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あっちに行きな! こっちに来るな!  作者: 河海豚
第一章 不思議な少女
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いつもと違う放課後

「和志君、きみに頼みたいことがあるんだけど、……大丈夫?」

 俺達は月嶺高校近くの公園にいた。これだけの説明では、高校生にもなってまだ公園で駆けまわっているのか、とでも言われそうだから詳しく説明するが、正確には、公園の隅に設けられてあるベンチに座っている。「俺達」とは言ったが、もっと正確に説明すると、来奈はベンチの前で立っていて、雪那はその横で両手で頬杖をついてうつ伏せに寝るように浮いているため、ベンチに座っているのは俺だけだ。そして、普通の人には雪那と来奈は見えていないため、俺が一人でベンチに座っているように見えているだろう。高校生にもなって。

 ちょうど下校時刻なのか、公園の中では多くの小学生が遊んでいた。遊具の近くなど至る所にランドセルが置いてある。最近の子供は外で遊ばず家でゲームばかりだ、と今の世の中、まあ、その「世の中」というのは、俺が見るのはテレビからではあるが、よく言われているけれども、ここの公園だけを見る限りでは、そういった弊害は見られない。他の地域がどうかということはわからないことだけれども。

「頼みたいこと? 何が?」

 俺は来奈に普通に尋ねただけなのだが、来奈の代わりにそれに反応した雪那がムッとした表情を近づけてきた。

「お前はつべこべ言わずに付いてこればいいんだよ。この下僕が!」

「お前には訊いてないよ。というか下僕って……お前が俺に取り憑いているんだろうが! 主従関係的には本体である俺が主人で、お前の方が下僕だろ!」

「残念でしたー。下僕は男に対する名称ですー。頭悪いな、和志は」

「こいつはすぐ揚げ足を……」

俺はギリギリと拳を握った。雪那は事あるごとに俺に突っかかってくる。俺がこいつに何したって言うんだ。迷惑を受けているのは俺の比率の方が大きいだろう、普通に考えて。

 俺と雪那のやりとりを眺めていた来奈が「フフフ」と、笑みを漏らす。

「いつの間にか仲が良くなっているんですね」

「「どこがだ!」」

「あらあら、息もぴったりで」

 もう一度「フフフ」と笑って、来奈は口を押さえる。

 そうは言っても、こいつと仲良くなるなんて願い下げだ。

「お前の考えていることは私に駄々漏れだって言ったよな、和志。だが、それには私からも同意だ。お前と仲良しになるつもりはない。取り憑いたのなんて関係ないね。これはただの契約さ、契約」

「契約」という言葉を強調して、雪那は言う。寝ているような姿勢から、あぐらをかくような姿勢になった。しかし、頭が下に向いている。

「……その割には楽しそうだったじゃありませんか。学校の教室で和志君と話している時は」

 来奈の言葉に雪那は顔を赤くした。

「見てたのかよ。どこからだ!」

「窓の外からですよ。雪那ちゃん達から見えないように、ですね」

 来奈は雪那をからかって、おもしろいと思っているのだろう。そんな顔をしていた。また「フフフ」と微笑んだ。対してからかわれている方、雪那はさらに顔を赤くした。

「ったく、……お前もなにニヤニヤしてんだよ!」

 とばっちりを受けた。自分でも知らぬ間に顔が緩んでいたらしい。それを見られたのか。でも、どちらにしろ、雪那には俺の考えていることを知ることができるわけだから、顔を見なくてもわかるかもしれない。今、俺は無意識に、自分でもわからない心の奥底で何か思っていたのか。

「なに気持ちの悪い妄想巡らせてんだよ。……気持ち悪い」

「……二回も言うなよ、傷つくだろ」

「傷つくなんて、そんな微塵も思ってないだろ、バカ」

「コホン」、と小さく咳払いを来奈はした。

「ええっと、話を戻しますよ。和志君には私達の仕事を手伝ってもらいたいんですよ」

 来奈は雪那を制して言う。雪那は即座に引き下がるが、それが懸命だと思う。また、あの短刀で叩かれるかもしれないから。

「仕事って?」

「もう教えるのも面倒くせえ。お前はただ私達と一緒に来ればいいよ。別に何も期待しちゃいないし。まあ、お前が一緒に来ないと私がそこに行けないってだけだからさ」

「なんだよ、その言い方は。俺が使えない、って言うのか?」

「……いえ。今回、和志君にはほかにも頼みたいこともありますよ」

「へ?」

 雪那が素頓狂な声をあげる。本当に俺に仕事をしてもらうというのは、考えもしなかったのだろう。表情を見ればわかった。

俺はニヤリと笑ってみせた。

「ぐぐぐ」、と雪那は自分の顔の前で右手を固めていた。これも。心の中など読めなくてもわかる。俺の表情に苛立っているのだろう。

 ざまあみろ!

 大人げなくも、そう心の中で唱えると、雪那は握り拳をわなわなと震わせるだけであった。来奈はそれを見て、ため息をついた。

「それで、俺は何をすればいいんだ?」

「みかんジュースです」

 同じタイミングで「はぁ?」という声が、俺と雪那の口から漏れた。その後、同時に向き合う。雪那はそのまま顔をしかめるとそっぽを向いた。

「みかんジュース?」

「はい、みかんジュースを買って持ってきてほしいんです」

 来奈は首を傾けてニコリと笑った。もう一度、俺と雪那は顔を向き合わせると、同時に首を傾げた。


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