いつもの放課後
「岡ちゃん、和志のことマークしっ放しだったな」
「ユートの言うとおりだね。和志、何かしたの?」
「……何もしてないよ」
六時限目が終わると、ユートと優実花が集まってきて、俺の周りの席に座った。普段ならば、この後担任の話や次の日の連絡をする時間があるわけであるが、今日の最後の授業担当が担任の岡部だったためない。岡部は自分の授業が最後にあると、次の日の連絡は朝にすることが多いからである。生徒を早く帰らせるためでもあるし、岡部自身仕事が少なくなるということもあるのだろう。確か、去年もそうだった。
そのため、周りを見回すと帰る準備をしている人や、授業後の部活に行く準備をしている人が多いのだが、それでも少し話をしてから帰るのが俺達三人の習慣だった。
「ユートと優実花は早く行かねえの?」
「えっ、どこに?」
優実花は首を傾げた。
「いや、どこに? って部活だよ、部活」
俺の言葉に、ユートと優実花は互いに顔を見合わせた。
ユートと優実花の二人は、部活に入っている。しかも、同じバスケ部である。ユートは一目見てわかるようにガタイの良さから攻撃・防御力の高さを、優実花は機動力の高さを生かし、それぞれ活躍している。それも二年に上がった今は、両者共にチームの中核的存在となっている。
ちなみに、俺は部活には入っていない。
「……何か変なこと言ったか、俺」
二人はしばらく顔を曇らせ、沈黙を保っていたが、ユートが口を開いた。
「そのことなんだけど……、和志、またバスケやるつもりはないか?」
えっ……?
驚く俺を見て、ユートは続けた。
「いや、今日は新入生向けの体験入部が最後の日だし。別に、二年生が見学しても大丈夫なんだからさ。顧問もお前のことを勧誘しろ、ってよく一年の時俺に言っていた。和志なら他の連中だって納得してくれるだろうし。なあ?」
言葉を探しているように、何度も突っ掛かりながらにユートは言った。それに同意したように、優実花は頷く。
「ユート、前にも言ったじゃん。俺は戻るつもりはない、って。去年、入学した時に誘われた時も嬉しかったけどさ、これは、あの時俺が決めたことだから」
俺は席を立ち、鞄を肩に担いだ。
「でも、それじゃあ、ふみ……」
「とにかく! ……もう行こうぜ。ユート達遅れちまうだろう? それを俺のせいにされるのも、その、ほかのバスケ部の奴らに悪いしさ」
俺は無理やりユートと優実花を連れ立った。今、ユートが何を言いかけたかはわかる。俺の詩美とは違うもう一人の妹――文香のことを言おうとしたのだろう。普通なら今、小学六年生で俺と詩美がランドセルを背負って通っていた学校に行っているはずだった。本当に普通だったら。俺が、あんなことをしでかさなければ。