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辺境令嬢輿入物語  作者: ムク文鳥
アマロー男爵領編
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06-宰相補

「カノルドス王国宰相補を務めさせていただいております、ケイル・クーゼルガンです。以後、お見知りおきを」


 そう言って優雅に頭を下げたのは、「紅雀の巣箱」亭にいた三人の内の一人、薄茶の髪に青い眼の青年、ケイルだった。


 場所はアマロー男爵邸の居間。あのアルマン子爵との一件があった場所。時間はあれから三日が経過していた。

 今この場に居合わせているのは、ケイルとアマロー男爵、そしてミフィシーリア。

 ジェイクとコトリは、アルマン子爵一行を王都へと連行するため、昨日アマロー男爵領を立った。その際、コトリは何度もミフィシーリアへと振り返り、姿が見えなくなるまで手を振りっぱなしだった。

 ちなみに、あの時ジェイクの殺気にアマロー邸を飛び出したアルマン子爵の使用人たちだが、彼らはアマロー邸の外で控えていたケイルに全員取り押さえられ、子爵と共に連行中である。


「こちらこそ、よしなに。クーゼルガン伯」


 コトリとの別れを思い返していたミフィシーリアは、隣に座る父が立ち上がって頭を下げたのに気づき、慌てて自分も立ち上がって頭を下げる。


「ミフィシーリア嬢。市井の学者などと身分を偽って申し訳ありません」

「いいえ、気になさらないでください。クーゼルガン伯もお役目だったのでしょう?」

「そう言っていただけると助かります」


 改めて腰を下ろしたケイルは、謝罪の言葉をミフィシーリアに述べると、アマロー男爵へと向き直る。


「国王陛下の命により、かねてからアルマン子爵の周囲を洗っておりました。子爵が国に収めていた税などの収入の記録と、子爵自身の金回りに明らかな食い違いが随分前から報告されていまして。内偵を進めていたのです」

「そうだったのですか。しかし、『国王陛下の両腕』とも言われるクーゼルガン伯とキルガス伯のお二人を動かすとは、陛下は余程アルマン子爵の動向に気を配われていたようですな」



 ケイル・クーゼルガンとジェイク・キルガス。

 二人は幼馴染であったユイシークが『カノルドス解放軍』を立ち上げた際、その初期から行動を共にしたという。

 剣の腕に優れ、常にユイシークと共に戦場の最前線を駆け抜けたジェイク。

 そして頭脳に秀で、様々な作戦を立案、成功させた軍師的な存在のケイル。

 二人はユイシークと共に、常に『カノルドス解放軍』の先頭に立ち、『カノルドス解放軍』を勝利に導いてきた。

 大剣を手に、群がる敵をなぎ倒しユイシークの傍を片時も離れずに戦場に有り続けた『大剣』のジェイク。

 絶対的な窮地に陥った『カノルドス解放軍』を、まるで魔法でも使ったのかのように、その優れた頭脳で逆転勝利に導いた『魔術師』ケイル。

 二人は『解放戦争』に勝利した後、伯爵に任ぜられ、近衛隊の隊長と宰相補という重職に就き、現在では『国王陛下の両腕』と呼ばれるほどの存在になっていた。

 周囲は二人が将来的には政治と軍事の最高峰まで登りつめるだろうと目しており、新体制となった王国の中心部との繋がりを求める者たちから、色々な意味で注目されている。

 そして、今回の事件の一連の真相を領主であるアマロー男爵に説明するため、ケイルのみが一人残り、今男爵と会談中なのである。


「ですが、今回の件、男爵にも責はあります。不作による食糧の不足を、隣接する領主に軽々しく相談するのは些か問題です。直接王国に相談していただければ、税の一時的な軽減など、いくらでも対処できたのですから」


 隣接する領主が善良なら何の問題もないが、今回は相談した相手が悪かった。

 アマロー男爵としても、もう少しでアルマン子爵に騙され、愛娘を奴隷として奪われるところだったのだ。

 確かに子爵が何らかの形で儲けているとは思っていたが、まさか奴隷の密売に手を出しているとは思いもしなかった。

 今後誰かに何かを相談する際は、もう少し相手の事を調べてからにしようと心に刻むアマロー男爵である。


「全く、面目次第もありません。かくなる上は、如何様な処罰も受けましょう」

「いいえ、その心配は無用です。今回、アマロー男爵にもご迷惑をおかけした事ですし」

「迷惑……ですか?」


 迷惑と言われても心当たりのない男爵。はて、と首を傾げながら、隣に座る娘と視線を合わせる。


「……もしや……コトリが何か関係しているのですか?」


 ミフィシーリアのその問いに、ケイルは穏やかに首を横に振る。


「実は、子爵がこのアマロー男爵領に入る一日前、子爵の息のかかった者がこの領内に入り込みまして」

「子爵の配下が?」

「彼らは予めこのアマロー男爵領に入り込み、商品となる奴隷を領民の中から数人誘拐するつもりのようでした」

「なんと……っ!?」

「そ、そんな……っ!!」


 絶句する男爵親子に、ケイルはどこか微笑ましげな微笑を浮かべると更に続ける。


「その者たちは私とジェイクが取り押さえましたが……その際、連中が暴れたおかげで、「紅雀の巣箱」亭に少々被害が出まして。もちろん、その被害については国で補償しますので、男爵を通じて補償額の請求を願います。男爵の領地と領民にご迷惑をおかけして申し訳ありません」

「とんでもない。こちらこそ様々な配慮痛み入ります」


 宰相補と父の政治的な会話を、ミフィシーリアは黙って聞いていた。

 だが、彼女の胸中を占める事は、たった一つ。

 もちろんそれは新たに友人となった彼女の事。

 そんなミフィシーリアの心中を察したのか、ケイルが彼女へと視線を向けた。


「ミフィシーリア嬢。何か私に尋ねたい事がおありですね?」


 直球でそう尋ねられたミフィシーリアは、覚悟を決めて目の前の宰相補に尋ねる。


「はい、クーゼルガン伯。無礼を承知で率直に伺います。コトリは……彼女は何者なのですか?」


 「治癒」と「雷」の異能を持つ、どこか浮き世離れした銀髪の少女。

 「治癒」と「雷」の異能を持つ者。それはカノルドス王国においてたった一人を指す。

 国王ユイシーク・アーザミルド・カノルドス。

 共に「治癒」と「雷」の異能を持つコトリと国王の間には、何らかの繋がりがあると考えるのが普通であろう。

 力の籠った視線で、ケイルを見つめるミフィシーリア。対するケイルも冷ややかな視線でミフィシーリアを見つめ返す。


「それを聞いてどうしますか?」

「別にどうという事はありません。ただ、友人として気になっただけです」

「あなたがコトリを友人として思っているなら、直接彼女に聞けばよいのでは?」


 そう聞き返されて言葉を失う。ケイルの言葉通り、確かにコトリを友人だと思うのなら、直接彼女に聞けばいいのだ。もっとも、その質問に彼女が正直に答えてくれるかは別問題だが。

 心の中で様々な思いが浮かんでは消えるミフィシーリアを、ケイルはその冷たい視線でずっと見据える。

 そしてミフィシーリアが続けて何かを言おうとするより早く、ケイルは冷めた表情のまま衝撃的な事実を彼女に告げた。


「率直に言いましょう。コトリは……彼女は人間ではありません」

「え……っ!?」

「コトリは作られた存在なのです」

「作られた……存在……?」


 ケイルの言葉が理解できず、ただ繰り返すだけのミフィシーリア。

 コトリが人間でないとは? しかも作られた存在とは? コトリは一体何だというのだろう。

 ミフィシーリアが内心で混乱しているのを悟ったケイルだが、余計な事は何も言わず淡々と事実を告げる。


「彼女は、異能によって作られた存在……我々の仲間に、疑似的な生物を生み出す異能を持った者がいます。我々はその異能の事を「擬似生命」の異能、そしてコトリたち作られたものの事を「使つかい」と呼んでいます」

「彼女……たち?」

「ええ、異能によって作りだされたものはコトリ以外にもいるのです。もっとも、人の言葉を話し、あそこまで自由に振る舞うのは彼女だけですが」


 異能によって作りだされた擬似生命体。それがコトリなのだとケイルは言う。


「本来なら彼女も他の「使」同様、人の言葉を理解する事はできても、自発的な行動を取ったりする事はないと思われていたのですが……どうやら「親」の異能が強過ぎて、その影響を受けたようでして」

「「親」の異能……それはまさか──?」

「はい。ミフィシーリア嬢が考えている通り。コトリの「親」はユイシーク・アーザミルド・カノルドス陛下です。彼女は陛下の「使」なのですよ」


 ユイシークの「使」であるコトリ。彼女はいわばユイシークの一部ともいえる存在であり、ユイシークとの間に存在する「絆」で繋がっていて感覚の共有さえできるのだという。

 そのため、限定的ではあるが「親」であるユイシークの異能を使う事ができるのだ。

 もっとも、「親」の異能を使える事が確認されているのはコトリのみであり、他の「使」たちは、例え「親」に異能があってもその力を使う事はできない。感覚の共有は稀に他の「使」でも確認されているが。


「コトリは作られた存在。そして彼女は陛下の一部でもある。敢えて悪い言葉を使うなら、彼女は陛下の所有物とも言える──この事実を知って、あなたはどうしますか?」

「え……?」

「コトリが人間ではない、と知った上で、ミフィシーリア嬢はそれでもコトリを友人だと仰しゃいますか?」


 ケイルの視線が、冷たくミフィシーリアを貫く。

 その視線に晒され、最初こそ混乱していたミフィシーリアの思考は、その視線の冷たさに徐々に落ちついていく。

 そして。

 そしてミフィシーリアの心の中で一つの事実ができあがる。

 もっとも彼女にとって、それはもうとっくにできあがっていた事を、改めて確認しただけに過ぎないのだが。

 だから、ミフィシーリアは告げる。

 ケイルの冷たい視線に怖じ気づくこともなく、心の中にあった真実のみを。


「はい、クーゼルガン伯。例え何者だろうが、コトリは私の友人です。その事実だけは、たとえあなたであろうが陛下であろうが、覆す事はできません」


 相手は自分よりも爵位が上の伯爵。しかも将来は国の内政を一手に引き受けるようになると噂される人物。しかも陛下の信頼も厚い片腕的な存在。

 そんな人物に対し、一介の男爵令嬢でしかないミフィシーリアは一歩も怯む事なく、心の中にある、いや、コトリとの間に存在する二人の絆を信じて告げた。

 そんなミフィシーリアを探るかのようにじっと見つめるケイル。事実、彼はミフィシーリアの言葉の真偽を探っていたのだろう。

 どれぐらいの間、二人で見つめ合っていただろう。

 やがてケイルの冷たい表情が、すっと温かいそれにとって変わった。


「どうやらあなたは、陛下の言葉を告げるに相応しい人物のようですね」

「は? どういう意味でしょう?」

「陛下はコトリを通して、あなたのコトリへの接し方に興味を持たれました。そして本日、私がこの場に窺ったのは、先日の事件の報告の他にもう一つありました」


 ミフィシーリアは、ケイルの話が急にわけの判らない事になって戸惑う事しかできない。対してアマロー男爵は、何となくケイルが何を言いたいのか察し、まさか、いやそんな、と自分に必死に言い聞かせる。

 そしてついに、ケイルの口からミフィシーリアの運命を大きく変える一言が零れ落ちた。


「陛下は私に仰しゃられました。もしミフィシーリア嬢が、コトリが人ではないと知っても、躊躇なくコトリを友と呼べるのなら。その時はあなたを王都に連れて帰れ、と」

「…………はい……?」

「つまりですね、ミフィシーリア嬢。陛下はあなたの後宮入りを望んでおられます。あなたは側妃として望まれているのです」


 ケイルの言っている事を理解した瞬間、ミフィシーリアはそのあまりの驚愕の内容に、大きく目を見開き。

 そしてその隣では父であるアマロー男爵が、あまりの事にくたりと気を失って倒れた。

 とんでもない事になっています。


 前回、お気に入り登録が25を超えた、と言いました。しかし、あれからほんの数日でその倍の50を超えてしまいました。アクセス数も総合PVが13000を突破し、ユニークの方も2500人を超えています。


 これらは一重にここに訪れてくださる皆様のおかげと感謝する事しきりです。

 ありがとうございます。これからもがんばります。


 今後ともよろしくお願いします。


 しかし、本当にどこからこれだけの人が来てくれるんだろう? ここに来る切っ掛けとなった理由を誰か教えてください。

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