罰ゲーム
五時限目の授業、現代文。俺にとっては、忘れもしない黒歴史となった。おそらく今後、何度か思い出して、もんどり打つことになるだろう。実際に、優実花がそうであったように。
しばらくは、普通に時間が流れた。だが、俺にはその時間すら長く感じていた。まるで、刑執行を待つ囚人のようだ。実際、社会的地位のようなものが地に堕ちるような仕打ちだから、間違ってはいないだろう。
「じゃあ、私がこの主人公の気持ちを説明する前に、あなた達にも聞いておこうか。じゃあ……」
先生は手に持っていた座席表の中の名前を目で追っていた。だが、別の視線が俺に注がれているのを感じた。優実花だ、ついでにユートも。
優実花は声を出さずに身振り手振りで伝える。「はやくやれ」と、言っているようだ。
「『はやくやれ』だって、お前の彼女が言ってるぞ」
「クックッ」と笑いながら、雪那が後ろで指示をする。こいつはまだいるのか。というか、誰が彼女だ、誰が。
「お前の醜態が晒されるわけだからな。見ないわけにはいかないだろう?」
うん。笑顔だ。心なしか爽やかに見える笑顔だ。優実花に負けないくらいに黒く爽やかな笑顔だ。しかも、その手にはあの鎖が握られている。
前からは優実花の視線。後ろからは雪那の狂気。俺は無言で手を挙げるしかなかった。
「じゃあ、後ろで震えながら手を挙げている輿水和志君」
わかるのかよ!
震える手を下ろしてゆっくりと立つ。そして、
「はい……、お母さん」
優実花と雪那が同時に噴き出した。おそらくそれにより、俺が罰ゲームを強いられていることを、この教室にいるほかの人は理解しただろう。ただ、
「な、何言ってるの、輿水君?」
先生を除いて。
ここで、現代文の先生についての考察。この先生は新任の先生だ。つまり、今年の三月に大学を卒業したばかりだということだ。要するに最低二十二歳以上。単純計算で、俺とは最低六歳差。
「……私ってそんなに老けて見えるの? まだ華の二十代なのに……。高校生がそんな小学生的なノリで普通間違えないでしょうし」
「ぐすっ」と、涙ぐむ声が聞こえた。
華の二十代かはともかくとして、これはアレだ。先生が泣き出したことで、俺がすごい悪者に見える。特に悪気はない、というか俺の罰ゲームがこんなことになるとは思わなかった。確かにこれは優実花の言った通りに、今世紀と銘打つほどではないにしろ、俺にとっては最悪の罰ゲームになりそうだった。
教室内全員の生徒の視線が突き刺さる中、俺は隠れるように席に着いた。