私の記憶②
ちいちゃんと出会ってからは、ほぼ毎日と言っていいほど彼女と遊んだ。
これまでの私には考えられないことだった。友達と遊ぶなんてことは。こんなに楽しいと感じることが。
「ねえ、ひいちゃんの誕生日っていつ?」
一年生二学期のある日、いつものように砂場で遊んでいると、ちいちゃんが唐突に尋ねてきた。その日は、いつも遊んでいるメンバーはおらず、二人きりであった。習い事などの予定があったらしい。
「えっと、再来週の日曜日」
「へえー、そうなんだ。私と近いんだね。私はその次の次の週の水曜日だよ」
「ひいちゃんの年が私の年に近づいても、すぐ離しちゃうね」と、ちいちゃんは笑いながら言った。
ちいちゃんは、私より年上で小学三年生であった。それと、隣の校区の小学校に通っている。一緒に遊んだ他の友達も、ちいちゃんと同じ学年、学校に通っていた。
「そうだ!」
ちいちゃんは立ち上がって言った。その拍子に、作っていたお城が崩れてしまったのは残念に思ったが、ちいちゃんの話を聞く。
「お誕生日会しよっか。ひいちゃんの家にも遊びに行ってみたいし」
ニコニコと笑いながら言うちいちゃんであった。
お誕生日会。これも初めてであった。クラス内で、誕生会を開くという話を聞いたことはあったが、私が呼ばれることは一度もなかった。その時は、別に呼ばれなくてもなんともない、と思いはするが、それはただの強がりであり、私は家に帰ってから、「自分が呼ばれたら……」という想像をしたことがないわけではなかった。
「あっ!」と、ちいちゃんは思い出すように言うと、今までの表情とは打って変わって、シュンとした表情となる。
「そうだった。その日は私以外遊べないんだった。どうしよう」
次はオロオロとした様子を見せた。コロコロと変わる、ちいちゃんの表情や様子を見るのは楽しかった。
「いいよ。別に私のはやらなくても。みんないないんでしょ?」
私はちいちゃんの提案を受け入れなかった。ちいちゃんに告げた理由は、「みんながいない」ということだったが、理由は他にあった。
私の家には「父」がいない。この日の数か月前に居なくなって、どこかへ行ってしまった。親のどちらかがいない。それは、幼い私にとってはコンプレックスであった。
そして、この年の私の誕生日は日曜日にある。お休みの日だ。つまり、父がいたであろう曜日である。
「えー? どうして? せっかくの誕生日なんだよ? 私も祝いたいんだよ、ひいちゃんを」
ちいちゃんは、服についた砂を払った。
「祝ってくれるのは嬉しいんだけどさ……」
「とっておきの物を用意してあげるからさ、楽しみに待っていてね」
ちいちゃんは、私の話を聞かない。自分のペースになると歯止めが聞かないのが、ちいちゃんの特徴だ。そして、それを私には止めることはできなかった。
「う、うん。ありがとう。じゃあ、楽しみにしてるね」
私はこう答えた。ちいちゃんのことだから、断ると理由を聞いてくるかもしれない。もしかしたら、父のことを言っても気にしないかもしれないが、この時、私は怖かった。
この日の夜、私は母に、自分の誕生日会を開いてくれる友達がいることを話した。母は驚いていた。私がそんな話をしたことがなかったからだろう。腕を振るって料理を振る舞うと、約束までした。私は嬉しかった。この時は父親のことなんて忘れていた。