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辺境令嬢輿入物語  作者: ムク文鳥
王都編
27/74

19-側妃たちのお茶会-1

 えー、今回、ちょっとばかり生々しい表現があります。国王と側妃たちの「愛の肉体言語」についてです。

 ご注意ください。

 ※上記についてご指摘をいただき、内容に修正を加えました。

 後宮騎士隊の隊長であるマイリーが、実は第三側妃だと判明した日から数日後。

 ミフィシーリアたちは今、王城の中庭でお茶会を開いていた。

 中庭の一角にある東屋を占領し、香り高いお茶と香しいお茶請けの焼菓子を楽しむミフィシーリアたち。

 今この場に集っているのはアーシア、サリナ、マイリー、リーナ、そしてミフィシーリア。

 後宮の五人の側妃全員が一同に会して、一見優雅にお茶を楽しむ姿は、中庭に居合わせた者たちの目を嫌でも引いた。

 ちなみに、メリアを始めとした数人の侍女もこの場にいるものの、側妃たちを熱心に見詰める者たちからすれば、彼女たちは背景と大差ない。


「おお、側妃様方が一同に会しておられる……」

「うむ。これは思わぬ目の保養ですな。ですが……」

「ん? どうされた?」

「いや、五人目の方は……彼女は何者でしょうか?」


 現時点で正式に側妃として発表されていないミフィシーリアを知る者は少ない。

 もちろん、国王が新たな側妃を後宮に迎え入れた事は既に知れ渡っており、そのお披露目の招待状も各貴族の元に徐々に届き始めている。

 だがそれは、「国王が新たな側妃を迎える」という情報を得ているのであって、それがどこの誰かまで知っている者は極少数のみ。

 しかし、新たな側妃が選ばれた事を知り得てさえいれば、そこからミフィシーリアの事を推測するのは左程難しくはないだろう。


「では、あの方が五人目の側妃様であられると?」

「おそらくは。でなければ、四人の側妃様方と、ああも親しくは振る舞えまい」

「なるほど。ではやはりあの方が五人目……しかし……」

「ああ……」

「他の四方に比べると、あの方は何と言うかこう……」

「……地味……だな……」

「……ええ、地味、ですな……」


 居合わせた者たちの話す声は、東屋のミフィシーリアたちまでは届かなかったものの、彼女たちから少し離れた所で控えていたメリアには聞こえてしまった。

 身内の欲目を差し引いても、ミフィシーリアの容姿は十分整っているとメリアは思う。

 だがしかし。

 今、この場にいる他の四人と比べると、どうしてもミフィシーリアの容姿は劣って見えてしまうのも事実。


(というより、この場合は比べる相手が悪すぎよねぇ……)


 と内心で思いつつ、メリアは無礼にならない程度に四人の側妃たちを見回す。

 天真爛漫で可憐なアーシア。

 高貴でありながらも高飛車なところのないサリナ。

 爽やかな春風のようなマイリー。

 知的な大人の魅力を振りまくリーナ。

 四人の側妃たちは、まさにこの国最高の美姫たちと言っても過言ではないのだから。



 慌てたように王城の中庭に足を踏み入れた、数人の若い貴族の令息たちの眼が中庭の一角へと向けられる。

 そしてそこに期待した通りの光景があると知り、彼らは揃って恍惚な表情を浮かべた。


「……本当だったんだ……」

「ああ……本当に今日は側妃様方が揃っていらっしゃる」

「お、おい、おまえ、声かけてみろよっ!!」

「ば、馬鹿言えっ!! そんな畏れ多い事できるかよっ!!」

「なんだよ、情けないな」

「な、ならおまえが声かければいいだろっ!?」

「い、いや……それは……」

「おまえだって同じじゃないか!」

「しかし、一体何を話しておられるのだろうか……?」

「きっと優雅で清らかな会話がなされているのだろう」

「ああ……きっとそうに違いない」


 と、彼らはしばらく熱に浮かれたように、じっと側妃たちを眺め続けたのだった。



 普段、王城の中庭に立ち入る者は多い。

 しかし、今日は特に人が多いようにミフィシーリアは感じた。

 そしてその理由が自分たち──より正確には自分以外の四人の側妃たち──にある事も、ミフィシーリアは理解していた。

 今も尚、自分たちに集まる視線の数々。

 熱を持ったようなもの、尊敬と畏怖が込められたもの、好奇心が見え見えのもの、そして嫉妬を含んだ冷たいもの。

 そして同時に、視線だけではなく様々な囁きが交わされている事も。

 現に先程からどこかの貴族や数人の貴族の令息らしき年若い青年たちが、自分たちに向けて熱い視線を向けながら何かを言い交わしているのにも気づいていた。

 距離の関係でその内容までは聞き取る事はできない。しかし、それは幸いだっただろう。

 ミフィシーリアにとっても。そして彼女たちを見詰める貴族や令息たちにとっても。

 なぜなら、ミフィシーリアを除いた四人の側妃たちは、こんな会話をしていたのだから。



「ねえ? 最近、シィくんってば夜、ちょっと激しくない?」


 やや頬を赤らめながら。アーシアが告げた言葉に、ミフィシーリアを除いた三人が同意を示して首を縦に振った。


「そうですわね。確かにここ最近、シークさんはとっても激しいですわ。昨夜も……」


 アーシアに同意したサリナが、昨夜のユイシークとの情事を思い出したのか、頬を染めながらうっとりとした表情で呟いた。どうやら夕べユイシークの相手を務めたのは彼女らしい。


「そう言えばそうね。確かにここのところちょっと激しいかしら?」

「そうですねぇ。私もそう思います」


 全然優雅でも清らかでもない会話だった。

 それどころか生々し過ぎて、ミフィシーリアにはとてもついていけないような内容だった。

 顔を真っ赤にしてあうあうと呟きながら視線を泳がせるミフィシーリアをよそに、四人の側妃たちの「愛の肉体言語」についての会話は尚も続く。


「相変わらずあいつってば、夜は強いわよね。この前なんて殆ど朝まで眠らせて貰えなかったわ」

「ええ、確かに最近は特にそう感じますわね」

「私もこの前、ようやく解放されたと思ったら空が白み始めていました」

「ボクなんて、次の朝に侍女が起こしに来ても解放して貰えなかったよ」

「あ、ああああああ、朝までっ!?」

「ああ、それも時々あるわね……って、ちょっと、ミフィ?」


 突然素っ頓狂な声を上げたミフィシーリアにリーナが視線を向けた。

 尤も、それは非難めいたものではなく、優しく柔らかなものだったが。


「あ、も、申し訳ありませんっ!! そ、想像もできないようなお話の内容に思わず……」


 真っ赤になってしゅんと俯くミフィシーリアに、リーナ以外の三人もまた気遣わしげな眼を向けた。


「人事ではありませんわよ、ミフィさん?」

「ええ、そうですよ、ミフィ」

「遠からずミフィちゃんも経験しなくちゃいけない事だしね」


 最近、側妃たちが自分を親しげにミフィと呼んでくれる事が嬉しいミフィシーリア。

 だが、今だけはそれどころではなかった。

 「遠からず経験しなくちゃいけない」というアーシアの言葉が、ミフィシーリアの耳の中で何度も反芻していたからだ。


「あ、あの、アーシア様? 先程のお言葉はどういう──」


 この問いかけに答えたのは、アーシアではなくマイリーだった。


「あなたは側妃として後宮に来たのでしょう? 今はまだ正式な側妃ではないのでシークも夜にあなたの所を訪れたりしませんが、あなたが正式な側妃となった暁には、彼はあなたの元を訪れます。子を成すために」


 それが王と側妃の務めなのですから、と続けるマイリー。


「でも安心して。あいつもあなたにいきなり激しい事はしないわよ……たぶん……きっと……おそらく……」


 自分の言葉に自信がなくなったか、リーナの声は段々と小さくなっていった。


「り、リーナ様……」


 彼女のその様子に、不安が更に募ってくる。思わず他の側妃たちを見回して見れば、誰もがミフィシーリアと眼を合わせようとせずに視線を逸らせてしまう。

 そしてミフィシーリアの脳裏に、遠くない未来にユイシークと過ごす一夜が思い描かれる。

 灯りの量を調整したランプが照らす、薄暗い寝室の中で。

 互いに吐く息が感じられる程の距離で、じっと見つめ合う自分とユイシーク。

 やがて彼の腕が伸び、その指先が自分の纏っている夜着の合わせ目をそっと這い回り。

 そして緩められた夜着がすとんと床に落ちれば、残されたのは一糸纏わぬ自分の裸身。

 裸身となった自分をユイシークがそっと抱き寄せて。

 そして次に思い描くのは先程の側妃たちの言葉。

 夜が明けるまでずっと翻弄される自分自身を想像し──


「────────────はぅっ」


 ミフィシーリアは顔といわず全身を真っ赤にさせて、ぽてんと東屋のテーブルに突っ伏した。

 良く見れば、今にも頭の辺りから湯気が立ち上りそうだ。

 礼儀も作法もぶっ飛んで、はしたなくもテーブルに突っ伏すミフィシーリアを、他の側妃たちは微笑ましげに見詰める。


「大丈夫ですよ、ミフィ。何なら、私たちが乱入してお手伝いしても構いませんよ?」

「ま、マイリー様……っ!?」


 マイリーの言葉に思わず頭を上げるミフィシーリア。


「あ、あのあの、乱入とは……」

「言葉通りです。あたなとシークが夜を共にする時、私たちが突然雪崩れ込むのです」

「あら、それも面白そうですわね」

「さ、サリナ様まで……」


 見ればアーシアとリーナも満更ではなさそうだった。


「皆様、ご冗談ですよ……ね?」


 冗談だと思いたい。冗談だと言って欲しい。頼むから。

 そんな彼女の心境を余所に、少し厳しい声が突然サリナから飛んだ。


「──ところで、ミフィさん?」

「は、はい、何でしょうか、サリナ様?」


 じとっとした冷たい眼で見詰められ、ミフィシーリアの背中を冷たい何かが流れ落ちた。


「わたくし……いえ、わたくしたちは前々から言っていますわね?」


 更に増すサリナの迫力に、思わずたじろぐミフィシーリア。


「わたくしたちの事をいつまで他人行儀に様付けで呼ぶのです? わたくしたちの事は愛称で呼びなさいと、以前にも言った筈です」


 サリナの言葉に、アーシアたち三人も頷いている。


「で、ですが、私如きが皆様を愛称でお呼びするなど……」

「お黙りなさい!」


 ぴしゃりと遮られ、ミフィシーリアは思わず肩を竦める。


「ですが……」


 尚も言い募ろうとしたミフィシーリアを遮ったのはリーナだった。


「つまり、あなたは目上の私たちに対して失礼だから愛称では呼べないと言うのね?」

「は、はい……」

「なら、目上の者として……先任の側妃──第四側妃として第五側妃のミフィシーリア・アマローに命じます」


 凛としたリーナの声に、思わず背筋が伸びるミフィシーリア。


「以後、第一側妃から第四側妃の呼称に愛称を用いる事。重ねていいます。これは命令です」

「凄いよ! さすがリィだよ!」

「確かに命令ならミフィも逆らわないでしょう」

「そもそも本人がいいと言っているのです。断わる方が無礼というものでしてよ?」


 そして口々に愛称で呼んで欲しいとミフィシーリアに迫る四人の側妃たち。

 そんな側妃たちに対し、ミフィシーリアの出した結論は。


「……せ、せめて愛称に「さん」付けでお許し下さい……」


 という実にへたれた妥協案だった。

 恥ずかしそうに告げた彼女の様子に側妃たちは一度顔を見合わせると、くすくすと笑いながら彼女の提示した妥協案を受け入れた。

 その時ミフィシーリアは俯いていたので気づいていなかった。

 彼女を見る側妃たちの眼が、とても穏やかで嬉しそうなものであったことを。



 『辺境令嬢』更新しました。


 本来なら『怪獣咆哮』か『魔獣使い』の方が先なんですが、何となく書きたかったからこちらを先に。

 で、今回の主張。

 綺麗なお姉さんには綺麗な幻想を抱くのです。男という生き物は。


 それでは、次回もよろしくお願いします。

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