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お見合いはご遠慮します  作者: 奏多


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47 黄昏の幻惑 1

 その日は、雨が降り始めたためにエルデリックは座学か部屋で過ごすことが多かった。


 おかげでサリカはほとんどエルデリックの側にいた上、からかわれることを警戒して能力を使って話しかけることもなかったので、ラーシュと会話することは少なかった。


 日暮れ近くになって、サリカはからかわれずに一日が終わったことにほっとしながらも、少し物足りない気がしてしまった。

 そんな事を感じたサリカは、次にはむぅ、と眉間にしわをよせる。


(別にかまわれたい訳じゃないはずなんだけど……。最近一緒にいること多かったし、そのせいよね)


 それに御前試合の関連でなんのかんのと騒がれていたが、今日はエルデリックと一緒の行動が多いため、召使い達などにも話しかけられることが少なかった。


 だからだろうと考えていたサリカは、ふっと甘い香りを感じて視線をさまよわせた末に、女官長がこちらを見ていることに気づく。

 フェレンツ王からの手紙を持ってきた女官長は、返事を待っていたのだ。その間、ちらちらとサリカのことを見ていたようだ。


 けれどお見合の話も終わったのだし、女官長の視線も、次こそはと再戦を誓ってサリカをねめつけているというようなものでもない。

 どことなく不安そうで。そんな視線を向けられているサリカもなんだか落ち着かない。


(そもそもよ。どうしてこの人は祝宴の時にロアルドを止めてくれなかったんだろ)


 お見合いには決着がついたはずだったのだ。ラーシュとつきあうということで、女官長も納得したはずで。

 本当にロアルドの暴走だったのかどうか……とサリカは疑問に思う事がいまだに多い。


 なにせロアルドは、あの御前試合の件でサリカに何かを言ってくることもなく、好きだったのにとサリカに追いすがってくることもなく、実にあっさりとサリカのことを忘れたかのように近づいてこないのだ。


(不気味だわ……)


 サリカは嬉しいというより、なんだか不穏な気配を感じてしまう。

 今まで『これで懲りただろう』と思ったら、すぐにまた別な手を打ってくる、というのが続いたせいだろうか。

 その日は結局、エントランスの端に見かけたり、エルデリックのお茶の支度で廊下で彼女を見かける度、青ざめておびえたような女官長を度々見かけることになった。



 気にはなったが、女官長が自分の身を害してくるわけでもなく、ただ不安そうにしている理由を暴くわけにもいかない。

 個人的なことで悩んでいるだけかもしれないからだ。

 そうしてサリカは気になりつつも、強く気にかけていたわけではなかったので、おなかがすいて食堂へ向かう時には、女官長のことなどすっかり忘れてしまっていた。


 食事の場所は、その身分などによって変わる。

 サリカ達女官は、召使い達とは別に準備されている部屋がある。

 調理する場所の関係上、そこは使用人用の居住する棟に近い場所だが、内装も王宮内の居室とそう差のない綺麗な部屋である。


 問題といえば、王族の居住する中央からは少し距離があることだろう。

 エルデリックが部屋にいることが多い日には、不在の時よりサリカ達女官には空き時間が少ない。そのためエルデリックがフェレンツ王と食事をしている間に、見守りをティエリに任せて夕食目指して急いでいた。

 早く行って早く戻らなければならないからだ。


 その途中だった。


 廊下の向こう側に見知った顔を見かけた瞬間、サリカは思わず立ち止まる。そのまま反転して逃げたかったが、それよりも先に相手に気づかれてしまった。


「サリカさん」


 声を掛けられては仕方ない。

 反転しかけた足先の向きを戻し、サリカはため息をつきたい気分でロアルドと向かい合った。


「……お久しぶりです、ロアルドさん」

「ええ、お久しぶり、ですね。お元気そうで、良かった」


 ロアルドはどこからか走ってきたかのように息をきらせていた。石造りの薄暗い王宮の中でも、すぐにわかるほど肩を上下させている。


「何かあったんですか?」


 思わず尋ねたサリカに、ようやく息が整ってきたらしいロアルドが微笑む。


「いいえ。少し人に追いかけられてしまって……。貴方と破談になったのなら、と迫ってくる方がいましてね」


 破談、という言葉にサリカは思わず身構える。


「なら、逃げなくても良かったのではないですか?」


 もうサリカとは関係ないのだから、追いかけてくる人のことを大切にしてあげたらいい。暗にそうほのめかすと、ロアルドの笑みは少し苦いものに変わる。


「あなたと、どうしても話しておきたいことがあったのです」

「……私の方にはありませんが」


 はっきりと断っても、ロアルドは引かなかった。


「あなたとのお見合いを断念するお話、といえば」


 むしろ楽しそうに、サリカを引きつける提案をしてみせる。


「……嘘じゃないですよね?」


 とっさにサリカの頭の中に浮かんだのは、祝宴の前にした約束のことだ。一曲踊るだけのハズが、やっかいな事になってしまった。だからこそうかつな事はもうすまい、と警戒をにじませたサリカに、ロアルドはゆっくりと首を横に振る。


「嘘はつきませんよ。今日は本当にお話をするだけです。心配なら、貴方の騎士に居場所を言付けておいてもかまいません」


 ラーシュを呼んでもいい。

 そうまで言われては、やはりロアルドはただ話だけをするつもりなのだろうか、とサリカは信じたい気持ちになる。けれども、ラーシュが来るまでの間になんらかの行動に出られて、サリカはそれを避けられるのだろうか。


 悩んだサリカは、部屋の扉を開けておくことと、15分ごとに召使いに別な菓子を持ってこさせるという条件を出されてようやくうなずいた。

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