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あっちに行きな! こっちに来るな!  作者: 河海豚
第三章 鍵はだれ?
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黒歴史

「かーずしぃー」

 昼休みになった。いつも通り、優実花とユートが俺の席の近くに来た。

「ねえねえ、和志。昨日のこと覚えてるぅ?」

 昨日のこと?

「ああ、ユートの自転車のことか? あれなら置いてあった場所に返しておいたよ」

「そんなことはどうでもいいんだよ」

 優実花の言葉を聞いたユートが、傷心したような衝撃的な表情をした。見なかったことにしよう。というか、気にしても無駄だ。

「昨日の朝の話だよ、かーずしぃー」

「昨日の話ってなんだ? この様子だと、俺の自転車についてのことじゃあねえだろうな」

 ユートが尋ねる。

「昨日の朝和志が言ってたんだよ。『後で何でも言うことを聞きます。舐めろと言われれば何でも舐めます。舐め回します』ってね」

 優実花は悪意ある脚色をして伝える。

「……本当かよ、和志」

「そんなこと言ってねえよ!」

 ユートは大きい図体を震わせた。俺とユートのやり取りを無視して、優実花は続ける。

「それで、昨日帰ってから一晩中考えてたんだけど……、こういうのはどうかな?」

「なにがしたいんだ?」

「うーんとねえ、次の授業でねえ」

「つ、次の授業で……?」

 これ以上にない悪意あるキラキラとした笑顔を、優実花は振り撒く。それに充てられたのか、ユートは冷や汗をかき始めた。

 嫌な予感がする……。次の授業は現代文だったはずだ。つい先日、先生に悪い印象を植え付けたあの授業である。

「私の中学生時代における黒歴史の一つ。先生のことを『お母さん』と呼ぶのよ!」

 指を差して決め顔決めポーズをとる優実花。

 先生を「お母さん」と呼ぶ。誰でもその場面に出くわしたことがあると思う。覚えていないかもしれないが。それをしたのが自分であったら、それは絶対に覚えているだろう。だが、それも小学生の時というのは、よくある話だと思う。中学生時代にそれをするというのは稀であろう。

 だから、鮮明に覚えている。優実花が先生のことを「お母さん」と呼んだことは。そしてその後、顔を真っ赤にし、パイナップルのようなサイドポニーが逆立っていたことも。

 というか、

「それって、ただの罰ゲームじゃねえか!」

「ええ? でもさあ、和志は何でも言うこと聞くって言ってたよ。というか実際、してほしいことなんてないんだよねぇ。だからさあ、いっそのこと和志に恥ずかしい思いをさせようと私は考えてさあ。これってどう? 何でもするって言ってたから、拒否権はないよね」

 それ、なんていうイジメ?

 俺が嫌な汗を背中に感じながらそのようなことを考えていると、

「なんかおもしろそうになってるな」

 雪那が現れた。今度は天井から逆さまにだ。

 なんというか、予想通りだ。こういう、人が辱められることに目がない雪那のことだ。だから、出てくるのはなんとなくわかっていた。でも、一応訊いておこう。

 どうして出てきた? どこかに行ったんじゃなかったのか?

「いやーさ、和志の心の叫びが聞こえたような気がしたからさ、一直線に飛んできたんだよ。ビューンって」

 一直線。文字通り一直線なのだろう。

 いや、にしても、そんな単純な理由で雪那は俺のところまで来たのだろうか? ほかに、もっと大きな理由が? まあ、コイツにそんなことはないか。

 雪那は一度ムッとしたが、すぐに顔をニヤつかせる。おそらく、数十分後に俺が辱められることを思い出したのだろう。

「どうしたの? いきなり黙っちゃって。もしかして……、私の今世紀最悪の罰ゲームにショックでも受けたの!? もらさないでよ」

 何をもらすというのか。

「今世紀最悪って……。それより超幼稚な考えだよな……」

「な・ん・か言った?」

 凄味の効いた笑顔で、優実花が顔を寄せてきた。

「いや、あの……すいません」

 ひとまず謝っておく。

 昼休みの間中さっきの嫌な汗が止めどなく流れていた。


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