再びの
いや、実際のところ、完全に抱き着いているわけではない。抱き着いているように見えるだけだ。雪那と来奈に最初に会った時の、あの男の幽霊と俺の状況と同じである。そして、次には信じられないことが起こった。
「えっ……? イヤ……、そんな、ことって……」
「カサリ」といった音とともに、何かが落ちる音。見ると、神谷の持っていたビニール袋が落ちていた。
いったい、何がどうした?
神谷は青ざめた表情になって下を向き、後退りした。従って、後ろにいたちさの身体を通過していく様に、俺の目には見えた。空を切るちさの両腕。ちさは落胆したような表情を見せた。
「いる、わけがない……。いや……。イヤーーーッ!!!」
悲鳴。発狂した、と言っても過言ではないほどの声だった。今まで聞いたことのない悲鳴。ダムが決壊して濁流が流れるような感じのする悲鳴。
つんざく叫び声のまま、道路に飛び出す。おそらく、神谷は周りが見えていなかったのだろう。躓いたのか、飛び出した直後に道路の真ん中で転んでしまった。しかし、そう思った俺でさえも、この時周りが見えなかった。
「オイ、和志! あれ見ろ!」
長い間静観していた雪那と来奈の二人だったが、雪那のほうが唐突に声を上げた。それから俺の背中をはたき、隣であるものを指差す。
一台の大型トラック。俺はそれに気づいた。神谷が進行方向にいるというのに、そのトラックはスピードを一向に緩める気配のない。
「あの運転手、居眠り運転だぞ!」
「クソッ!」
俺は神谷を助けるため、道路に飛び出そうとした。だが、
「オイ、バカ! やめろ、和志! もう間に合わねえ! そこで出たら、最悪お前も死ぬぞ!」
雪那は俺を羽交い絞めにした。こうなれば、もう動けない。どれだけの力を入れようとも、もがこうとも、俺の身体はその場から前に進まない。
このままいくと、神谷は……。
頭の中に不吉なビジョンが思い浮かんだ。文香のことが瞬間的にフラッシュバックする。神谷の姿が文香と重なった。
「神谷!!」
喉が引きちぎれてしまってもいい。動いてくれ。早く逃げてくれ。もう誰かが傷つくのはたくさんだ。俺の目の前で誰かが轢かれるのは。
だが、どれだけ叫んでも神谷はその場から動こうとはしない。足がすくんで動けないのかもしれない。
だが、もう俺が行ったところで間に合わない。俺の目の前で、神谷は死ぬのか?
「瞳ちゃん……。ひいちゃん!」
ちさの叫び声。それと同時に、「バキッ!」という、何かが折れるような音を聞いた後、何かが横切った。