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短編

ドッチボール

作者: 如月あい
掲載日:2012/09/08

 地面を蹴る音が、揺れとともに体に直接響く。

 体育館に座っている少女は、汗を拭きながら、すっと立ち上がり、体育館の開け放されたドアの前に立った。

 風が少女の髪を揺らし、少女の火照った体を冷やしていく。

 五時間目の体育の時間。

 体育館の中央では、ドッチボールの試合が行われていた。

 四チームに分けられ、総当たりの試合をしているため、二チームはコートの周りで観戦している状態だ。

 ほとんどの人が、コートの近くで座り込み、試合を観戦している中、少女は少し外れた体育館のドアのところで、一人立っていた。

「あ!」

 コートの端の人を狙おうとして、反れたボールが、少女に向かってくる。

 開いているドアから外に飛び出しそうなボールを、少女はとっさに手で止めて、ボールを掴む。

 体育館全体が湧く。少女の活躍にみなが野次を飛ばした。

「ありがとう!」

 外野にいた人が、少女に近寄り笑みを浮かべる。

 少女も笑みを浮かべながら、ボールを投げて渡した。

 ボールを渡してから、ちらりと横目で、体育館の同じ壁際にある、もう一つのドアの方を見る。

 一人の少年が、じっと試合を観戦していた。

 少女がボールを止めたとき、少年の視線がどこにあったかまでは分からない。

 少年が、時折、隣にいる少女と笑顔で会話をしているのが見える。

 隣にいる少女は友人であり、そして、その少年を想っている。

 少女はタオルで汗をぬぐいながら、友人と少年の会話するようすを、じっと見つめていた。

 ふと少女は力が抜けたように、空いているドアをふさぐように座り込む。

 ボールが動くたびに、地面が揺れる。

 少年の視線が動くたびに、心が揺れるのを、少女は感じずにはいられなかった。

 どうして気づいてしまったのだろう、と少女は思う。

 ボールがどちら側のコートも、あるいは、内野も外野も移動するように、心はいつだってふらふらと移動している。

 ボールが受け止められて、自分の陣地にいることに気づかなければ、まだまだ移動できたというのに。

 自分の陣地にボールがあるというだけで、みな、安心して足を止める。

 足を止めるから、掬われるのだ。

 敵の陣地にボールが渡った時に。

 苦しい、と少女は思った。気付かなければ、ボールにも、敵にさえも、気付かなければ、少女は無邪気にボールと戯れていられたというのに。

 どうして気付いてしまったのだろうか。どうして、敵の宣戦布告を、おとなしく聞いてしまったというのか、少女にはもはやわからなかった。

 ボールは永遠にとどまることをしない。いつだって移りかわり、どうやってか、陣を移っていく。

 同じ陣にいたとしても、外野と内野でも行きかう。

 止まることなんんて、きっとない。

 少女はふと、考えた。

 ボールが少年であるならば、敵陣は、きっと友人だろう。

 それならば、少女はもう一度ボールが回ってくるのを待てばよいというのだろうか。

 「終了!」

 教師が叫ぶと同時に、笛の音が聞こえた。

 少年が、友人に手を差し伸べ、そして、友人を立たせた。

 ボールは敵陣に渡ったまま。


 試合終了だ。


高校生、いや、中学生とかかな。

青春の一ページを描きたかったという。





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― 新着の感想 ―
[一言] 他には例を観ない発想をもつ如月様の作ったお話の展開に驚かされました。 まったく関連性のないドッジボールと恋愛が予想外にリンクしていて、表現された揺れる心の心境が驚く程に分かりやすかったです…
[一言] はじめまして(・∀・)♪ 読ませていただきました* とても面白かったです\(^O^)/ これからも頑張ってください(*^-^*)
2012/09/08 11:01 退会済み
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