私の記憶④
誕生日会当日。
私はややスキップ気味に意気揚々と、いつもの公園へ向かっていた。
こんなに高揚したことが今までなかったから、鼻歌交じりであったと思う。こんな姿をクラスメイトに見られていたらどうしよう、とか考えることもなかった。
公園に近づくと、入り口のブロックに座っているちいちゃんの姿が見えてきた。オレンジ色と言ったらちいちゃんが「みかん色!」と怒っていたのでみかん色のヘアゴムで縛っている。それと、みかん色のショルダーバッグ。いつものちいちゃんだ。
「ちいちゃん!」
公園の前の道路。そこを渡る前に、私は名前を呼んだ。それに気づいたちいちゃんは立って、私の方に振り返る。
「あっ、ひいちゃん!」
そこには、いつも通りの笑顔があった。だが、すぐさま驚いた表情に変わる。
「危ない!!」
その道路は見通しが悪く、一年に一度は事故が発生する危険な交差点であった。私も遊んでいた時、ちいちゃん達にそのことを教えてもらっていたはずであった。でも、私はその時、忘れてしまっていた。
私は、いつの間にか道路に飛び出していて、すぐ近くに、大型の自動車が迫っていた。
車にぶつかる。そう思った時、それとは違う何かがぶつかった。
「えっ?」
私に当たってきたのは、ちいちゃんだった。私が道路から離れるように、ちいちゃんが私の身体に抱き着くようにぶつかっていた。
私達はまだ子供で、力が十分でない。足も遅い。ちいちゃんが大人だったら、私と二人で助かっていたかもしれない。
つまり、ちいちゃんに押されたが、私を道路から離すには十分でなかった。それに加えて、ちいちゃんは自動車の進行方向上にいた。
「危ない!」
私は手を伸ばした。
自動車のクラクション、ブレーキの音が聞こえた。でも、私にはちいちゃんの姿しか見えなかった。
手を伸ばして掴もうとした次の瞬間、横から大きな衝撃を受けた。
飛ばされる。私がそう思った時には、もう既に宙に浮いていた。ちいちゃんの姿が見えなくなっていた。
宙に浮いていた時間は数秒だっただろう。着地の瞬間、私は両脚から地面につき、その後意識を失った。
私が目を覚ましたのは、その日の夜であった。場所は病院である。地面には足からついたため、両脚の骨を折る大けがをしており、既に両方ともギプスを着けていた。
「よかった。よかった……」
目を覚ました時、私の母は泣いていた。ベッドで目を覚ました私の頭を撫でてくれた。私はその間、何が起こっていたのかを必死に考えた。そして、ある言葉を発した。
「……ちい、ちゃんは?」
私が発した言葉はその一言であった。頭を撫でていた手は止まり、母は顔を伏せた。
「ねえ、お母さん……」
母は私に言った。
ちいちゃん――狛井智沙ちゃんが亡くなったということ。車に撥ねられて、頭を地面で強く打って。私を助けて。
私を助けなければ、ちいちゃんは死ななかった。私が飛び出さなければ、ちいちゃんは死ななかった。私が誕生日だって言わなければ。ちいちゃんは死ななかった。
私と友達にならなければ、ちいちゃんは死ななかった。