異様な光景
俺は私立「月嶺高校」に通っている。この辺りでは、成績的にはまあまあそれなりに良い方で、近辺の中学生に人気のある進学校だ。俺自身も受験する時は、苦労したものである。確か、俺が受験した年が、今までで一番倍率が高かったそうだ。とまあ、今となっては懐かしい話である。
そんな高校への通学路を俺は歩いていた。
「あ、そういえば弁当」
肝心なことを忘れていた。だが、戻っている余裕はなさそうだ。俺は気分を変えるため、いつもと違う道を通っており、家に戻っていると確実に遅刻だ。そのうえ、母さんを怒らせたままであるため、帰って自ら気まずい空気の中には入りたくない。しかし、もうひとつ理由がある。
「それに、優実花には会いたくないしなあ」
俺は肩を落とした。
優美花とは、隣の家に住んでいる宇田川優実花のことである。さっき、母さんの言った「ユミちゃん」というのも彼女のことだ。幼稚園から高校までずっと同じの、いわゆる幼馴染というやつである。
特徴としては、良く言えば活発。悪く言えば馬鹿にテンションが高いというだけだ。その極みで人の話を聞かない。朝起きた瞬間から夜寝る寸前まで同じテンションを保っていると言っても過言ではない。
俺の今の状態であったら、確実に会いたくない相手だ。たぶん頭痛がひどくなる。
「まあ、お金も少しはあるし。購買で買おうか」
財布の中身が寂しくなることを予感しながら、そのまま歩き始めた。
しばらく住宅街の道を進む。まだ早い時間帯のためか、周りには誰もいない。そう思っていたが、しかし、異様な光景が視界の隅に映った。俺は立ち止まって、とっさにその方向に目を向けた。
「なんだ、あれは」
……何て説明すればいいだろうか。とりあえず見たままに説明してみようと思う。
進んで二つ目の、右への曲がり角に三人の人間がいた。一人目は長袖のワイシャツを肘の辺りまで捲り、紺色の短いスカートを履いた背の高い少女。なによりも目がいくのは、艶やかなロングの金髪である。遠目ではあるが背格好を見るに、学生のように見え、俺と同じくらいの年齢だろう。
二人目はスーツ姿の眼鏡を掛けた痩せた中年の男。怯えた表情をしている。というか、金髪の少女に襟を掴まれ、ブロック塀に抑えつけられていた。この二人では、どう見ても白昼堂々カツアゲをしているシチュエーションにしか見えないが、その後ろで眺めているもう一人の存在でシュールさが増している。
もう一人は、見た目が十二、三歳くらいの少女。この状況には似合わない着物を着ていた。着物は薄い橙色を基調に、暖色系の模様が散りばめられているもの。そして、少女自身その着物に合う黒い髪をし、それは肩の辺りできれいに切りそろえられていた。日本人形のようだと言えばわかると思う。
「オッサン! こっちとしては力ずくでもいいんだよ! でも、それだとオッサンが可哀想だから待ってやったってのにさあ。この期に及んで、未練たらたら残してんじゃねえよ! ほら、来奈も何か言ってやれって!」
金髪の少女は着物姿の少女に言ったようだ。着物姿の少女は来奈という名前らしい。着物姿の少女は一歩前に出た。
「雪那ちゃん。そんな言い方してはいけませんよ。亡くなった人にはいろいろな事情があるから、心を持って接してあげないといけませんからね。私達は死神ではないんですし、死者をちゃんと尊いてあげないと」
着物姿の少女はその外見から想像もできない程に大人びた声をしていた。
「でもさあ」と、金髪の少女は反論する。こちらは雪那というらしい。
その時、不審な点に気づいた。二人の少女がそれぞれ「未練」、「亡くなった人」、「死者」と言ったところである。俺は注意深く三人を見てみた。少女二人に対しては何も問題はないと思うが、中年の男は、その二人とどこか違っていた。というより、俺の経験から見て、その男は……
――その男は幽霊だった。