私の記憶①
小学一年の夏休み。俗に言う転勤族であった父と、母は離婚した。
心情の縺れ。度重なる新しい生活環境への変容。私が生まれる前こそ転勤が多く、母もそれには我慢していた。だが、私が生まれて二回目の転勤の際に、離婚を決意したらしい。要は、私のためでもあったということなのだろう。
私は昔から内気な性格の人間だった。
思っていることをいつまでも、口に出せずにいて呆れられる。小さい時からそんな子供だった。当然、友達と呼べる者など少ない。幼稚園時代と、たった一学期ばかりを過ごした小学校でも、やはりできなかった。いつでも輪の外にいた。
両親の離婚後、私は母に連れられて、母が育ったこの町にやってきて、母が通ったという小学校に転校した。
だが、この性格のせいもあってか、どれだけの日にちが経っても友達ができなかった。というよりか、もしかしたら自分でも作ろうとしていなかっただけなのかもしれない。
下校してからは、いつも一人で外に遊びに行った。母には、友達と公園に行く、と嘘をついて。
それでも退屈はしなかった。一人で遊ぶことは楽しかった。ただ、近所の公園には小学校の同級生がいつもいた。そして、いつも私に声を掛ける。バカにするみたいに、と幼い私は勝手に決めつけていた。
私はそれが煩わしくて仕方がなかった。しかし、言葉を返すことのできなかった私には、ただその場から逃げるという選択肢しかなかったのである。
それから少しして、私は新たな遊び場を見つけた。小学校の同級生に会わないような場所を探していたため、いつしか校区外に出てしまっていた。
だが、それは私にとっての問題ではなかった。そこは邪魔をされずに遊んでいられる私の理想の場所であった。
しばらくしたある日のことであった。私がいつものように一人で砂場で遊んでいると、女の子が声を掛けてきた。
「ねえ、君。いつも一人でいるよね。今日は何してるの?」
私に声を掛けてきた女の子。オレンジ色のゴムで髪を結んでいた可愛い女の子。それが狛井智沙ちゃんだった。
「えっ、えっと……」
いつものように言い淀んでいると、智沙ちゃんは臆することなく私の腕を掴んで、強引に連れて行こうとする。連れて行かれた先には、知らない子達が五人いた。智沙ちゃんの友達だったが、私はもう名前を覚えていない。
「ちいちゃん、この子は誰なの?」
友達の一人が、智沙ちゃんに尋ねる。
「この子、いつも一人で遊んでるじゃん。私、この子と友達になりたくてね」
「名前はなんていうの?」と、智沙ちゃんは私に声を掛けた。
「えっと、神谷瞳、です」
私はしどろもどろしながら、智沙ちゃんに名前を告げた。それを聞いた智沙ちゃんは一度、考えるようなそぶりを見せてから、
「そうなんだ。瞳ちゃん――なら、ひいちゃんだね。私の名前は狛井智沙です。ちいちゃん、って呼んでくれたら嬉しいな」
智沙ちゃん、改めちいちゃんは「にこっ」と笑ってそう言った。
その日は初めての「友達」と言える人ができた日だった。ちいちゃんとその友達と、かくれんぼと缶蹴りで遊んだ。これはよく覚えている。だって、初めてのことだったから。
その日の夜、母と二人きりの夕食。初めて、私は母に友達と遊んだことを話した。夕食はいつも以上においしかった。