図書館にて
結局、十年前の新聞記事を探そうとしたが、見つからなかった。
過去八年分は見つけることができたのだが、それ以前のものが見つからなかった。時間になって来た司書の人に聞いたところ、ちょうど八年前にこの学校の図書館を大きくしたらしく、それ以前の新聞の資料はその際に紛失してしまったらしい。なんとも運が悪い。
というわけでその日の放課後。
俺は今どこにいるかというと、公立の図書館にいる。だが、
「なんで去年の分しかないんだよ……」
散々探した結果、棚には去年の分しかなかった。
「インターネットで、その事故についての記事を探してみたらどうだ? 図書館だし、そのくらいできるだろう? しかも、無料で」
雪那が提案するが、それは無理だ。
「無理だって」
「えっ? どうしてですか?」
雪那は俺の考えていることを来奈に通訳する。
十年も昔のことで、しかもそんな「小さな」と言ったら語弊があるかもしれないが、ちさの事故の記事は地域版の中見出しに載るくらいのものだろう。仮にも人が亡くなっているんだし。
「事故が事故なだけにことが小さいし、インターネットに載らないのが普通だろう、……ってのが半分で」
「ハァ……」と、思わず息が漏れる。俺の表情に対して、雪那は顔をニヤつかせた。
「和志、お前パソコン使えないんだって?」
俺が続けて話そうとしたことを、雪那は馬鹿にしたような口調で繋げる。
「まあ、そうなんですか?」と、来奈は驚きを隠せないといった具合に口を押さえた。
というか、なんで知っている?
「そんなの愚問だぜ。わかってんだろ?」
ああ、わかってるよ。俺の心を読んだんだろう? ていうか、そんなこと言うお前らは使えるのかよ
「パソコン? ああ、使えるよ。通常の報告書はそれで書くからな。向こうでもネットに繋げられるし。なあ、来奈」
雪那の問いに来奈は頷いた。
「マジかよ」
あの世もハイテク化が進んでいるらしい。こちらの情報はネットで得ているということなのか? そうだったら、例えあの世へ旅立ったとしても、暇にはならなさそうだ。
そんなことを考えていると、
「あっ、和志君じゃないの。久しぶり」
突然後ろから声を掛けられた。
「こんにちは」
俺に声を掛けたのは司書の人だった。どうして司書の人が、俺の名前を知っているのかというと、
「あれ? 今日はお母さんに会いに来たの? 残念だったね。お母さん、今日の昼に帰ったよ」
「そんなわけないですよ。もう高校生ですよ」
こういうわけである。つまり、母さんの職場はこの図書館というわけだ。ちなみに、この司書の人は、俺が小学生の時から知っている人である。
「あら、そうなの? 知らなかったわ~。じゃあ、何しに来たの?」
仕草がいちいちわざとらしい。俺はこの人が苦手だ。だが、司書の人がこのタイミングで現れたのは都合が良かった。
俺は昔の新聞が見たいと伝えた。学校の宿題で調べたいことがあると言って。すると、
「わかった。ついて来てね」
歩き出す。図書館の中央に連れて行かれた。
「これを使って調べてね。一昨年の分からデータ化してあって、日にちとか入れれば検索できるからね」
「じゃあね」と言って去って行った。
改めて目の前に置かれている物を見る。
「「うわー……」」
「……うるさいな、ったく」
後ろから眺めていた雪那と来奈が揃えて声をあげる。そこに置かれていたのはパソコンだった。