小夜物語 tales of small night 第8話 避病院の思い出。 memoire of Quarantine hospital
第8話ここに始まる、、、。
避病院の思い出。 memoire of Quarantine hospital
私の家は、江戸時代惣代名主をしていたと父がよく言っていましたが、昭和30年代の我が家は零落して、元の屋敷田畑も人手に渡り唯一残っていた、村はずれの当時もまだ開墾地と呼ばれていた、農小屋を改造して住んでいました。父は都会に出稼ぎに、、。母が唯一残った四反部の畑で野菜・麦・ナス・キュウリ・とうもろこし・大豆などを作って生活の足しにしていました。
開墾地というくらいですから、雑木林がうっそうと繁り当時ですら狐や狸が昼間から歩き回っているという状態でした。
また、水の便が悪くて、井戸を掘っても中々でないという土地で、勿論水路や湧き水もなくて稲作が出来ないのでした。
で、長く耕作されずに放置され昭和三〇年代になっても、開墾地と俗称されていたのです。
その私の家の雑木林の向こうに避病院がありました。昭和三〇年代にもまだ敷地500坪、建物は洋風の病院づくりで、真っ白なペンキで塗られて、こんな開墾地には全くそぐわない威容を誇った建物でした。
病棟がコの字型に作られて、病室も15部屋くらいあったでしょう。遠くからもその姿は異様でしたね。
何しろこんな村はずれの雑木林の中にアンナ立派な建物です。目立ちすぎです。
私の少年時には既にそこは避病院としては使っておらずに、市営住宅?というか、3家族ほどがアパート代わりに住んでいました。その3家族とも、よそ者でした。つまり地元の人ではありませんでした。
1家族は他県の人の一家で、営林署だかに転勤になってこの地方に来てココをあてがわれたようでした。もう2家族は何をしていた方だかは少年の私には分かりませんでした。
さてところで、避病院とは明治時代に伝染病隔離病舎として各地に作られたもので、やがて専門病院の隔離棟が充実する過程で昭和に入ると廃止されたところが多かったという。
そしてコレラチフスなどの患者を収容するのであるから、各地方とも、すごい村はずれや人里はなれたところに作られたという。いわば迷惑施設だったわけである。
平成11年までこの避病院という呼称は法律的には残っていたようですね。
要するにこういう施設ですから、あそこに入ったら生きては帰れないとか、昭和に入って空き家になってからも、お化けが出るとか言われたようですね。
戦後は復員者の臨時住宅などにも使われたようです。
昭和30年当時まだ私の家の近くの避病院はその威容を誇っていました。
そして3家族が住んでいました。その一軒の夫婦の奥さんは、何でも読書好きで私の家に良く来ては
『オール読み物」などの雑誌を借りていきましたね。父が都会で買ってきて帰省するたび置いてったので、小屋にはそれこそ100冊もあったでしょうか。
父は本好きで退職後は俳句を生きがいにした人ですから、本はたくさんありましたね。
さてその奥さんを妙に私は良く覚えてます。
小柄で、顔立ちもまああまあ、今思えば、、ちょっと、田舎のスナックのママと言ったかんじ、
一体何をしていてこんな避病院へもぐりこんだのでしょうか?
私には謎です。後日、母から聞いたところによると、浮気したとかで夫婦別れして出て行ってしまったようです。
避病院ですからあまり良いイメージはなかったですね。良く遊びに行きましたが。そのころでも空き部屋には、クレゾール石鹸液の空き瓶や、琺瑯の洗面器、などが置きぱなしになっていましたね。
部屋の作りはまさに病室です。今、良く、廃墟探検なんていうサイトがありますが、まさに廃病院ですね。
雰囲気は異様で怖いです。白いペンキもはげて、ドアも昔の病院ぽいです。
私の実家の近所のその避病院は
昭和40年代には完全に空き家と化して
建物は荒れるに任せて、放置されていましたが、
その後昭和60年ころくらいに取り壊されて空き地になっていましたが、その後、なんと父に市から手紙が来てあの土地の半分が父の名義なのでこのたび学童保育所を作るので市に寄付してくれまいか?というのである。
そのころからこんな田舎の開墾地にも住宅開発が進み
郊外型住宅地として家が建ち始めていたんですね。
父も気がよいので250坪ぽんと市に寄付してしまいました。
その話をあとから父に聞いた私は、絶句してしまいました。
250坪が父名義だったなんてまたくしらなかったのです。
知っていたら思いとどめさせたのにと悔しがりましたがもう、書き換えもすんで後の祭りでしたね。
そんなことで今、避病院の跡地は学童保育所が出来て子ども達が遊んでいます。
そうして
あの開墾地と呼ばれた雑木林の私の出生地も今はすっかり
雑木林も消えて整地されアパートや住宅が立て並んでいるとは
こんな村はずれまでも住宅化しているとは
時代の激変に
驚きですね。
fin
㊟この物語はフィクションです。
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