友達になってくれますか?
ちさが消えてしまった後、俺と神谷は近くの公園にいた。ここが神谷とちさが初めて会ったところらしい。雪那と来奈は、今はいない。報告書を届けるとは言っていたが。とすると、この世にはいないのだろう。ということは、報告書を届けるのは来奈だけだろう。雪那は俺からあまり離れることができず、この世に留まっているという話を以前していた。だとすると、雪那は何をしているのだろうか。
「私の初めての友達だったんです、ちいちゃんは。内気だった、こんな私に声を掛けてくれたて、初めて友達になってくれた子なんです」
ベンチに座って、神谷は話していた。その手には、マグカップが握られている。
「小学生の時にこっちに越してきて、ある日、私が公園で一人で遊んでいた時にちいちゃんが声を掛けてくれたんです。『一緒に遊ぼう』って。……楽しかった。でも、あんなことがあって」
神谷は顔に影を作って続けた。
「私、その時怖かったんです。当たり前ですよね。まだ小さかったから。でも、あの時思ったんです。ちいちゃんは私と仲良くしたから死んじゃったんだ、って。それからは私、徹底的に拒絶したんです。誰が話しかけても無視をして。中学に上がってからは、あまり深入りしないような友達を作って。……ううん。友達って呼べるものじゃないかな」
「ハハハ」と、乾いたような笑い声をあげた。
これには、俺も同意せざるを得ないかもしれない。今の俺の状態だって同じだ。「友達」、と呼べる人は思い浮かべるだけで、優実花とユートしか見当たらない。確かに。確実に。神谷は俺の鏡のようなものに思えた。だが、
「でも、輿水君が私に立ち直る機会を作ってくれた。それだけは嬉しいかな、って思っていることは確かなの」
「そういえば、お礼を言うのがまだだったね。ありがとうね。輿水君」と、深々と頭を下げた。
俺と神谷には、決定的に違うものがあった。それは乗り越える強さがあったかどうか。俺はいまだに怖気づいている。今のままでは、文香に会えないような気がする。いや、会う勇気がないだけか。
「俺は何もしてないよ。偶然、ちさちゃんの幽霊を見つけただけ。はっきり言って神谷達の状況を引っ掻き回したようなものだし。結果的にはうまくいったかもしれないけど、神谷を傷つけたようなことも言ったし」
「わかってんじゃねえか、和志」
雪那と来奈がいつのまにか戻ってきていた。雪那は明らかに不機嫌な顔を露骨に見せて。それを離れたところで見ている来奈は、いつも通りに呆れた表情で。
「どうしたの、輿水君? いきなり空なんか見て」
「いや、なんでもない。それより、明日は学校どうする? って、明日は休みか」
「聞けよ」と、雪那はふてくされていたが、今は無視だ。
「学校は月曜日から行くよ、必ず。それでね、輿水君。あんなひどいこと言って虫が悪いって思っているかもしれないけど、と、とと……」
一回沈黙して、息を整えると俺に向き直った。
「私と友達になってくれますか?」
「どうして?」
「思ったんです、私。このままじゃあ、いけないって。今までの私はたぶん、ううん、絶対にちいちゃんのことで引きずっていました。でも、だめなんです。いつまでも引きずっていたら、せっかく旅立ったちいちゃんが心配して戻ってきちゃうかもしれない。そう思って。それに、輿水君、なぜか知らないけど、一生懸命に私とちいちゃんのこと考えてくれたんでしょう? そんな君と、普通に仲良くなりたいって思った、っていうこともあるから。……こんな風に思ったの、久しぶりだから、ちょっと、あの、緊張しちゃって」
神谷はソワソワしたような仕草を見せる。見るからに顔を赤くして目は泳いでいた。