1話
ここは湘辻高校。
湘南海岸の近場にある高校だ。
そんな高校の屋上で一人の少年が気持ちよさそうに寝息をたてている。
「やっぱりここにいたか」
屋上のドアが開かれる音と共に少し間の抜けた声が屋上に静かに広がる。
「ふぁ…」
「その調子だとまだお眠かい?不良と名高い十六夜顎くん」
「なんかムカツク言い方だな。まぁ、眠いのは間違えない。このまま、朝まで昼寝を続けたいぐらいだからな」
「それは困る。君はこの戌井誠也に恥をかかせるきかい?」
「………」
もうそれは昼寝じゃないだろというツッコミを待っていた分、無視されたのは少し気にくわない。
「俺が寝ることで、お前がかく恥じなんてあるのか?」
答えは分かりきっていたかが、一応聞いといた。もしこれで誠也が何もないというなら昼寝を続けたかった
。
「かく恥じなんてそこら中に転がってるよ。まぁ、そんな話はどうでもいい。本題にもどるとしよう。君のことを三熊先生が探してたよ」
三熊とは顎と誠也のクラス担任で、字は態を示すというように熊のようながたいをした四十代後半の男だ。
「三熊本人が来ればいいだろう。何故にお前が俺を呼びに来た」
「探す手間と次の授業の準備があるからね。そんな忙しい先生の代わりとして、僕に白羽の矢が立ったわけだ」
教師が生徒を探すのを手間とまで言うとはさすがというしかないと顎は呆れる半面、少しだけの敬いを三熊にもった。
「当たり前と言えば当たり前ではないかな」
「こんな平凡な学生を捕まえて何を言う」
「そんなさもあたりまえのような態度を平然ととれるのだから君は凄いよ。尊敬してもいいね。ちなみに今が何時かわかるかい?」
「正式な時間はわからんが、大体12時前後だろ」
「そうだ。で、もう一つ質問だ。君はここに何時からいた」
「朝だ。確か七時ぐらいだったな。清掃のおじさんを手伝ってからここに来た」
「つまり、君は午前中の授業をすべてサボったわけだ。これで平凡だとは中々言えないだろう」
それはわかっている。今がお昼時の休憩時間であり、自分が許可なく授業をサボったことも重々承知だ。たが、顎にも言い分はある。
「1限の羽山教授にはすでに自分の好きにしていい許可はもらっている。さらに2時限目の鬼怒川の野郎は俺が嫌いだからな。俺が気をつかったんだ。誉められるにしろ怒られるいわれはない」
堂々と自見を広げる顎だが、それを丸で幼児の戯れ言を聞くような優しい笑顔を誠也はうかべていた。
「なんだ、その顔は。馬鹿にしてるのか」
「馬鹿になんてしてないよ。君を馬鹿に出来るほど僕は頭が言い訳ではないからね。しかし、顎。理由があったとしてもだよ。それを僕にいうのはお門違いじゃないかな?それはそれ、これはこれってやつだよ。君に考えがあって授業に欠席したとしても、三熊先生の呼び出しを無視する理由にはならない。それこそ、おもちゃをねだる子供の駄々と大差ないと思うけど」
確かにそのとおりだ。返す言葉はない。
「俺はお前のそう言う所がだいっ嫌いだ」
「僕もあんまり好いてはないよ」
「だが、それも含めお前が俺の友人で良かった」
「顎……よせよ。気持ち悪い。僕にそっちの気はない。そもそも、僕らは友人だったのかい?」
「酷い言われようだな!!終いには泣くぞ」
「あはは。嘘だよ嘘。友人でも無かったら大事な昼休みを君を探すために割いたりはしないさ」
「……じゃあ、行ってくる」
「ああ。存分に搾られてくるといいよ」
「うっせぇ」
顎は友人とのそんなくだらないやり取りを笑顔で終えて、職員室へとむかうのだった。