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あっちに行きな! こっちに来るな!  作者: 河海豚
第一章 不思議な少女
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魂の導き手

 ……あれ? 何も起きない?

 時間が経っても、ドスで切られた感触がない。それ以前に触れられた感触すらなかった。

 俺は恐る恐る目を開けた。目の前には、まだ着物姿の少女がいる。しかし、先程とは右手の位置が違っていた。まるで振り抜いた後のように、右手でドスを上に掲げていた。二人は信じられないものを見た、というような表情で俺の顔を見ていた。

「お前、本当に人間なのか? 霊ではなく?」

「ねえ、ほら。賭けは私の勝ちよ。早く解放してあげて」

「はいはい」と、適当な返事をして、金髪の少女は鎖を引っ張る強さを弱めた。音もたてず、地面に鎖が落ちる。手や足をぶらぶらと動かしてみた。手足の感覚が元に戻ったようである。

「お前ら本当になんなんだよ。さっきのドスは? 鎖は? どうして斬ろうとした? それに賭けってなんのことだよ」

「一度にたくさん訊くなよ。質問ばかりの鬱陶しい男は嫌われるぞ」

「別に、お前には訊いてないよ」

 そうだ。着物の方に訊いている。金髪の方には訊いてない。

「んだと。もう一度シメてやろうか?」

「はいはい、そこまでそこまで。全然話が進まないでしょう?」

「でもさあ、こいつ……」

「雪那ちゃん。少し黙っててね」

 着物姿の少女はドスの切っ先を金髪の少女に向けた。それも笑顔で。

「さてと。じゃあ、君の質問に答えていこうか」

 俺の方に向き直った。次は真面目な表情である。だが、右手にはドスを持っていた。できれば視界に入れないでほしい。

「まず最初に、私達は何者か、ということだけど、さっき一部始終を見ていたんだよね?」

「なんの?」

「私達が霊に、なにかしようとしていたところ」

「ああ、あの男の幽霊のことか。そういえばあの幽霊はどこに行った?」

「それを見てなにを思いました?」

 質問は無視か。

「えーと、どうして人間が幽霊に触れるのか、とは思ったけど。まあ、俺自身見ることができるわけだから、幽霊を見て触れることのできる人間がいてもおかしくはないか」

「普通の人はそういう風に考えないと思うんだけど……。まあ、そんなことより、その前提から、君の考えていることは間違っていますよ」

「フフフ」と、小さく笑った。

 何がおかしいのかわからない。俺の発言のどこが間違っているのか。

「私達は人間ではなく、君の言う幽霊なんです」

「………………ええ!?」

 着物姿の少女の口から衝撃的な発言が飛び出してきた。

 二人の姿をもう一度確認する。輪郭ははっきりしていて、俺が思う幽霊らしき特徴はない。しかし、着物姿の少女は自分のことを幽霊だと言った。

「でも、……でも、俺の知っている幽霊とは全然違う。だって幽霊だったら足がないはずだし。触れないはずだ。それはどういうことなんだ?」

「うーん。それはたぶん、私達には器があるからだと思います」

「うつわ?」

「そう、器です。魂を留めておくための。まあ、私達は擬似霊媒と呼んでいますが。ようは半人半霊? になるといったところですね。もちろん普通の人間には見えませんが。でも、それで普通の霊とは違うように見えるのでしょう。あちらは魂だけの存在ですから」

 わけがわからない。

「どうして、お前らはそんなものを使っているんだ」

「おいおい、来奈。こいつ理解できてないようだぞ。ていうか来奈の説明はなんか回りくどくてメンドくさいんだって。率直に言ってやろうよ、私達が『魂の導き手』だって」

 しばらく黙っていた金髪の少女が、口を開いた。

「魂の導き手?」


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