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感情戦記ANREMPELN ~未来を見通す戦士~  作者: 花澤文化
第1章 昇格試験、Ⅶ組からⅠ組へ
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第4話 戦いの歴史の授業

 イリスとの出会い、そして図書館のことがあってから数日。

 まだ少しぎこちなくはあるものの、1年生は大分緊張がほぐれているみたいだった。


 実技などの特殊なものもあるが、座学は基本今までと変わらない基礎知識の授業が多い。そして家から学校に通うというシステムまで同じなのでその分慣れるのははやいのだろう。


 お昼直後の授業はどうしたって眠くなる。それなりに優秀な生徒が集まっている軍学校だってそれは同じ事。全員自分の席に座り、教科書、ノートを開いているものの、教師の話を聞いているかどうかはまた別問題なのだった。こうしてテスト直前になって焦る生徒が出来あがるのである。


 しかもこのⅦ組はこの学年で最もやる気のないクラス、もといこのⅦ組という枠内に入れられてしまったせいでやる気がでなくなった生徒の多いクラスだった。


「まず、ここ鷹丸国はとても小さな国だった。それは今も変わらないし、戦争時の時も変わらない。小さなといっても国土もそうなんだが、武力的にもそれはもう小さな国だった」


 教壇では一生懸命教師が話している。

 Ⅶ組の担任でもある新任教師だ。生徒が話を聞いていないだなんて気付いていないかのように、必死に分かりやすく話そうとしている。


 Ⅶ組のこの時間は歴史学だった。そのまんまこの鷹丸国や他の国の歴史を教えるという科目で座学の中では重要視される傾向にある。


 それなのにこのクラスで真面目に聞いている生徒は少なかった。

 さらに言えば、他のクラスでは生徒同士が大分馴染んでいる中、このクラスだけまだ入学式の日そのまんまのどこか他人行儀な雰囲気を引きずっている。


 一番最初の昇格試験がそれなりに近いため、自分がⅥ組などの上のクラスに上がれる確信のあるものはそもそもこのクラスに馴染もうとはしない。昇格試験に参加するつもりのないものもまた、卒業できれば他はどうでもいいと考えている者が多い。


「鷹丸国は先ほども言ったように国土が小さい。だから他の国と比べて土地を畑に変えても膨大な量の資源を生産できるわけじゃなかったんだ。今は技術が進み、そんなことはなくなったが、昔は畑1つ作るのも大変だった」


 教科書をめくりながら説明していく教師。

 教室の中を見渡してみるとやる気のなさそうにしている者、もうすでに寝ている者、窓から外を見ている者など様々だ。意外と教壇から見るとそういうのは分かりやすい。

 教師は小さくため息をつくと、教科書を閉じた。


「まあ、そうだな。他のクラスよりⅦ組は歴史学が進んでいるからな、今日ぐらい別のことをやっても問題はないだろうな」


 そう言った教師に起きていた生徒が一斉に視線を向ける。

 自習になるのだろうか、といった期待の目が多かったのだが、新任教師はそれをばっさりと切る。


「今の範囲である戦争のきっかけについて話しながら、君たちの質問になんでも答えよう。さらにこちらから君たちに積極的に質問することにする」


 一気に生徒たちが項垂れた。

 ああ、結局は授業だし、なんか知らないけど質問されるってさっきより悪化してる・・・ということを誰もが思いながらそれを発する者はいない。

 教師はまたつらつらと話し始めた。


「さっきの続きだが、自国で資源を生産しにくくなった鷹丸国はその後どうすると思う?そうだな・・・宮代、わかるか?」


 急にあてられた宮代央太が教壇の方を見る。

 少しだけ考えたふりをしてから口を開いた。


「自国で無理なら・・・外に資源を求めると思います。他国に助けてもらったり、自然に作物のある場所に行ったり」

「ああ、正解だ」


 央太はなんかこのやりとりどこかでやった気がする・・・あの時は相手が金髪生徒だったが、と思いながら再び教科書に視線を落とした。


「他国との交流が薄かった鷹丸国は助けを求める相手がいなかった。だから自然に作物のある場所・・・みんなも言ったことがあるかもしれないが、海や山に資源回収班を送ったんだ」


 教師は話を続ける。

 質問形式にしたおかげで、あてられるかもしれないという緊張感を持たせ、生徒が少しは集中するんじゃないか、というこの試みはどうやら成功したようで最初より多くの人がこちらに集中している。


「しかし、それらの自然資源区域・・・海や山を利用していたのはもちろん鷹丸国だけではない。近くの国でいえばリィンベール国、獣人種の住むミドウの里。そして半水獣種が住む水の国、オーラティア地下国。ここらへんがそれらの自然資源区域を使用していた」


 新任教師はそして、と一度区切る。


「他の国も生きるためにはそれらの海や山が必要だったんだ。そうなると戦争が起こってしまうのも必然的だろう。この小さな地域の資源を求めて最初の戦争が起こった。とはいっても最初の方はやはり国として大きいリィンベール国の一方的な攻撃だったんだけどな」


 そこまで話し終えると生徒の1人が手を挙げた。

 肩までのショートカットで前髪をピンでとめている小柄な女子生徒。央太は一度そちらを見るも、名前は分からなかった。

 その女子生徒が元気に言う。


「質問してもいいですか!」

「どうぞ、納谷なや


 納谷と呼ばれた生徒はその場に律儀に立ち上がり、質問内容を述べた。


「えっと、他の国ってどうだったんですか?歴史の授業でリィンベール国がとんでもなく強くて、鷹丸国なんかは圧倒されていたって聞いたんですけど」

「なるほど、いい質問だ。他の国も同じさ、リィンベール国にかなり圧倒されていた。ミドウの里は鷹丸国と同じかそれより小さい国であるし、オーラティア地下国はそもそも戦争慣れしていなかった。まあ、地下にあるオーラティアにまで攻めるリィンベールもリィンベールだが」


 教師は立ちあがり黒板にミドウ、オーラティア、そしてリィンベールと書いていく。

 その下にそれぞれの国の特徴を記していった。箇条書きで書かれると教科書などのそれより分かりやすく見える。

 教師は再びこちらを向いた。


「まず、ミドウの里には獣人種がいる。ここが一番重要だな。みんなも一回は見た事があると思うが、頭に獣耳、そして腰より下のあたりに獣の尾を生やしている種族のことだ。それがまた驚異的な身体能力で人間が生身で勝てる相手ではない」


 ここ、鷹丸国には娯楽として何年かに1回だけスポーツの祭典が行われる。様々な種目で様々な選手がこの国1位を目指すのだが、獣人種の参加はかなり制限されていると聞く。

 それだけ圧倒的なのだろう。上位陣は鷹丸国に住む獣人種やそのハーフなどによって総なめされることが予測できる。


「とはいえ、ミドウの里は技術進歩が遅い。武器だって一昔前の・・・それでも当たったら致命傷ではあるが、まだ感情性武器は導入されていないと聞く」


 そもそもミドウの里は自衛にあまり興味がないらしく、軍というものすらあるか疑わしいという。一応公にされている情報ではそんなものはないとされているが、もしかしたら裏では軍みたいな組織があってもおかしくはないと思われているのだそうだ。


「それよりも当時厄介だったのはオーラティアだ。海の近くにある国で地下にある国。住民は半水獣種がほとんどだ。そこに攻め込んだリィンベールも恐ろしいところだが、地下にあるその国を陥落することができなかった。当時のリィンベールの技術を持ってしても」


 その話を聞いていた少しやんちゃそうな男子生徒が手を挙げる。

 坊主頭が目立つ彼を見て教師が「はい、見岡」と名前を呼んだ。見岡と呼ばれた生徒は立ちあがることなくそのまま質問を述べた。


「リィンベール国の技術ってどんな感じだったんですか?なんか歴史の授業とかでもとにかくすごいって言われてますけど」

「そうだな、それを詳しく説明することは難しいが・・・」


 そう言って教師は少しだけ考え込む仕草をとる。

 どう言えば生徒たちが一番納得できるのかを考えているようだった。しばらくして口を開く。


「感情性武器を一番最初に完成させたのがリィンベールだと言えばわかりやすいだろうか」


 そのセリフを聞いて教室中がざわついた。

 今まで興味なさそうに話を聞いていた者や、こういう形式になっても上の空で窓の外を見ていた者など全員が前を向いたのだ。

 仲がいいのか悪いのかは分からないが、隣に座っている生徒と「感情性武器が・・・」「すごいね」「発祥はリィンベールだったのか」などと話している生徒も見受けられる。


 実は感情性武器とは何か、というものは触りだけ高等学校などで基礎的に教えられるのだが、軍学校に入らなければその詳しいことは知る必要がないためその全容を知っている人物は少ない。

 歴史学としてこれから習う範囲ではあるものの、ひとまず興味を持たせるために教師はその話題を持ち出したのだ。


「その当時はまだ導入されていなかったらしいが、それでも技術は他の国と比べるととんでもなく上だ。・・・・っとそういえばオーラティアの話だったな」


 再び、オーラティア地下国の話に戻す。

 そこに住む亜人、半水獣種についてだ。国の場所自体、海の近く・・・いや、海の下とまで言われている地下にある国ということから分かるようにそこに住む者も普通の人間ではない。


「半水獣種は海の下に住むオーラティア国の人間がその生活に順応するために進化した姿と言われている。どうやら長い間海の中で呼吸をするためにエラ呼吸に似た皮膚呼吸を取得した種族なんだそうだ。そもそもそんな地下で暮らしていたからどこかの国に攻め入られることもなかったオーラティアは戦闘面でいえば弱い」


 教師は言い切った。

 しかしその言葉に数人の生徒が小首をかしげる。そう、先ほど教師は言ったではないか。『リィンベールの技術をもってしても陥落することができなかった』と。

 生徒はその言葉を聞き、とんでもなく強い国だと予想していたのだ。


 その視線を受けて、教師は軽く頷く。

 もうすでに昼過ぎではあるものの、まだ日は高い。軍学校は夏でも外が暗くなるまで授業があるので生徒たちは時計だけでなく外の様子で終わりが近いか判断していたりする。


「オーラティアは確かに弱い。普段広い陸地に出ることもほとんどないから陸地戦は国という規模とは思えないほど弱い。だが、オーラティアには海中戦がある」


 聞き慣れない言葉だった。

 海上戦という船で行われる戦闘は聞いたことがあるし、歴史学の教科書で見た事もある。しかし海中。海の上ではなく、海の中で行われるその戦闘方式はいったいどのような戦い方なのか。


「そうだな・・・自由ヶ丘じゆうがおか

「・・・・え・・・・」


 教師に名前を呼ばれた生徒は伸ばしきった髪の毛を無理やりツインテールにしたような髪型で小さなカチューシャもしている。背が低く、体型は少し太めだ。皆が割と授業を聞くようになったというのにその女生徒はそれでも半分寝ているような雰囲気だった。

 今も当てられてなんのことか分からないような顔をしている。


 その様子を見て教師は軽くため息をつき、「今から質問するからそれに答えてくれ」と軽い状況説明をした。女生徒は分かっているのか分かっていないのか眠そうな目をしたまま小さく頷く。


「オーラティア国の海中戦とはどのようなものだと思う?」

「・・・・・・・・・・お、おーらてぃあってなんでしょ?」


 頭をかりかりかきながら、そう言う自由ヶ丘。

 一瞬教室が静まりかえったが、その答えが返って来ることを教師はある程度予想していたのか特に衝撃を受けた様子もなく、話を続ける。


「分かった。自由ヶ丘は後で補修だな」

「なんと・・・!」


 驚愕したのは自由ヶ丘の方だった。

 これで彼女はいつもより遅く帰ることが決定してしまった。自由ヶ丘はそのまま頭を抱えながらもまた眠そうな目をしながら前を向く。

 他の生徒も先ほどの質問の答えを待っているのだろう。


「海中戦とはそのままだ。海の中で戦う事。特に半水獣種は海の中でもしばらくは呼吸をすることができる。当時リィンベールは潜水艦に似た戦艦などで戦ったらしいが、やはり海の中ではオーラティアの方が強かった。なんの戦略もなく、ただ向かってくる半水獣種に何もできなかったそうだ」


 その説明を聞いて「なるほど」と生徒が頷いていたところ、元気そうな印象を持つ納谷がまた手を挙げた。教師も「納谷」と名前を呼び、あてた。

 納谷という生徒はこのⅦ組の中でもかなり真面目な部類らしい。


「あの・・・海中って武器が使えるんですか?潜水艦から水中魚雷なら分かるんですけど、戦い慣れしていないオーラティア住民が生身のままでそれを扱えるとは思えないんですが」

「その疑問は最もだ。潜水艦の装備も当時のものはまだよく分かっていないらしいんだが、オーラティアは海の下にある国だからそれ相応の水中用武器を用意していてもおかしくはない。ただ・・・相手の潜水艦を倒せる武器はなかなか難しいだろう」


 教師は一度区切り、そしてこう述べた。


「オーラティアには感情性武器の前身になったものがあったのではないか、と言われている」


 まだ出た感情性武器という単語に教室はざわつき始めた。

 「あれでもリィンベール国が作ったんじゃ」「でもオーラティアに前身が?」「それってどういうことだろう」口ぐちに小声で話し始める。


「完成させたのはリィンベールであるし、この世界全体に感情性武器について公開したときは理にかなった説明をしていたため、作製したのもリィンベールで間違いない。だが、その元となったものはどこにあったのか、それは不明だ。不明というより誰も知ろうとしない、という感じかな」


 そう述べたのだ。

 今のは鷹丸国が現在考えている推測のようなもので実際はどうなのかが分からない。今は感情性武器というものが出回ってしまっているし、戦争の機会だってない。

 オーラティアに話を聞こうにも海の下にある国に行くのはなかなか骨が折れる。その上そのまま素直に話してくれるわけでもないだろう。


 オーラティアはその立地条件からかとても閉塞的な国で外の人物には厳しいらしい。

 その秘密を聞こうと鷹丸国の記者はわざわざ厳しい審査を潜り抜け、オーラティアに行ったらしいのだが何も収穫はなかったらしい。


「知ったところですでに完成された感情性武器は出回っている。それに完成させたのはリィンベールであることに変わりはない。その元を探りたいと思う者など研究熱心な学者ぐらいしかいないだろう」


 リィンベールによる、感情性武器の説明により危険なものではないというのが分かっただけで鷹丸国のほとんどの人間はその真実を知ろうとはしなかった。

 今現在ある便利な冷蔵庫などの機器も誰が最初に発明したのか知っているものは少数で、昔からその安全性が保障されているのならそれでいい、という者ばかりのはずだ。


「というわけで結局はその話も感情性武器の話になってしまったが・・・ちょうどいい時間だな」


 教師が自分の腕時計に目を向けると授業終了5分前になっていた。

 教師は立ちあがり、そして生徒を見渡す。


「次の時間はお待ちかねの初感情性武器の授業だ。5分前だが、運動着に着替えてグラウンドに集合。今から準備してくれ」




少しずつですが書きたかったものが書けています。


まだまだ説明が多いですが、どうかよろしくお願いします。

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