなんだかデコレーションされている。そんなこの歳らしい女子生徒だ。

 「錨澤いかりざわ」と呼ばれたそんな生徒は「えー苗字は可愛くないんでやめてくださいー」という高い声音で返事した。


「『楽』の特徴は分かるか?」

「むー、それってえ、一番難しい感情じゃないですかあ。私わかんないよお」

「ではもう少し勉強するように。『楽』は何が起こるか分からないと言われている。一応他の感情は武器そのものに特殊能力を付けるものだったが、これはそうとは限らない。一説では使用者を楽させるような能力になるというが・・・それも確実な説ではない」


 そう言うと説明は終わったのか、一度間を置き、生徒全員を見渡す。


「それでは今から感情性武器を発動させて、自分の得意な感情を探してみてくれ。もちろん、発動させるときはそれぞれの感情を心に思い浮かべること。感情性武器を発動させるのは楽だが、自分の好きな感情を好きな時の発動させるのはとても難しいことだ」


 だからそれをこれから鍛練していく。

 『怒』を発動させるときには心の中に怒る気持ちや苛立ちがなければ駄目だし、『喜』を発動させるときには心の中に喜びがなければいけない。

 それを咄嗟に出来るのかどうか。


 例えば『喜』の得意な人物が回復役で仲間の傷を手当するときに『喜び』を思い浮かべたままできるだろうか。簡単なかすり傷程度なら「自分の回復が役に立つ、嬉しい」とでも思えば出来るだろうが・・・生死に関わる怪我を目の前で見て、喜びながら回復させることができるか。


 軍隊に所属するということはそういう危険だってあるということなのだ。

 ほとんどが別の道を目指しているこのⅦ組には今の段階ではあまり関係ないことではあるが、こういう訓練だって危険との隣合わせなのだ。


 人間の感情を使う戦争というのは非人道的だと今でも反対されている。その理由はこういうところから来ているのだと判断できた。


「得意な感情の場合、刀身の長さが36cm近くになるから分かりやすいだろう。それではみんな一斉に好きな感情を思い浮かべて柄を握るんだ。それが得意ではなかったら次の感情を思い浮かべろ。この軍学校では得意な感情を伸ばしていくから自分で得意な感情を理解しておくことは大事なのだ」


 生徒たちは全員新品の柄を握り、各々好きな感情を思い浮かべる。するとあちこちで刀身の噴き出すボッ!という音が聞こえて来た。

 「うおお!俺『喜』だ!」「あーお前にぴったりかもなんか喜びしかなさそうだし」「私は『哀』かな?」「青色綺麗・・・私も『怒』じゃなくて『哀』がよかった」と反応は様々。


「央太くん」

「遊里、どうだった?」


 そんな中、央太たちも同じように挑戦していたのだった。

 央太の脇差は綺麗に36cm近くあり、その刀身の色は黄色。『楽』だった。なるべく面倒なことをしたくない、楽をしたいという気持ちの強い央太らしい感情である。


 対する遊里は青い刀身が柄から伸びていた。それは『哀』。どこか自分に自信がなく、ネガティブな遊里らしい感情で本人もそれを理解しているのか苦笑いをしていた。

 先日イリスに色々言われたこともあり、遊里の中ではまだ迷いがあるのかもしれない。


「男らしい・・・そういう風に変えるときっとこの得意な『哀』は中途半端になっちゃうんだろうね」


 そう思わず呟いた遊里に央太はなんと返そうか迷っていた。

 しかしその前に「あぶねえ!」という声が響き、その発生源が視線を集める。発生源は長い黒髪の伊達だった。近くには坊主の見岡がいる。


「い、いやあ、すまんすまん。なんかお前の方に向けて発現させちゃった」

「ふざけんな坊主!そんなお茶目な感じでこっちの人生終わらせられたらたまったもんじゃねぇよ!」


 どうやら見岡が刀身の噴き出す方を伊達に向けた状態で感情性武器を発生させたらしい。

 殺傷能力をオフにして、人間に害のないようになってはいるが、それでも恐ろしいものは恐ろしい。伊達はきっと心臓が止まるような思いをしたのだろう。


「このままお前の坊主頭も2度とバリカンで刈らなくていいようにしてやる!」

「ばっかだなあ、殺傷能力がないとかいってたろ。だから髪の毛にもノーダメージ!・・・・・だよね?人間に効かないって髪の毛も入るだろ・・・?」


 そのまま取っ組み合いのような状態になる。

 感情性武器に殺傷能力がないとはいってもこのまま本格的な喧嘩になってしまえば怪我をおってしまうだろう。教師は「おいお前ら」と声をかけようとして・・・その2人のところから感情性武器が吹き飛ぶところを見た。


「あ」


 取っ組み合いを始めているうちに伊達の感情性武器が手からすっぽぬけてしまったらしい。そのまま感情性武器が空をくるくると舞い・・・女子側に落ちていく。


「きゃああ!」

「あ、危な!」


 もちろん、大混乱。

 怪我をする心配がなくとも怖いものは怖いし、そもそも柄は人間にもあたる。教師はなんとか女子生徒のところへかけよろうとするが、その前に姫椿が一歩前へ出た。

 姫椿が感情性武器の柄を握り、青色の刀身が噴き出す。

 一閃。

 姫椿の脇差が伊達の感情性武器を切り裂いた。


「あああああああああああ!!」


 悲痛の声を上げたのはもちろん伊達。

 人間には効かないというだけで物には効くように設定されていた

 もらったばかりの感情性武器を破壊されたのだ。その気持ちも分からないでもないが・・・。


「自業自得だ」


 姫椿はそう冷たく言い放った。

 さらに危なかった女子たちが「危ないでしょ!」「こんなところでふざけないでよ」と口ぐちに言っていく。一瞬にして騒がしくなった。

 その女子たちの強い口調と瞳に押されたのか伊達は冷や汗をかきながらも、


「ぐっ・・・も、元はと言えばこの坊主が・・・!」


 そうして再び見岡に向き直った、その時のことだった。

 ビィイイイイイイイ!という警報が突如鳴りだしたのだ。コンピューター音というよりは人間が鐘を鳴らしているかのようなアナログ音声。

 それはこの第4軍学校にマッチしているものではあるが・・・それどころではない。


「これは・・・第2警鐘・・・!」


 新任教師の顔が歪む。

 今までふざけていた生徒たちも思わず無言になり、その警鐘を聴いていた。

 理解出来ているのはこの場で教師だけ。


「みんな、その武器を持ち、帰宅するんだ。今日はここで終わり、また次回続きをやろう。自業自得ではあるが伊達の感情性武器はまた用意する。後、一応危険はない。姫椿、なるべくなら壊さず回収してもらえれば助かる」


 そう矢継ぎ早に説明して、教師は生徒に背を向ける。

 しかし自体についていけていない生徒たち。思わず納谷は教師に質問をした。


「あ、あの・・・これって一体・・・」


 納谷の質問に教師は「話さない理由はないな」と呟き、生徒に向かって話し始める。


「・・・・・みんなも聞いたことがあると思うが、反感情性武器組織『ワイズマン』がこの学校に侵入してきた。この第2警鐘はその音だ」


 そう、静かに。

ようやく少し話が進んだような気がします。不定期更新なので次がいつかは自分でも分かりませんが、よろしくお願いします。

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