ドッチボール
地面を蹴る音が、揺れとともに体に直接響く。
体育館に座っている少女は、汗を拭きながら、すっと立ち上がり、体育館の開け放されたドアの前に立った。
風が少女の髪を揺らし、少女の火照った体を冷やしていく。
五時間目の体育の時間。
体育館の中央では、ドッチボールの試合が行われていた。
四チームに分けられ、総当たりの試合をしているため、二チームはコートの周りで観戦している状態だ。
ほとんどの人が、コートの近くで座り込み、試合を観戦している中、少女は少し外れた体育館のドアのところで、一人立っていた。
「あ!」
コートの端の人を狙おうとして、反れたボールが、少女に向かってくる。
開いているドアから外に飛び出しそうなボールを、少女はとっさに手で止めて、ボールを掴む。
体育館全体が湧く。少女の活躍にみなが野次を飛ばした。
「ありがとう!」
外野にいた人が、少女に近寄り笑みを浮かべる。
少女も笑みを浮かべながら、ボールを投げて渡した。
ボールを渡してから、ちらりと横目で、体育館の同じ壁際にある、もう一つのドアの方を見る。
一人の少年が、じっと試合を観戦していた。
少女がボールを止めたとき、少年の視線がどこにあったかまでは分からない。
少年が、時折、隣にいる少女と笑顔で会話をしているのが見える。
隣にいる少女は友人であり、そして、その少年を想っている。
少女はタオルで汗をぬぐいながら、友人と少年の会話するようすを、じっと見つめていた。
ふと少女は力が抜けたように、空いているドアをふさぐように座り込む。
ボールが動くたびに、地面が揺れる。
少年の視線が動くたびに、心が揺れるのを、少女は感じずにはいられなかった。
どうして気づいてしまったのだろう、と少女は思う。
ボールがどちら側のコートも、あるいは、内野も外野も移動するように、心はいつだってふらふらと移動している。
ボールが受け止められて、自分の陣地にいることに気づかなければ、まだまだ移動できたというのに。
自分の陣地にボールがあるというだけで、みな、安心して足を止める。
足を止めるから、掬われるのだ。
敵の陣地にボールが渡った時に。
苦しい、と少女は思った。気付かなければ、ボールにも、敵にさえも、気付かなければ、少女は無邪気にボールと戯れていられたというのに。
どうして気付いてしまったのだろうか。どうして、敵の宣戦布告を、おとなしく聞いてしまったというのか、少女にはもはやわからなかった。
ボールは永遠にとどまることをしない。いつだって移りかわり、どうやってか、陣を移っていく。
同じ陣にいたとしても、外野と内野でも行きかう。
止まることなんんて、きっとない。
少女はふと、考えた。
ボールが少年であるならば、敵陣は、きっと友人だろう。
それならば、少女はもう一度ボールが回ってくるのを待てばよいというのだろうか。
「終了!」
教師が叫ぶと同時に、笛の音が聞こえた。
少年が、友人に手を差し伸べ、そして、友人を立たせた。
ボールは敵陣に渡ったまま。
試合終了だ。
高校生、いや、中学生とかかな。
青春の一ページを描きたかったという。




