私の記憶③
そして、しばらくして私の誕生日の日まではいつもと同じように、学校ではほとんど誰とも話さないで過ごし、帰りのあいさつの後、誰よりも早く学校を出て家路につく。そして、ランドセルを置くと、すぐにちいちゃん達と待ち合わせた公園へと行く、という毎日であった。本当に毎日というわけではなかったが、雨の日などを除けばほとんど毎日と言っていいほど、私はちいちゃんと会って遊んでいた。もちろん、クラスメイトに馬鹿にされないように、宿題を忘れることはなかったが。
「来週の日曜日、ひいちゃんが誕生日なんだって」
ちいちゃんに私の誕生日のことを話した次の週のある日、みんなでドッヂボールをしていると、ちいちゃんが話し始めた。
「えっ、そうなの?」
「あたし、予定があったんだけど、お母さんに話してみるね」
「ちぇっ、残念。行けないや……、プレゼントだけ渡すね」
と、ちいちゃんの友達は口々に話し始める。
「えっと、あの、私」
私がしどろもどろになっていると、
「隙あり」
ちいちゃんが外野からボールを投げつけてきて、私は当たってしまった。
「みんな、来てくれるの?」
ドッヂボールを終えて休憩をしている時、私は言った。すると、その場にいた皆は笑い出した。
「当たり前じゃん」
「ひいちゃんは私達の友達だし」
「あたしもひいちゃんの家に行ってみたいなあ」
ちいちゃんの友達は笑いながら言う。私もそれにつられて笑っていた。
そして、次の日曜日。私の誕生日の日となった。この日のことはよく覚えている。
その前日、母親の急な仕事で、私の家での誕生会の開催はできなくなってしまった。約束したのに、と私は母に向かって怒鳴ってしまったが、私を養うための仕事だ。その考えは幼稚であると今は思う。そして、父親のことについて心配しなくてもいいことが、私の心を軽くした。
自分の家での開催ができないとわかった日の夜、私はちいちゃんにそのことを電話した。すると、
『だったら、私の家でやろっか!』
電話越しにでも、ちいちゃんの明るい顔が浮かんできた。
『うーん。でも、ひいちゃんは私の家、知らないよね』
「あっ、そうだった。どうしよう……」
ちいちゃん達と遊ぶときは、いつも外であって、誰かの家に上がったことはない。だから、私たちは互いの家の場所を知らなかった。
『だったら、いつもの公園に集合で。そこにみんなで集まってからひいちゃんの家に行くつもりだったけど、そういえば、私もひいちゃんの家、知らなかったね』
『うっかり、うっかり』と、ちいちゃんは言った。
「ごめんね。急に変わっちゃって。だって、お母さん」
『ううん。お仕事ならしょうがないよ。あっ、だったら、今度はひいちゃんの家で遊ぼうね』
「うん。また明日ね」
―――また明日
たぶん、これが私とちいちゃんの最後の会話だったかもしれない。