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あっちに行きな! こっちに来るな!  作者: 河海豚
第二章 残された幽霊
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作戦会議

「本当に、十年前にちさは死んだのか。そんなことがありえるのか? 死んでからすぐに幽霊になるんじゃなく? 俺が今まで会った幽霊はみんなそうだったのに」

「あー、そうだなあ」

「その説明かあ……」と、お茶を濁すように頭を掻く。

 今の位置は、俺は椅子に座っていて、雪那はベッドの上でこちらの方を頭にして、うつ伏せに横になっていた。さっき俺は強引にベッドから引き剥がされたのである。ちなみに、入浴中に雪那が突入してくることはなく、ゆっくりとお湯に浸かることはできた。俺のことを思ってくれたのだろうかと感じたが、部屋に帰ってきた時、ベッドの下に潜り込んでいたからそんなことはないと感じた。ベッドの下には健全な漫画と本しか置いてない。

「メンドくせえな、ったく。……それはだな」

 雪那はけだるそうに答え始めたが、一つの声によりそれは妨げられた。

「それは私から説明しましょう」

 その声に気付いた時には、部屋のドアの前で来奈が正座をしていた。

「おっ、来奈。帰ったのか」

「ええ、先ほど」

 正座をした状態で、ゆらゆらと浮かびながら近づいてきた。正直言って不気味だ。

「ハハハハッ! 来奈のこと不気味だってよ」

 代弁すんじゃねえよ。つーか、心読むのを再開してやがる。

「和志君、ひど過ぎます……」

「そういうつもりで言ったわけじゃ」

 いや、言ったわけではなく、雪那に言われたわけだが。

「……と、まあ冗談はそこまでにしておいて」

 冗談かよ。

 瞬時に表情を変える辺り、俺はからかわれ遊ばれているのかもしれない。雪那がしたものと同じように。

「どうして十年も経って、ちさちゃんの霊が出てきたのか、ということですね」

「うん」と、俺は頷いてみせる。

「はい、わかりました。さっき、霊についてある程度のことは説明しましたよね? まずは、それについての補足となりますね」

 正座の形を保ったまま浮いていた来奈は、そのままベッドの上、雪那の顔の横に座った。

「霊――和志君の言う幽霊はあの霊体が単体だけで存在しているわけではないんですよ」

 いきなり、わけのわからないことを話し始めた。

「単体では存在できない?」

「はい、そうです。霊は霊魂と呼ばれる、……なんて説明すればいいんでしょうか。そうですね、この世の言葉で言うには……」

「ほら、アレだよ、アレ。えっと、人魂!」

 雪那が会いの手を入れる。その前に頭の横で人差し指を伸ばしてクルクル回していたのはなんだったのだろうか。

「うるせえ! たまに出るんだよ! ただの癖だ!」

「そうですね。人魂っていう表現が妥当でしょうね、和志君には」

 見事なまでのシカトだ。そのまま来奈は話を続ける。

「それで、霊というのはその人魂のような形の霊魂がいくつも集まったような存在なんです。数はいくつかわかっていないんですけど、だいたい百以上で『成仏』というのはその霊魂がすべてあの世に旅立った時のことを言うんですよ」

「じゃあ、地縛霊っていうのは?」

「その霊魂の一つでもこの世に残ってしまった霊のことを言いますね。霊魂が未練という鎖でこの世に根を張ってしまった。地に縛られてしまった。地縛霊という名前、まさにその言葉通りになります」

 なるほど。ちさの状態は、来奈の説明通りだということだ。身体、来奈の言うには霊体を貫いてまかれた何本もの鎖。その場からほとんど動かない身体。

「そして、残ってしまった霊魂に、その他の霊魂が集まります。集まるのは、時間が掛かることもあるんです。朝の霊はここ最近亡くなられた霊ですが、ちさちゃんのように、何年も掛かって現れる例もあります。私が聞いた話では、五十年掛かった例もあるんですよ」

「そうなのか。じゃあ、あと四日だって言っていたけど、あれはなんだ?」

「おっ、よく覚えているな」

 馬鹿にすんなよ。学校の授業で答えられないのは、しっかり聞いていないからだ。

「別に馬鹿にはしてねえよ。感心してんだって。というか、聞いてもいないことに答えるなよ。それに、自虐ネタは、私はあまり好きじゃねえ」

 何かを払うような動作をして、雪那は言う。

 そうは言うが、その顔は明らかに人を馬鹿にしている。

「なんだと、てめえ。私の言っていることがわかんねえってのか」

「雪那ちゃん、本当に少し黙っていようか。話が進まない」

 来奈は帯へと手を伸ばす。それを見た雪那は口を閉じ、うつ伏せの状態のまま器用に後退りした。若干雪那の表情が青ざめている辺り、もう既に雪那への脅しとして、この動作は定着しているようだ。

「和志君、その四日というのは、タイムリミットです。実際には今日を入れて五日ですが。ちさちゃんの霊が悪霊、あるいは怨霊となってしまうことの」

「悪霊……? 地縛霊ときて、次は悪霊か」

 悪霊、あるいは怨霊。その言葉の表す意味や今まで得た知識通りなら、この世に何かしら害を及ぼす霊のことであろう。例えば、心霊現象のような。来奈は、今のちさのような幽霊はこの世に何かの影響を与える力はない、というようなことを言っていたから、この考えは正しいのかもしれない。たとえ、それが地縛霊だとしてもだ。だが、

「どうして四日なんだ? それに、どうしてそんなことがわかるんだ?」

「肉体を持たない霊にとってはなあ、この世の空気ってのは毒なんだよ。長くいすぎると霊魂に淀みが生まれる……。いや、これは語弊があるかもしれないな。まあ、悪くなるっていう意味ではあっていると思うけどな。あと、悪霊や怨霊についてはお前の考える通りだよ」

 雪那が答え始めた。調子が戻ったようである。

「それに、何だっけ……? そうだ。どうしてあと四日だってわかったのか、っていうのだったよな。それはな……」

「私の能力みたいなものですよ。私は対象の霊と二人きりで対話することによって、霊のタイムリミットがわかるんです」

「雪那ちゃんは喋り過ぎですよ。私のことくらいは説明させてください」と、来奈は雪那を諌めた。

 雪那、来奈の話を聞く限りでは、タイムリミットは明日からあと四日。それまでに何か手立てを考えて実行しなければならない。俺にはまだ何もわかっていることはない。初めはいろいろと情報収集が必要になるだろう。

「結構厳しいかもなあ……」

「ああ? てめえ、なに言ってんだ?」

 雪那は俺に掴み掛かろうとしたが、とっさに反応した来奈に押さえられた。

「雪那ちゃんはせっかち過ぎるんですよ。和志君は『あきらめる』なんて言ってないでしょう? それは雪那ちゃんが一番わかっていることでしょう?」

「それは、そうだけどよお……」と、雪那は引き下がる。少し堪えたのか、ベッドに腰掛けて目を伏せている。

「では、明日からの大まかな段取りについて話し合いましょうか。少しの間雪那ちゃんは、黙っているみたいですしね」

 来奈は微笑みながら話を続けた。

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