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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

交差する前のオフ会 ーとある軍隊マニアの場合ー

関係者の皆さま方には抱腹絶倒してお詫び申し上げます。

ロシア アクトーベ基地


ロシアの南、カザフ国内のこの基地に、一人の男がいた。

名をグロース=エルリックといい、ロシア空軍の軍曹である。

皆は彼を「ロシアの銀狐」と呼ぶ。


「軍曹、待ってください」


彼を呼び止めたのはアーシャ=クズネツォフ。

ここ、‘イノヴェルチ’に配属されたばかりの、鼻ばかり高い若僧。

なにかと俺に突っかかってくるのは、彼が上司としてなめられているからか。


ここ‘イノヴェルチ’はその名の通り、ロシア空軍においても異端の部隊。

階級に関係なく、実力順で選ばれる。

彼はロシア空軍のトップエース。

自分用にカスタマイズしたスホーイ戦闘機でもって、敵の戦闘機や戦闘車、戦闘艦を単機で潰していく、空の王者。


なぜ異端かと言うと、近代の空戦は集団で行うものであり、単機で実績をあげる彼は指揮官にとって扱いにくいのだ。


‘イノヴェルチ’のほかのメンバーも、集団でやるより個人でスコアを伸ばすタイプの天才かつ秀才のパイロット揃いだ。

彼らがあげる戦果は、現在の軍全体の戦果の実に半分にものぼる。


現在、戦場は国家として崩壊したカザフスタンを舞台に反政府軍と旧政府軍が傭兵戦力を加えて伐ちあっている状態。

どこぞの武器商人たちがそれぞれに武器を売りさばくから、戦争はなかなか終わらない。

おもにアメリカやフランス、ドイツにロシア製の武器が使用されている。

アーシャはエルリックから3mの距離をとり、


「お時間をよろしいですか?」

「なんだ?」


と、なめきった態度をとる。

エルリックは油断なく全身を戦闘状態にシフトさせる。


「正直にいいます。私は自分より弱い者が上司であるということに耐えられません。いつもいつもパソコンでヤポーニャ(日本)のサイトばかり見ていて訓練らしい訓練をしない。酒もたばこもダメなくせに甘いものだけは中毒のように食べる。部屋は散らかっているし、寝起きが悪い。しかも毎朝寝癖がたったまま食堂に来る。毎日一時間もサウナにこもって出てこない。三日に一回は昼まで起きてこない。やっと訓練を始めたかと思えば一時間で飽きてヤポーニャのアニメを見始める。あげくのはてにはヤポーニャから如何わしいゲームを輸入する。といか世界中からゲームを集めている。しかも世界ランクに名前を載せている。訓練をしていないときはだいたいゲームをしている。一週間見ないと思ったらアブストリヤ(オーストリア)に旅行に行っている。それも私がここに来てからのこの二週間のうちの出来事です。そこで、あなたに勝負を挑みたいのです。私が勝ったら、イノヴェルチの隊長の座を譲っていただく。よろしいですね」


それは有無を言わせない迫力があった。

ただの人間なら勝負などせずにその座を譲るだろう。

しかし、エルリックはそのようなことで圧される男ではない。

ポケットからガムを取り出しながら頷く。


「いいだろう。だがここでは迷惑だ。滑走路脇の空き地に行くぞ」



アクトーベの飛行場の北西部、二人の男が対峙する。

一方は屈強な体格のアーシャ。

その筋肉の鎧に包まれた姿は、まるでプロレスラーのよう。

ジーグンドーという格闘術を得意とする。

趣味は肉体強化とトライアスロン。


一方はエルリック。

アーシャを上回る2m以上ある身長、鋼のような屈強の筋肉、武骨顔と豪快な髭を生やした男だ。

アーシャがプロレスラーならば、こちらはグリズリー。

しかしながら彼の趣味はゲーム。

非番の日には大きな身体で小さなゲーム機をピコピコやっている。


雲一つない蒼天の下、二人の頭上を帰還した戦闘機が通りすぎる。


「!」


それを合図にアーシャが翔ぶ。

それはまるで天ツ狐のように一直線に。

それを目で捉えることができる者は、いかな海千山千の強者たちであろうとも限られる。


「ハァ!」


ゼロコンマいくらの飛翔の後に、アーシャの拳がエルリックを捉える。

そしてそこにはエルリックが横たわって..否。

横たわっていたのはアーシャであった。


「それで速いつもりか?お笑い種だ」


実はエルリックは風よりも速く翔んできた拳を、左手でそっとつかんで捻っただけである。

言葉にすると簡単で..はないが、この早さを見切った上でタイミングを合わせる芸当、単に強者というだけでは収まらない。


「つまらないな」


エルリックが倒れたままのアーシャの腹に、無造作に右足をのせる。


「..イェシチェ パジャルスタ(召し上がれ)」

「ァ!」


乗せたままの足を、そのまま踏み込む。

これでも骨が折れないように最大限手加減しているのだ。


「おい、医務室に放り込んでおけ」



翌日、その日もよく晴れていた。


「いいね。こんな日はハンモックを掛けたくなる」


しかし悲しいかな、基地付近にちょうどいい木は生えていない。

すこし離れたところに植樹された木があるが、そこまでは2、3kmある。

歩くには億劫な距離だ。


「仕方ない。チャットでもするか」


最近の彼の新たな趣味である。

チャット仲間はまだ数人しかいないが、なかなかに楽しんでいる。


「時差は6時間だったかな?」


残念。カザフ東部は日本から三時間遅れ、アクトーベは四時間だ。

散らかった部屋の窓を開けて、外の空気と中の空気を交換する。

淀んだ空気が外に流れていくのをなんとなしに目でおっていくと、聞きなれない音を耳にする。

そして窓の外にいたのは黒い目だし帽を被った武装した兵士。

兵士は彼を見て、焦って銃口を向ける。


「はて、いつから我が軍はドイツ製の銃を使い始めたかな?」


G3ライフル。

世界四大名銃に評されるそれは、ドイツが輸出する小銃。

たしかカザフの反政府軍が使っていたはずだ。

ドイツは武器輸出大国である。

おそらくは武器商人がながしたのであろう。

そしてカザフの旧政府軍はロシア系のAK74を持っているから似ても似つかない。


敵兵侵入を告げるサイレンをBGMに、彼は周りにいた敵兵20弱を10秒でなぎ倒した後、大きな欠伸をこぼしながら銃を拾ってとりあえず指揮所に向かう。

途中、宿舎のバリケードを破壊しようとしていた敵兵10を、ことごとく怪我をさせずに首だけ撥ねたり、格納庫に侵入しようとしていた敵兵50の間接をすべて砕いてきたり、燃料タンクに爆薬を設置しようとしていた敵兵の背中に、先程拾った銃で孔を穿けたりしていたので時間がかかってしまったが、部屋からわずか5分で指揮所の建物に到着する。

するとそこは死屍累々の有り様で。


「これは..アーシャか」


指揮所の一階に医務室はある。

おそらくアーシャは敵兵を察知して飛び起き、この惨状を作ったのであろう。

目につく敵は、胴体が別れていたり、胸に大穴が空いていたりしていた。

テカテカと赤黒く塗られた廊下を渡り、指揮所のドアをノックする。

返事がないので邪魔なドアを蹴破ると、銃弾がお出迎えしてきたのでジャンプして回避。


「おい、味方を撃つなよ」


エルリックは軍曹と低い地位にいるが、その能力は一軍の指揮官でもおかしくないとされる。

白兵戦も空中戦も最強とされ、作戦指揮もとれる。

まさに理想の兵士であるが、昇進しないのは彼のわがままである。


『将校の多くはたばこを吸う。会議のたびに吸われちゃ呼吸ができない。それに将校になると空を飛べなくなる。‘飛ばない豚は、ただの豚’ってな』


そう言って毎回昇進を拒んでいるが、階級が低いだけでこの基地での指揮権は事実上上から3番目。

指揮所に立てこもった兵士は、だがそれを撃ってしまった。

味方を撃つなど軍法会議ものだ。

そうでなくともエルリックに惨たらしく殺される。

皆の頭に浮かんだのは‘死人にクチナシ’。

敵と間違えて殺してしまえばおとがめは「撃つのをやめたら貴様らに生きる権利をやろう」..射撃が止まった。


(まったく..酷い目に遭った..いつか殺す)

「司令、何が起きている?」

「見ての通り、敵襲だ..危うく殺しかけたが済まない。事故だ」

「そうだな。よくある事故だ」


エルリックは司令の左腕をへし折ってコンソール前にいる副司令にむかう。


「敵の大攻勢です。10km先に戦車もいます」

「そうか。格納庫は?」

「無事だ。君の機体は万端だ。アーシャの機体もあと3分で仕上がる」

「スパシーバ(ありがとう)」

「パジャールスタ(どういたしまして)」


司令の右腕を砕いて指揮所を出る。

そこにいたのは帰り血で染まったアーシャ。

まだ少し顔色が悪い。


「軍曹..」

「ぐずぐずしている暇はない。出撃だ」


走りついた格納庫。

まず、飛行前の外部点検。

その後、ハシゴを登り、機体上部をチェック。

キックインステップ脇のキャノピー外部コントロールハンドルでキャノピーを開ける。

座席のチェックをして座席に座る。

そして安全ピンがはずされているか確認する。

エンジンをスタートする前に70項目のチェック。


「全項目、OKだ」

〈了解です〉


それからエンジンをスタート。

メカニックに対し指一本あげて合図し、エンジンマスタースイッチをオンに、JFS(ジェット燃料スターター)をオンにする。


「おいそこ!ぼさっとするな!植えるぞ!」

〈申し訳ありません軍曹!〉


次に指2本立ててメカニックに合図し右側のエンジンスロットルフィンガーリフトを上げる。エンジンが両方点火したらJFSスイッチをオフにし、空気取り入れ口ランプをオート、ECCスイッチをサイクルに。

次にテストスイッチボタンを押して、各システムの警告灯が正常に点灯するかチェック。同時にINS(慣性航法装置)のアライメント(調整)を実施。

次にチェックリストどおりにタキシー前チェックをし、完了したら輪止めを外させてタキシングを開始。


「チョークはずせ」

〈了解です〉


ブレーキを踏んで作動チェック、飛行計器が正常かチェック。滑走路に入る前にメカニックに外部点検をさせて、ミサイルの安全ピンを抜いてもらう。


〈整備班、準備完了〉


滑走路に移動しつつ、レーダーON。ハーネスを再チェック。

射出座席アーム、舵作動チェック、フラップ距離ポジションチェック、トリム距離位置チェック、キャノピーが完全に閉じているかチェック。


(この閉塞感がたまらない..)


ピトーヒーターON、警告灯が点灯していないか確認。サーキットブレーカーが納まっているかチェック。

滑走路上でブレーキを踏み込み左右のスロットルレバーをミリタリーパワーまで前進させ回転計、油圧計、燃料流入計、ファンタービン入り口温度計をチェック。

ブレーキを離し、スロットルをそしてミリタリー位置まで動かす。


〈管制塔よりスホイカスタム。離陸を許可する〉


ピッチ角を10度にして上昇開始。

黒い戦闘機が疾りだす。

上昇開始したら250ノットになる前にフラップと車輪を格納。

エルリックの愛機、スホイカスタムが空を駆ける。


〈管制塔よりスホイカスタム。敵戦車まで5km。数は40、すべてT72戦車だ。旧政府軍のをパクったのだろう。遠慮はいらん。一両残らず喰らい尽くせ〉

〈こちらアーシャ。軍曹、どうします?〉

「私は東からいこう。アーシャ、お前は西からだ」


スホイカスタムはロシア空軍のSu35戦闘機を改良したもの。

エンジンだけじゃなく、機体のコンピューターやレーダー、塗装や材質まで再設計され、元の機体とは形状以外別物である。

否、元の機体より一回り大きい。

最高速度はマッハ2.9。

アクロバティックな機動が得意で、彼以外のパイロットでは15分ともたない専用機。

漆黒の機体の右翼に銀の狐を描いている。

尾翼のキルマークも銀の狐の足跡。

基地の女性に人気のペイントである。


一方のアーシャ。

Mig35を真っ赤にペイントし、右翼には白でラファエロの聖人ゲオルギーの絵をもとにしたシンボルを描いている。

同じように元の機体を魔改造したもの。

スホイカスタムよりは操縦がしやすいが、やはり専用機。

普通のパイロットなら20分で墜落すると言われる。


〈攻撃開始〉


綿雲の上を飛ぶ二機は、東西に別れて急降下する。

高度2000mでエルリックが8発の爆弾を投下。

それを追い越すスピードで地面に迫るスホイカスタム。

高度200m、持ち前の機動性で地面すれすれで立て直し、地表の敵兵を衝撃波で蹴散らしていく。

投下された爆弾は、5両の戦車を破壊。

外れた3発も周囲の歩兵を吹き飛ばす。


(次)


一方、アーシャは端から機銃で戦車を破壊していく。

彼の翼の下には40mm機関砲が無理矢理搭載されているので戦車を破壊するにはもってこいである。

まるでかの‘ソ連人民最大の敵’のように戦車を破壊していく。


(つまらない仕事だ..しかしなぜ軍曹に負けたのだろう..早さが足りないのか?動きが直線的すぎたか..)


戦車40両はあっけないほどあっというまに排除された。

大地では生き残った兵士が三々五々、逃げ出しているところである。


「エルリックより管制塔。まだ喰いたりない。すこし遠征してくるよ」


目指すは南にあるはずの反政府軍の基地。

おそらく今日の敵もここから出てきた。





「いまではアーシャもおとなしくなってしまってな。すこし反抗的な方が好きなのだがな..なんだ?反政府軍?壊滅させたよ。戦車の後は戦闘機が出てきたけど弱くてな♪あれはあっけなかった」





その日は反政府軍にとって最悪な日になった。

ロシア空軍の基地に総攻撃を仕掛けたものの逆襲にあい、虎の子の戦車をすべて喪失。

さらに戦車以上に貴重な航空戦力をすべて喪失。

しかもたった二機の戦闘機にやられた結果である。


「敵の黒いフランカーが着陸しようとしています!」

「なんだって?!」

「気でも狂ったか?脳みそまでカビたか?!」


空になった滑走路を見ると、黒い戦闘機が滑り込んでくるところであった。

その翼には狐が描かれている。


「ロシアの銀狐..」


それはロシア空軍最強を謳われる戦闘機。

それは災厄をもたらす悪竜ズメイ。

それは正義を妨げる怨敵バラウール。

停止する前の機体から飛び降りたグリズリーが、周囲を取り囲んだ反政府軍兵士を圧倒的な早さで排除した。

銃をもった兵士40人を、10秒で伸したのである。

しかも素手で。


さらに空を支配する赤い戦闘機が基地施設を破壊してまわる。

格納庫、機体の隠蔽場所、兵舍、基地の消防署。

今も航空燃料タンクが破壊された。

大きな爆音とともに、火竜が昇る。

その間にもグリズリーは止まらない。


「我らの兵士は..まるで案山子だな」

「司令..撤退しましょう。東にいけば反政府軍の別の基地があります。まだ我らは負けていません」





「あれはつまらない戦いだったが、数はいたからそれなりに楽しめたよ。次の週には今度こそ反政府軍を根絶やしにしたがね♪ああ。逃げ出した敵の別の基地を衛星で捕捉して、そこに我が祖国の戦車と戦闘機をそれぞれ50くらい送り込んだんだ。包囲してから2時間で制圧して、カザフの内戦は終結したよ。では次は君の武勇伝を聞きたいね、イタリアンマフィアのボス?」

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― 新着の感想 ―
[一言] 離陸前と戦闘中の描写が的確で良かったです。 あと、ちょくちょく出てくるロシア語が凄いと思いました。ロシア語全然ダメな僕からすると本当にうらやましい!!
[良い点] いや~スピンオフ作品書き上げて頂き、ありがとうございます。 ウィキペディアが、かなりダメなキャラですね(^_^;) 私もここまで、ダメキャラになるとは思っていませんでした(爆)(笑) そし…
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