プロローグ
我輩は猫である。
そんな書き出しは、知らない人がいないくらいに有名だろう。
たまたま雑貨店の主人が、あまりに客が来ないものだからと暇を持て余して広げた本に書かれていたのが、僕がこの冒頭を知ることになったきっかけだ。
そんなことは置いておくとして。この雑貨店、どうにも奇妙なのである。
来るお客さんは老若男女。賑わうわけでもなく、それでもなんとかやっていける程度には来客がある。
そして揃って彼らは主人に様々なものを求める。ここは百貨店かなにかか、と錯覚するような数の要求を今まで聞いてきた。
彼らの欲しいものを全部この主人は売ってくれる。金さえ払えば何だって、だ。
些細な常用品から、聞いたことも見たこともないものまで。
そうだなあ、最近売った珍しいものは天女の涙だっただろうか。飴のようなそれは、透き通っていて光によって薄く虹色に輝くとても綺麗なものだった。
そんな本に出てくるような、実在しないだろうものにあふれたこの雑貨店を、人は「猫ノ瞳雑貨店」と呼ぶ。
由来はここの看板猫。それがとっても綺麗な色の瞳をしているからだそうだ。
「このこは売り物じゃありません」
そう言って主人は困ったように笑ってる。看板猫が大好きなのだ。そして看板猫も主人のことが大好きだった。
一人と一匹、今日も招かれた客の望むものを売り、人の願いを叶える仕事をする。
語り手の僕は誰だって?
我輩は猫である。
名前は、沢山あるけれど。