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あっちに行きな! こっちに来るな!  作者: 河海豚
第二章 残された幽霊
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ミミック

 突然の雪那に思わず飛び退いて、ベッドに倒れこむ形となった。

 相も変わらずの神出鬼没な登場の仕方だ。RPGのミミックか何かのつもりか。まったく、楽しんでやっているとしか思えない。

「ああ、そうだな。主にお前のおもしろい反応を期待してやっている」

 全肯定された。遊ばれているらしい。なぜだか敗北感しかない。全否定されてのこの気持ちは何度かあったが、全肯定されてマイナスの気持ちになったのはあまりない。

「遊んでるんじゃない、弄んでいるんだぜ」

 してやったりな表情を向けて、雪那はゆらゆらと漂う。今度の発言は、ただ腹立たしいだけだ。ただ、今まで感じていた自分への苛立ちとは変わったことは感謝している。

「何言ってんだ? 気持ち悪い」

 雪那は肩を抱いて、寒気が走った時のようなポーズをとった。

 ところで、どうして俺の家がわかったんだ? バス停で別れたから、雪那にはわからないはずなのだが。

「ああ、それね。私には和志の居場所なんて手駒に取るようにわかるんだよ。ほら、学校でもわかっていただろう?」

「『手駒に取る』、じゃなくて『手に取る』、な。日本語的には」

 俺はお前の手下か何かかよ。

「その発言には言いたいことがあるけど、まあツッコむのはいいや。ところで」

 数拍置いてから

「お前、どうかしたのか?」

 雪那は、鼻先がつきそうなくらいに顔を近づけてから尋ねた。

 茶色を含み、澄んだ目が俺の網膜に映りこんでくる。雪那には俺の考えていることがわかる。たぶん、さっきまで俺が考えていたことも。だとしたら、すごくたちの悪い話ではないか。わざわざ言わせようというのか。

 見るな、見るな……。

 見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな。

 これ以上見るな。なにも見るな。

 俺はすぐ近くにある雪那の顔を睨んだ。

「わかった、わかったから。お前がそこまで思っているなら、私はそれについては覗かないよ。これ以上は。それにそこまで拒絶されちゃあ、覗こうにも断片的にしか覗けないし」

 雪那は小さく微笑んでからその顔を離してそう言った。

「人は誰でも他人に言えないことの一つや二つはあるよな。うん、そうだ」

「……そんなことができるのか?」

「うん?」

 雪那は聞こえなかったのか、首を傾げる。

「覗かないことができるのなら、これ以上俺を苦しめるなよ」

「ゴメン。それは無理」

 一蹴された。それも即座に。

「言っておくけどね、私は意図的に和志の考えていることを読んでいるんじゃねえんだよ。自然に止めどなくお前の内から流れてくるんだ。川のようにな。意識的に一時的に止めることはできるけど、それを継続的に行うことは、はっきり言って無理」

「なんか、納得できない……」

 呟くように言ったはずだが、雪那にはそれが聞こえたのか顔をしかめた。いや、俺の思ったことはわかるから当たり前か

「まあそういうことだ、って割り切っちまえば楽になれるってことさ。気にすんなよ」

 口調が軽い。それに呼応するように、雪那の身体はふわふわと漂う。

 やっぱり納得いかねえ。

 その言葉が再度喉から出かけたが、思い留まる。どうせ軽くあしらわれるか、二度も説明させるな、と逆ギレされるのが関の山だろう。それは面倒だし、俺がこのように思っていることも気づいているだろう。

「とりあえず、ここで待っていてくれ。俺は風呂に入ってくる」

「ああ。来奈も遅いみたいだしな。行ってこい。悩みやらなんやら全部洗い流してこい。まあ、それができたら、人生苦労なんてしないだろうがな。言葉の綾だ」

 服を取り出そうとしたが、一度手が止まった。

「どうした? 入らないのか? なんなら、私も一緒に入ってやろうか?」

 雪那の顔は見えないが、おそらくニヤリとした表情を俺に向けていることだろう。声色がそのように思えた。

「うるさい。黙って待っていることもできないのか」

「ったく、つまんねえ。なんかおもしろい反応しろよ。冗談だったけど、本当に突入するぞ、てめえ。オイ、聞いてるのか?」

 俺は耳を塞いで静かに部屋を出た。俺の動きが詩美には聞こえないように。


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