03-魔獣狩りの少女
な、なんかアクセス数が凄い事になってる……
考えられないようなアクセス数に、焦った気分になって急いで執筆。ただ、この執筆ペースがいつまで続くかは判りません。
じっと見つめる視線の先、地面には突っ伏したまま動かない銀髪ツインテールの少女。
しばらくして少女は地面から顔を上げた。その少女の視線と、ぽかんと少女を見つめていたミフィシーリアの視線が再び重なる。
「──────うみっ!!」
何やら奇妙な声と共に、がばっと起き上がった少女は、そのまま後ろを振り返って脱兎の如く駆け出す。
「あ、待って下さい!」
「みゃっ!?」
思わず呼び止めるミフィシーリア。そんな彼女の言葉に反応して、魔獣狩りの少女は急停止をかけた。
ミフィシーリアの方へ振り返り、不思議そうにこくんと首を傾げる少女。
どこか小動物じみたその仕草に、思わず微笑みを浮かべながらミフィシーリアは少女へと歩み寄った。
「怪我してますよ……おでこのところ」
「え、本当っ!?」
両手を額に当てる少女。ミフィシーリアに言われてようやく傷みを覚えたのか、じわじわとその金の瞳に涙が浮かぶ。
「はい、どうぞ。えっと──コトリ……さん……でしたね?」
そう言ってミフィシーリアが少女──コトリに差し出したのはハンカチ。
コトリはそのハンカチとミフィシーリアを何度も交互に見比べ、おずおずとハンカチに手を伸ばす。
「あ……ありがと」
「いいえ、たいした事はしていません」
「でも……」
「はい?」
「コトリ、「治癒」の異能が使えるもん。これは要らない」
と、コトリはハンカチをミフィシーリアへと返そうとする。
「確かに傷は自分で癒せるかもしれません……でも、こちらには必要だと思いますよ?」
ミフィシーリアは改めて、ハンカチをそっとコトリの瞳の下に優しく押し当てて涙を拭う。
しばらくミフィシーリアにされるがままだったコトリは、自分が何をされているのかようやく理解し、顔を真っ赤に染めてばばっとミフィシーリアから離れる。
「どうかしましたか?」
「だって……パパやママ、アーシィたち以外にコトリにこんな事する人なんていないもの……」
おろおろとするコトリに、改めて微笑みかけるミフィシーリア。
彼女には、目の前でおろおろするコトリが、なぜか幼い子供のように見えた。
だからだろうか。深く考えもせず次の言葉が滑り出たのは。
「コトリさんさえ良かったら、わたしの家でお茶でも飲んでいきませんか?」
と、傍らに見える自分の屋敷を指差しながら。
「お帰りなさい、お嬢様……あら、お客様ですか?」
コトリを連れたミフィシーリアが屋敷に入ると、屋敷を掃除していたメリアがその手を止めて出迎えた。
そしてコトリはメリアの姿を目にした途端、さっとミフィシーリアの背中に隠れてしまう。
「どうしたんですか? コトリさん」
「…………にゃぁ……」
ミフィシーリアの背後から顔だけ出して、恐る恐るメリアの方を見るコトリ。そんなコトリの様子に、メリアの方が対処に困ってしまう。
「私の部屋に行きましょうか、コトリさん。メリア、二人分のお茶の用意をお願いします」
「はい。承知しました、お嬢様」
ミフィシーリアはコトリが人見知りが激しいのだろうと判断し、自分の部屋へ連れて行く事にする。
さして広くもないアマロー家の屋敷の事、ミフィシーリアの部屋にはすぐに到着した。
「ここなら誰も来ませんよ?」
「………………本当?」
半信半疑のコトリの様子に、ミフィシーリアは笑みを浮かべて自室のドアを開ける。
「知らない人が怖いのですか?」
「………………うん……」
部屋に入って、その中を珍しそうにきょろきょろと眺める答えるコトリ。
どうやら本当に人見知りが激しいようだ。
だが、ミフィシーリアには一つ疑問がある。
「それでは、どうして私の後を追けて来たのです?」
コトリからすれば、ミフィシーリアとて十分「知らない人」のはず。それなのに、なぜ彼女は自分の後を追けてきたのだろう。
「……んー、自分でもよく判らない……けど……」
部屋のソファに腰を下ろし、腕を組んで考え込むコトリ。
ミフィシーリアもコトリの対面のソファに座り、じっとコトリの言葉を待つ。
「なんか、あんた……えっと、ミフィシーリア……さん? って、アーシィやサリィみたいな感じがして……その……どうしてだろ?」
自分で口にしながら、自分でもよく判っていない様子のコトリ。
「あ、思い出したっ!!」
「何を思い出したんですか?」
「うん! パパが言っての! コトリがこういう気持ちになった時、どうすればいいのかを!」
魔獣狩りというにはあまりにもらしくないコトリ。
外見年齢は自分と同じくらいだが、その精神年齢はもっとずっと幼い少女のような彼女。そのコトリの父親が彼女にどんな事を言ったのだろう。
と、改めて彼女の言葉を待つミフィシーリアに、コトリは思いもかけなかった一言を言い放った。
「コトリと友達になってください!」
「は……はい?」
ずいっとその華奢な右手をミフィシーリアに向かって伸ばすコトリ。その表情は至って真剣そのもの。
「あなたのお父様は、一体どのように仰しゃったのです?」
「えっとね? もし、コトリがアーシィやサリィと一緒にいる時と同じような気持ちになった人がいたら、その人はきっといい人だから友達になっておけって。それがコトリにとって、とても良い事だから……って、パパが言ったの」
どうやら自分はコトリに「いい人」認定を受けたらしい。
なぜそんな認定を受けたのかよく判らない。だが、ミフィシーリアも初めて会った時からどこか目が離せないこの少女の事が好きになりつつある自分に気づいていた。
だからミフィシーリアは、いまだに伸ばされたままのコトリの右手をそっと包み込むように両手で握り締める。
「ええ。私で良ければ喜んで。私をあなたのお友達の一人に加えてください」
そう言ってミフィシーリアが微笑むと、ことりは弾けたような笑顔を浮かべた。
「えっ!? ミフィ結婚するのっ!?」
「ええ……」
友達になったんだから、わたしの事はコトリって呼んでね、という少女の願いに、ならば自分の事はミフィと呼んで欲しいとミフィシーリアは伝えた。
互いにそれらの事を了承し合い、いつの間にか自然とそう呼び合う二人。端から見れば、まるで長年の友人同士のような光景がそこにあった。
メリアが持って来てくれた紅茶を飲みつつ、互いの事を話し合った。そして三日後にミフィシーリアが、アルマン子爵家に嫁ぐ事に話は及んだ。
「おめでとう! ミフィ!」
「あ……ありがとうございます……」
我が事のように嬉しそうなコトリと、気落ちしたような表情のミフィシーリア。いくらコトリが対人感情に疎いと言っても、これはさすがに気になった。
「どうしたの? なんか、嬉しそうじゃないよ?」
「ええ……正直言って、戸惑っています」
「どうして? ママはいつもパパと結婚したいって言っているよ? アーシィやサリィだって、パパと結婚したいって言ってる。結婚するって嬉しい事じゃないの?」
「コトリのお母様がお父様と結婚したい……?」
ここでミフィシーリアは気づく。
おそらくコトリの母親はどこかの貴族か裕福な商人の愛人であり、コトリの母親以外にも複数の愛人が存在するのだろう。
なんて複雑な家庭環境。そんな環境の中で、コトリはよくもこんなに素直な少女に育ったものだ、とミフィシーリアは感心する。
そして同時に、彼女の複雑な家庭環境に関しては、いくら友人になったからといって、おいそれと言及するものじゃない、と心の中で決心した。
「なんせ、年の離れた、顔も合わせた事がない男性との結婚なので……」
「えっ!? 会った事もない人と結婚するのっ!?」
「ええ。まあ、貴族の間ではままある事です」
驚いて自分をじっと見つめるコトリに、ミフィシーリアは意識して笑顔を浮かべながら紅茶を口にする。
「ねえ……ミフィが結婚しちゃったら……もう……会えない……?」
「そうですね……アルマン子爵次第ですが、ひょっとしたら会えないかもしれません」
「そんなぁ……折角友達になったのに……」
「ごめんなさい。でも手紙なら大丈夫だと思います。コトリは普段どこに住んでいるのですか?」
「コトリの家は王都にあるの! 王都の真ん中! とっても大きいんだからっ!!」
ぴょんぴょんと銀のツインテールを揺らし、ややオーバーアクションで説明するコトリ。
彼女の父親はかなり裕福なのだろう。でなければ王都の中心部近くに大きな屋敷など持てる筈がない。
それにコトリの指先には荒れた様子がない。それはすなわち、普段から彼女が生活雑事に手を出していない事を現わしている。
常に使用人を雇い、生活の雑事全てを彼らに任せている。そうでなければ彼女のような綺麗な指先でいられる筈がない。
貴族ではありながら身のまわりの生活雑事を、全部ではないものの自分で行うミフィシーリアの指先より、コトリの指先はよほど綺麗だった。
きっとコトリは父親と一緒に暮らしているのだろう。
ひょっとすると、コトリは上級貴族の令嬢の可能性さえある。
上級貴族の令嬢。それもよほど父親に大切にされ、外界との交流も殆どないような状態で育った、言わば深窓の令嬢。
そう考えれば、彼女の外見と精神年齢の差の説明もつく。同時に、彼女が真っ直ぐで素直な性格なのも。
ケイルと名乗った男性は自分が学者であり、残る二人は護衛だと言っていた。
だが、本当は男性二人の方が彼女の護衛なのではないか。コトリの身分を誤魔化すため、敢えて彼女の方を護衛だという事にしているのではないだろうか。ミフィシーリアにはそう思えてならなかった。
なぜ貴族の令嬢がこんな田舎にいるのか判らない。だけど、コトリが王都の中心部に屋敷を構えるほどの家柄の令嬢だとするならば。
コトリと初めて出会った時の疑問が再びミフィシーリアの脳裏を掠めていく。
──即ち、やはり彼女が「癒し姫」アーシア・ミセナル姫ではないか、という疑問が。
前書きでも触れましたが、アクセス数が凄いです。
連載開始わずか二日で総合PVが3000を超え、総合ユニークが600人を超えました。しかもお気に入り登録が6件も!
きっと有名な人のところでは、もっとアクセス数が伸びるのでしょうが、私のような無名の人間のところに、これだけの数の方々が来ていただけるのは快挙としかいいようがありません。
ありがとうございます。感謝いたします。今後もよろしくお願いします。
しかし、皆さんどこからこの『辺境令嬢』にやってくるんだろう? 誰か教えてください。いや、ホント。




