第八話「没落貴族の依頼(前編)」
お読みいただきありがとうございます!
第8話から、新たな展開が始まります。
リリア・フォン・シルバーレイク。
没落貴族の少女が、エドガーに助けを求めます。
父の冤罪を晴らしてほしい——
今回と次回は、前後編の連続回です。
リリアとの出会い、そして父の冤罪事件の真相——
じっくりとお楽しみください。
第八話「没落貴族の依頼(前編)」、どうぞ。
ある朝、一通の手紙が届いた。
セバスチャンが、銀色の封筒を持ってくる。
「若様、お手紙です」
「誰から?」
「差出人は——リリア・フォン・シルバーレイク様、とのことです」
シルバーレイク——聞いたことがある名前だ。
確か、没落した貴族の家——
俺は封筒を開ける。
中には、綺麗な文字で書かれた手紙。
『エドガー・クロウ様
初めてお便りいたします。
私は、リリア・フォン・シルバーレイクと申します。
あなたの推理の噂を、村の方々から聞きました。
論理で真実を見抜く——素晴らしいことだと思います。
実は、私には一つ、お願いがあります。
私の父は、三年前に冤罪で投獄されました。
商人殺害の容疑です。
真実魔法でも、父は「殺していない」と答えました。
ですが、状況証拠が揃っていたため、有罪となりました。
決闘裁判でも敗れ、今も獄中にあります。
父は、本当に無実なのです。
ですが、誰も信じてくれません。
あなたの推理なら——
父の無実を証明できるかもしれません。
どうか、お力をお貸しください。
近日中に、お伺いさせていただきます。
敬具
リリア・フォン・シルバーレイク』
俺は、手紙を読み終える。
冤罪——
真実魔法で「殺していない」と答えたのに、有罪——
これは、まさに推理が必要とされる問題だ。
*
二日後、リリアが訪ねてきた。
応接室で待っていると、セバスチャンが彼女を案内してくる。
扉が開く。
そして——
銀色の髪、青い瞳、華奢な体格——
若い女性が、深々と頭を下げた。
「初めまして、エドガー・クロウ様。リリアと申します」
声は、澄んでいて、だが少し震えている。
緊張しているのか。
「初めまして、リリア様。どうぞ、お座りください」
リリアは、椅子に座る。
だが、背筋を伸ばし、膝の上で手を組んでいる。
礼儀正しい——だが、緊張している。
「お手紙、拝見しました」
「ありがとうございます……」
「お父様の冤罪事件について、詳しくお聞かせください」
リリアは、小さく頷く。
「はい……」
*
リリアの話は、こうだった。
三年前、シルバーレイク家は子爵の家柄だった。
領地は小さいが、平和で豊かだった。
だが、ある日——
商人マーティンが、自宅で刺殺される事件が起きた。
マーティンは、リリアの父——ヴィクター・フォン・シルバーレイクと、土地取引で対立していた。
事件の前日、二人は激しく口論していた。
そして——
凶器の短剣から、ヴィクターの指紋が検出された。
「指紋?」
俺は尋ねる。
この世界にも、指紋鑑定があるのか。
「はい。魔法による鑑定です。指の痕跡を読み取る特殊な魔法があるそうです」
なるほど。
「それで、お父様は容疑者に」
「はい……でも、父は無実です。絶対に」
リリアの目に、涙が浮かぶ。
「真実魔法でも、父は『殺していない』と答えました」
「ですが、状況証拠が強く——」
「指紋、口論の目撃、アリバイなし——全てが父を指していました」
「そして、マーティンの息子が決闘裁判を申請しました」
「父は——剣が得意ではありません」
「敗れました」
リリアは、ハンカチで涙を拭う。
「家名は剥奪され、領地も失いました」
「今は、母と二人、小さな屋敷で暮らしています」
「父は、獄中です。刑期は十五年——」
俺は、黙って聞く。
冤罪——
真実魔法で無実が証明されたのに、状況証拠で有罪——
そして、決闘裁判で敗北——
これは、この世界の司法制度の問題だ。
だが——
もし、真犯人を見つけられれば。
もし、ヴィクターが陥れられたことを証明できれば——
「リリア様、お父様の無実を証明したいと思います」
リリアは、顔を上げる。
目を見開いて、俺を見る。
「本当、ですか……?」
「はい。ただし、約束はできません。事件から三年も経っています。証拠が残っているか——」
「それでも! どうか、お願いします!」
リリアは、立ち上がって深々と頭を下げる。
「父を——父を、助けてください」
*
俺は、その日のうちに調査を始めた。
まず、バーナード隊長に相談する。
「三年前のシルバーレイク家の事件、覚えていますか?」
「ああ、覚えていますよ。商人殺害の事件でしたね」
「その事件の記録を、見せていただけますか?」
「構いませんが——何か、理由でも?」
「リリア様から、調査の依頼を受けました」
バーナード隊長は、少し驚いた顔をする。
「リリア様が——そうですか」
「あの事件、確かに不可解な点がありました」
「不可解な点?」
「ええ。真実魔法では無実と判定されたのに、有罪になった」
「私も、釈然としませんでした」
バーナード隊長は、資料室へ案内してくれた。
古い記録の中から、事件の報告書を取り出す。
「これです」
俺は、報告書を読む。
被害者:マーティン・グレイソン、五十二歳、商人。
発見場所:自宅書斎。
死因:刺殺。胸部を一突き。
凶器:短剣。ヴィクターの指紋が検出。
容疑者:ヴィクター・フォン・シルバーレイク。
動機:土地取引での対立。
目撃証言:事件前日、激しい口論。
アリバイ:なし。
真実魔法:「殺していない」→真実と判定。
だが、状況証拠により有罪——
俺は、報告書を何度も読む。
何か、見落としはないか——
そして、気づく。
「バーナード隊長、凶器の短剣は、どこにありますか?」
「証拠品として、保管されているはずです」
「見せていただけますか?」
「分かりました」
*
証拠品保管庫。
古い木箱の中に、短剣が入っていた。
俺は、慎重に取り出す。
刃渡り二十センチほど。装飾のない、実用的な短剣。
柄の部分——ここに、ヴィクターの指紋があったという。
俺は、短剣を様々な角度から観察する。
刃、柄、鍔——
そして、気づく。
柄の表面——微かな、不自然な光沢——
「これは——」
「何か?」
「この柄——何かが塗られていませんか?」
バーナード隊長が近づいて見る。
「言われてみれば——確かに、少し光沢がありますね」
「これは、もしかしたら——」
俺は、仮説を立てる。
指紋の偽装——
ヴィクターが実際に触った物から、指紋を採取。
それを、何らかの方法で短剣に転写——
可能なのか?
いや、この世界には魔法がある。
指紋を魔法で読み取れるなら、逆に転写することも——
「バーナード隊長、指紋鑑定をした魔法使いは、誰ですか?」
「確か——魔法使いギルドのエルヴィンという者です」
「話を聞けますか?」
「手配しましょう」
*
翌日、魔法使いエルヴィンが衛兵詰所に来た。
初老の男性。白いローブを着ている。
「私が、エルヴィンです」
「エドガー・クロウです。三年前の事件について、お聞きしたいことが」
「ああ、シルバーレイク家の事件ですね」
「はい。指紋鑑定について、詳しく教えていただけますか?」
エルヴィンは説明する。
指紋鑑定の魔法——『痕跡解析』という魔法。
物に残った指の痕跡を読み取り、視覚化する。
「この魔法で、短剣の柄からヴィクター様の指紋を検出しました」
「間違いありませんか?」
「はい。指紋は一致しました」
俺は、短剣を見せる。
「この柄の表面、何か塗られているように見えますが」
エルヴィンは、短剣を手に取る。
しばらく観察して——
「……確かに。これは——蝋のようですね」
「蝋?」
「はい。薄く塗られています」
蝋——
俺は、ひらめく。
指紋の転写方法——
ヴィクターが触った物から、蝋で型を取る。
それを短剣の柄に貼り付ける。
指紋鑑定の魔法は、蝋の型も「指紋」として認識する——
「エルヴィン殿、指紋鑑定の魔法は、蝋の型でも反応しますか?」
エルヴィンは、考え込む。
「……理論上は、可能です」
「蝋の型も、指の形状を持っていますから——」
「魔法は、それを『指紋』として読み取るでしょう」
やはり。
これは、指紋の偽装だ。
「では、この短剣の指紋は——」
「偽装された可能性があります」
エルヴィンが、驚いた顔をする。
「そんな——では、ヴィクター様は——」
「無実です」
俺は確信する。
「陥れられたんです」
*
その日の夕方、俺はリリアに報告するため、彼女の屋敷を訪ねた。
小さな、だが手入れの行き届いた屋敷。
リリアと、彼女の母親が出迎えてくれた。
「エドガー様、いらっしゃいませ」
「こんにちは、リリア様」
「母です。アリシアと申します」
母親——アリシアは、リリアによく似た女性だった。
だが、疲れた表情。三年間の苦労が、顔に刻まれている。
「調査の結果を、お伝えしたく参りました」
「はい……」
リリアと母親が、緊張した面持ちで俺を見る。
俺は、短剣の指紋偽装について説明する。
蝋を使ったトリック。
魔法鑑定の盲点。
リリアと母親は、涙を流した。
「では、主人は——」
「無実です。陥れられたんです」
「ああ……!」
アリシアが、リリアを抱きしめる。
「良かった……良かった……」
リリアも、母の胸で泣いている。
俺は、二人が落ち着くのを待つ。
しばらくして、リリアが顔を上げる。
「エドガー様……ありがとうございます」
「まだ、解決していません」
「これから、真犯人を見つける必要があります」
「真犯人——」
リリアが、真剣な顔をする。
「誰が、父を陥れたのですか?」
「それを、これから調べます」
俺は、ノートを開く。
容疑者——
マーティンの関係者。
ヴィクターと対立していた者。
指紋の偽装方法を知っていた者——
「リリア様、マーティンの息子について、教えてください」
「息子——レオンですね」
「はい。彼が、決闘裁判を申請しました」
「レオンは——父を恨んでいました」
リリアが説明する。
レオンは、父マーティンの跡継ぎ。
だが、放蕩息子で、商売には興味がなかった。
マーティンとレオンは、よく口論していた——
「そして、マーティンが殺された後——」
「レオンは、どうなりましたか?」
「商会を継ぎました。そして——」
リリアは、少し躊躇する。
「土地取引で、利益を得ました」
「土地取引?」
「はい。父とマーティンが争っていた土地——」
「レオンが、格安で手に入れました」
「父が投獄されたため、誰も異議を唱えませんでした」
俺は、ノートに書き込む。
レオンの動機——
父を殺し、ヴィクターに罪を着せる。
商会を継ぎ、土地も手に入れる——
全てが、レオンに都合良く進んでいる。
「レオンに会えますか?」
「おそらく——商会にいると思います」
「明日、訪ねてみます」
俺は立ち上がる。
「必ず、真相を明らかにします」
リリアが、深々と頭を下げた。
「お願いします、エドガー様」
お読みいただき、ありがとうございました!
第八話、リリア登場です!
銀色の髪、青い瞳の没落貴族の少女——
父の冤罪を晴らすため、エドガーに助けを求めます。
今回のポイント:
- リリアの初登場シーン
- 父の冤罪事件の概要
- 指紋偽装トリックの発見
そして、次回は後編!
真相の解明、そして——
リリアとエドガーの関係がどう変化するのか?
前後編の連続回、後編もお楽しみに!
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次回もお楽しみに!




